『良い子の振る舞い3』



アヤセの見事な挑発により、堕天使ウコバクは怒り絶頂。

はため息をつき背後の麒麟とソルレオンへ命令を出す。
「ぺるそなぁ!」
《永遠の白》
銃を手早く制服のポケットに仕舞い込み、片手を高く掲げる。
の叫びに応じ、麒麟が魔法を発動させる。
怯んだウコバクにすかさず攻撃の第二段。

「雑魚がいちいち吼えてんじゃないわよっ」
《マハブフダイン》
苛立ただし気に が再度叫び、ソルレオンは応じて氷の魔法を唱える。

目を丸くするアヤセを他所に 達は短時間でウコバクを退治してしまった。

「ア、アンタって……」
アヤセが目を丸くして、 の上気した顔をマジマジ見詰める。

見詰めるというか、穴が開くほど凝視してきた。
ついうっかり調子に乗ってしまった
後悔先に立たず、である。

「あ、あ、あの! これには深い訳が」
胸の前で両手を左右に振って動かし、 が弁解の言葉を口に出そうとした瞬間。
アヤセはニンマリ笑ってお馴染みの台詞を吐き出した。

「ぺるちゃーん」
気だるげに呼ぶアヤセに応じ、アヤセを中心に円形に光る柱から赤い衣服を身につけた少女が姿を見せる。

《我は汝、汝は我。我はMAGICIAN・フーリー。以後、よしなに》
真っ赤な衣服の少女は小さく一礼して、アヤセの中へ戻っていった。

「はえ?」
口を開けてポカンとした顔でアヤセを見返す に。

「なーんだ、アンタもアヤセと同じペルソナ使いだったんじゃん」
と。アヤセはにっこり笑って に手を差し出す。
急に優しい雰囲気で に接するアヤセに は呆然とするばかり。

「てっきりアンタは無関係かと思って〜。だってさぁ? 知ってる? ペルソナ呼べない奴等は悪魔に襲われないんだよ。ヘンな話、みたいな」

肩を竦めて事情を説明し始めたアヤセに は首を縦に振る。

「原因は多分ペルソナ様だと思うんだよね、アヤセ的には。アンタもペルソナ様したことある? フィレモンとか言うヘンな白スーツの夢とか見なかった?」

はアヤセの早口に言葉を挟めずもう一度首を縦に振る。

「こんなんだったら、ペルソナ様するんじゃなかった気もするし。だってメンドーじゃない? 悪魔に狙われるなんてさ〜。
ま、でも。アヤセ自身をアヤセの力で守れるなら、逆にして良かった気もするし。なんかビミョー」

両腕を頭の後ろで組みアヤセはこう話を締めくくった。
はアヤセの話を聞き終わってからゆっくり息を吐き出す。

「あ、ゴメ。アヤセちょっと早口だった?」
の顔色を窺うアヤセに、 は首を横に振る。

「違うんです、なんか……」
そこまで言いかけた の考えを裏切ってアヤセは豪快に笑い出した。
「なに? アンタ二重人格!? それとも良い子ちゃんぶってる猫被り? さっきは雑魚が吼えんなとか言ってたクセに。ギャップありすぎ〜」
屈託なく笑うアヤセに は脱力して肩を落とす。

 な、なんかアヤセさんって……。
 自分に正直って言うか、遠慮ないって言うか。
 容赦ないコメントするなぁ。
 普通初対面のわたしにそこまで言う? しかも笑ってるし。

は黙ってアヤセが笑い止むのを待つ。
数分もすればアヤセの笑いの波も引いていく。

「はぁ〜、可笑しかった」
一頻り笑ってからアヤセは目尻の涙を指で拭った。
「なんか、別にアヤセには関係ないしどうでもいいけど。アンタってさ、見ててちょっと不愉快? みたいな。無理して笑ってて楽しいの?」
愛想笑いを咄嗟に浮かべた へ、アヤセが素朴な? 疑問で片付けるには、少々毒のある物言いで聞く。
の顔は強張った。

「そりゃ初対面だし? べっつに無理してアヤセに合わせる事もないけどさ〜。ペルソナ使えんだから多少自分勝手でもヘーキじゃない?」
「自分勝手と自由は違います」
ムッとして今度はアヤセを睨みつけて。 は素っ気無く言い返した。
「はぁ? アンタ妙に良い子ぶってる? それともそれが素? 先生や大人みたいな説教ならアヤセパス1」
「別に良い子ぶってなんか。皆そう言ってるじゃないですか」
アヤセの対応が一々癪に障る。
は内心の不快感を露に言った。

「皆が、かぁ」
今度はアヤセが複雑な顔で呟く。

「確かに。アヤセも皆とバカ騒ぎして遊んで、毎日楽しいよ。
皆と同じにルーズはいて、髪も色抜いて。ゲームもするしオールでカラオケもする。
アンタだってアヤセを見て最初に思ったでしょ? こいつコギャルだって」

一見テンションの高そうなアヤセが、無表情に近い顔で へ視線を送る。

「アヤセはコギャル。それがアヤセの立ち位置。アヤセは我儘で自分勝手でその日が楽しければいい、そう考えてる女子コーコーセー。でも」

一旦言葉を区切ってアヤセは工場の天井を睨んだ。

「この楽しい、が永遠に続くって考えてるほど。バカじゃないんだよ」

酷く冷めた目つきで天井を見上げるアヤセに、 は近親感を抱く。

 同じ。わたしと同じ。
 形は違うけれど、わたしと同じ、本当の自分を隠して埋めて。
 仲間外れにされないように必死で足掻いてる。

「こんなヤバい時に猫被ってても得になんないでしょ。アヤセもアンタと同じペルソナ使いなんだよ」
無意識に握り締められたアヤセの拳から覗くマニキュアが、 の視界に鮮やかに映った。




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