『良い子の振る舞い1』




 ペルソナ。

 優しいわたし、意地悪なわたし。
 色々なわたしが表に出た姿。

 ぐらいあすの名を受け継ぐわたしに遣える存在。

 ぐらいあす。

 なんか大袈裟な感じになってきたけど。
 わたし、何を考えて動けばいいのかな。

 どうしたら。わたしがしたい事を、出来るようになるんだろう。

アラヤ神社から廃工場へ。
歩きながら は漠然と不安を覚えていた。

《どうかした?》
の変化にいち早く気付きソルレオンが近寄ってくる。
浮かない顔のまま はソルレオンを見下ろした。

「わたしって現金なの。ぐらいあすだって聞いて、ちょっと嬉しかったり。でもフィレモンに御影町の話や、デヴァなんとかの話を聞くと。
わたしは関係ないんだから巻き込まないでよって言いたくもなる」

 誰かを。
 そう、麻生達を始めとする聖エルミン生を助けてあげたい。
 自分に力があるのなら。
 マイちゃんの望みをかなえてあげたい。
 アキちゃんの孤独を癒してあげたい。

 自分に力があるのなら。

「ぐらいあすの素質は持ってる。でもわたし、まだ、完全にぐらいあすじゃない。この状態のわたしが何をしたら良いのかな?」
出来るのはソルレオンや麒麟と共に悪魔を倒す事だけ。

事件に巻き込まれた一般人よりかは遥かに有益な人材だろうが。
一人で何が出来るのだろう、と。
心細く思ってしまう不安な気持ちは止まらない。

「頑張れるって思った途端に不安になる。わたし、自分に自信がない子だからさ。他の子は、なんか堂々としてて羨ましいなぁ」

 クラスのリーダ格の男子生徒や。
 子供らしさより女らしさが増してきた女子生徒。

 大人って言うかイマドキの高校生らしくなってく皆と違って。
 容姿はまぁハーフだからそれなりだけど。
 思考も行動も態度も。

 ぜーんぶ。劣ってる。

 堂々と笑っていたい。
 意見を言ってみたい。
 自分がしたいように振舞いたい。

「本音で付き合える友達欲しい……」

 あーあぁ。

ため息つくわたしにソルレオンは身体を振るわせた。
犬が毛の水分を振り払うように。

《堂々としている子にも、その子なりの悩みはあるものよ》
ソルレオンは目だけで の顔色を窺う。
「そりゃそうだけど。毎日楽しく生きてるよーに見えんの」
拗ねて は口先を尖らせた。
そこまでソルレオンと話していて は立ち止まる。

の進行方向に六対のゾンビが。
「……」
面倒臭そうに は銃を構える。
麒麟はゾンビを興味薄く一見し、ソルレオンは大きな口を開き欠伸を漏らした。

《逮捕だ! 逮捕》
警官服を身につけたゾンビが へ銃口を向ける。

「ぺるそなー!!」
銃を構えたまま は叫ぶ。
を中心に円形の青い光が巻き上がり、呼応してソルレオンの身体も青白く光る。
《メガントレイド》
ソルレオンは飛翔し、ゾンビ警官の一体を押しつぶした。
「更に、ぺるそなー!!」
今度は麒麟の身体が青白く光り、角は黄金色の輝きを放つ。
《マハコウハ》
麒麟の口から紡がれる聖なる呪文は呪詛となりゾンビ警官を包み込む。

は実体化中のペルソナ二体を銃で援護。
ゾンビ警官の足元を狙って打ち込む。
何発かは の寝ら言った場所へ玉がめり込み、何発かは外れで何処かへ飛んでいく。

基礎能力が高いペルソナ二体を備えた に敵なし。

ゾンビ警官は低い呻き声を上げながら姿を消していった。

「ふぅ」
ゾンビの異臭に鼻を摘み、 は足早に戦いが起きた道端を過ぎる。
《あのレベルで歯向かってくるなんて、春ボケかしら?》
あれ位は軽い準備運動。
疲れの片鱗さえ窺えないソルレオンは軽快に歩を進めながら、隣の麒麟へ喋りかけた。
《我々の知るタイプとは違う悪魔と見なすが妥当》
麒麟やソルレオンが実体を持ち生活していた時代に、警官は存在しない。
ましてやそれがゾンビ化することもなく。
時代の流れというか、悪魔を世界に送り込む第三者の意識の問題が大きいのかもしれない。
《そうねぇ》
もう一度大きく口を開けて欠伸を漏らし、ソルレオンはのんびり同意した。
黙って二体の会話に聞き耳を立てる。

 わたしを。ううん。ぐらいあす、を守る存在だった麒麟とソルレオン。
 やっぱり強いよね。能力もわたしが想像してるより高いみたい。

自分の分身でありながら、他のペルソナ使いとは趣が異なる麒麟とソルレオン。
頼もしく思える。

世間話(?)に花が咲くソルレオンと麒麟。
(しかし、途中からは一方的にソルレオンが語っているだけで、控え目な麒麟は相槌を打っていただけ)会話を聞きながら、 は疲れてきた足を誤魔化し。
漸く廃工場入り口に辿り着く。

「不気味」
工場として機能しない、無人の工場。
不気味さは普段見かけるときより三割増し。

足が竦んで立ち止まる を尻目に、麒麟とソルレオンは堂々と網フェンスの鍵を食いちぎり、内部へ足を進める。

「ちょ、少しは躊躇ったりしないのぉ?」
取り残されそうになり、焦った は二体の背に声を投げた。
《こんな時に躊躇うもないでしょう》
僅かな呆れの混じったソルレオンの返事と。
《虎穴に入らずんば虎子を得ず》
ご尤もです。
返事を返したくなる理路整然とした麒麟の端的な答えに。
「普通の中学生気分じゃ駄目なのかなぁ」
胸の奥を侵食する不安感に苛まれながら。
は壊れた入り口から廃工場内部へ、二体の仲間を追って入っていくのだった。




Created by DreamEditor                       次へ