『再会3』




警察に怪しまれたら困る。

たったそれだけの理由で、 達は住宅街にひっそり存在する公園へ移動した。
公園のブランコを囲んで座り、稲葉が途中のコンビニで飲み物を調達してきて全員に配る。
ブランコに座り、 は改めて三人の元聖エルミン生を見た。

「ありがとう」
改めて礼を言う。
の正直な感謝の気持ちに、彼等は照れて俯く。

「乗りかかった船みてーなモンだしな」
にかっと笑い稲葉が勢いよくペットボトルの蓋を開く。
照れを誤魔化すようにグビグビペットボトルのコーラを飲み干していく。

「仕方ないでしょ〜、あんなイミシンに言われたら。それなりに気にするじゃん」
キツイ口調は健在。でも表情や仕草は格段に柔らかくなった。
アヤセが言いながら、稲葉と同じようにペットボトルのキャップを開ける。

「どうしてわたしが、あの事件のときと同じ格好なのか。それから説明するね。……麒麟、お願いしていーい?」

 へらり。

両手を合わせて麒麟を拝み倒す に。
ソルレオンが大爆笑して、性格というか性質が如実に出ている のペルソナに残り三人が驚いて。
非現実を囲みながら、案外フツーに時間は過ぎる。
麒麟は渋々ながらも。
一番客観的に説明できるのが己なので、仕方なく の辿った時の旅を解説し始めた。

麒麟の少し低めの声を耳に、 はブランコを漕ぐ。

 時間にしたら半日? 六時間かな、それとも十時間くらいだったのかな。
 長いようで短い。にしても、無事戻ってこれてよかった……。
 フィレモンには担がれた。
 結局、園村さんの感情に引かれて、わたしのパンドラがあの世界に巣食っていたの。
 それが黒いガイアみたいにドロドロになってて。
 麻生さん達が危険に曝されるかもしれないから。

 だから、持ち主のわたしを誘き出して。
 グライアスだ。なーんて、甘い話を持ちかけて。
 実際の肩書きはそーなのかも、だけど。
 わたしが調子に乗って勝手に首を突っ込むよーにしてさ。

 タチ悪い〜!!!

ギコギコ、ブランコを揺らし は自分の考えに浸る。

 混沌の鏡が巻き起こした力。
 それに惹かれて来た負の感情。
 本来ならフィレモンの仕事なのにさ〜。
 わたしに戦わせるなんていー度胸してんじゃん。
 麻生さんや稲葉さんアヤセさんともう一回会えたのはラッキーだったけど。

 フィレモンのコトだから、コレも仕組んでたんだろーね。きっと。

注意を麒麟へ向ければ丁度、麒麟が園村やアキなどとの別れを説明していた。

「よく頑張ったなぁ」
感心する稲葉に は首を横に振る。
「自分から首を突っ込んじゃって。引っ込みがつかなくなっただけ。帰るに帰れないジョーキョーだっただけなんだ」
情けない顔で言い訳して、 は自分が受け取ったスポーツ飲料入りのペットボトルを開けた。
黙って緑茶を飲んでいた麻生が片眉を持ち上げる。
「ちっちゃい自己満足。だけど冒険してよかったな〜」
締めくくる にアヤセがため息をつく。
「そりゃー、後ろから着いてくだけなら楽だったよね。アヤセ達なんかケッコー、ヤバかったし。死にかけたし〜」
の隣のブランコに座ったアヤセは両足を動かし悶えた。
「まぁ、まぁ。こうして無事に生きてるわけだから」
麻生が剥れるアヤセを宥めている。

穏やかな空気の中に混じる『そろそろお開き』の気配。
敏感に感じ取って はブランコから立ち上がった。

「わたし、まだケータイとか持ってなくて。でも今年の高校受験、内部受験に合格したら買って貰えるんだ。そしたらメールとかしていい?」
早口に一気に捲くし立てた の台詞。
「いーに決まってんでしょ。これだけアヤセのこと巻き込んどいて、知らん振りすんならシメるよ」
表面上、怒ったフリしてアヤセが鞄からメモ帳を取り出す。
慣れた手つきでペンも取り出しメモにペンを走らせる。
「はい。合格したら電話ちょーだい。なんだったらアンタの住所教えなさいよ、葉書くらい出してあげるから」
メモを切り離しアヤセが言う。

はアヤセにメモ三枚を貰いペンを借り。
自分の住所をメモして麻生と稲葉にも渡した。

「俺は留学するからな。エアメール、になると思うぜ」
そしたらアドレスとか教えるよ。
言いながら稲葉は の頭の髪を乱暴に乱す。

「俺も留学なんだ。暫くはふらふら旅してるかもしれないけど。手紙は出すよ。落ち着いたらメールも教える」
麻生もちゃんと約束して。
逆に自分の住所を へ教えた。

稲葉は家の母親が煩いからそれだけは勘弁してくれ。
とのことだったので、 は稲葉からの手紙を楽しみにしてるとだけ言った。

「そのうち、他の皆さんとも会えるといいな〜。あっ、城戸さん元気ですか? 園村さんの病気はどうなりました?」
紙を丁寧に折りたたんでポケットに仕舞い。
それから は気になっていた人物の名前を挙げる。

「麻希ならちょー元気。病気もあの後すぐ治って、一緒に遊んだりしたよ。フリーホール連続10回!!」
アヤセが園村の元気な様子を教えてくれた。
フリーホール、の言葉に稲葉と麻生が顔色を悪くする。

「城戸のヤツは相変わらずだけどよ、ちょっとは丸くなったぜ」
「レイジは器用貧乏だよな」
稲葉→麻生の順に今度は城戸の情報が に齎される。
ぶっきら棒だけど心根は優しい城戸の姿を思い起こし は麻生の意見に同意した。

「そのうち、アヤセがユキノや麻希、エリーなんかに紹介してあげる。アヤセは短大狙いだから、勉強関連は教えらんないけど。麻希も結構アタマ良いし、エリーなんかは英語得意だしさ」
ブランコを漕ぎながらアヤセが言った。
「うん」
アヤセの気遣いに は嬉しい気持ちを込めて返事を返す。
「困ったことがあったら助けるぜ」
稲葉が胸を叩いて言う。
「城戸に伝えておくよ、 のコト。それから機会があったらブラウンや南条にも会ってみる? 個性は強いけど良い奴等だよ」
麻生が最後に口を開いた。
「楽しみにしてます」
不思議とコレで終わりという気がしなかった。
アヤセや麻生が言ったように、彼らとも直接話す機会があるような気がしていた。




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