『再会4』




公園で麻生達とは別れた。

別れといっても恐らく一時的なもので、約束したとおりに連絡は貰える。
確信しての別れだからこそ、一時的、なのだ。

「捨てたつもりだったんだけどね〜」
エルの杖、を片手に は思いっきりブランコを漕ぐ。

《いいじゃないの。エルの杖が改めて を選んだんだから》
ソルレオンがあっさり結論を下す。

「そうかな〜、なんか、違う気もするけど。威力ありそーだから、いっか」
ブランコが揺れるままに任せ は考えを纏める。
《安易》
麒麟は深く考えない を短い単語で非難する。
はムッとして頬を膨らませた。

「いーけどさぁ。いーけど。あの黒い蝶。フィレモンとは反対側のアイツ。何か企んでる気配がすっごいするし。いやーなカンジ」

 がしゃり。

ブランコを繋ぐ鎖が擦れ合って奇妙な金属音を奏でる。
は春風に身を任せ少しの間ブランコと一緒に揺られていた。

「……お帰りなさい」
漸く言いたい言葉を切り出して、 は揺れの収まったブランコから降りる。
「お帰りなさい」
両手を広げて は麒麟とソルレオンを抱きしめた。

 あの時は、わたしが帰らなきゃいけなかった。
 今度はこの二人の番。
 ずっとわたしの傍に居て戦ってくれて。
 誰よりも近くて遠い、わたし。

 やっと帰ってきたね。

万感の想いを込め麒麟とソルレオンを抱き締め、 は目を閉じる。
ソルレオンの息遣いに麒麟が身じろぎする様子。
身体で感じて改めて思う。

 思い出せてよかった。
 楽しい思い出ばかりじゃないけどね、思い出せてよかったって。
 本心からいえるよ。

時間にすれば数分間。
の体感時間からすれば結構長い間。
麒麟とソルレオンを抱き締めていた は空を仰ぎ拳を振り上げた。

「うっし〜!! 受験が終わったらフィレモン引きずり出して一発殴るぞ〜!!」
態の良い英雄役なんて真っ平御免だ。
資格もないし、そこまでの正義感もない。

あるのは譲れない自分の中の価値観だけ。
の決意に麒麟は疲れきった顔で息を吐き出し。
ソルレオンはツボに入ったようで噴き出す。

《そう……ねぇ、まずは高校受……験に合格しないと》
笑いながらソルレオンが妙に現実的な言葉を吐き出した。
「そーなんだよ〜。持ち上がりだから、一般受験の来年じゃなくて。年内受験ってのがラッキーて言えば、そーなんだけどね」
も応じて一人うなずく。
短いようで長い時間はあっという間に過ぎ去っていった。




 からん。

アイスティーの上に重なり合った氷が音を立てて崩れた。
外側についた水滴を気にしながら はストローを口に咥える。

「くひふぇふっふぇる……口で言ってるほどタイソーな冒険じゃなかったよ」
全てを話し終わったら対等に相手してくださいね。
前置したとおりタメ口を舞耶へ放って は最後を締めくくった。

「体験したことをノートに纏めておいたのは面白いね」
ゆきのは の持参した大学ノートを手に関心頻りである。

「作られた出会い・文字通りフィレモンに仕組まれた出会いだったから。

目覚め・ペルソナ使いとして目が覚めたって意味で。

過去の遺物・エルの杖のコト。

異界の誘い・偽りでもキョコー御影町は、異世界みたいに思って。

良い子の振る舞い・わたし妙に良い子ぶってたから……。演技者達・麻生さん達も、園村さんもわたしも含めて。踊らされて演技してたみたいだったし。

楽園観察・園村さんにとっては楽園、だったから。

森の奥の鼓動・そのまんま。わたしが忘れた自分の影の鼓動。

ハーレムクイーン・彼女と戦う麻生さん達には驚いちゃった。でも宮殿? は本当に逆ハーレムでだったよ。

彼等と彼女の選択・麻生さん達の選んだ道とわたしの選んだ道。アキちゃんが望んだ道。全部が交わることはなかったけど。

デヴァ・ユガ・神取がそう名づけたって後で聞いたから。

彼女の仮面・わたしの仮面。園村さんの仮面。人がつける仮面を示して。

パンドラ・彼女の綺麗な部分と恐ろしい部分。それからわたしも持ってるパンドラも意味するの。

最後は再会。わたしに再会して、麻生さん達に再会したから」

ノートに綴った文字を指でなぞって。
流れるように懐かしむように。
は一気に言葉を口にする。
はー、深呼吸して はもう一度アイスティーをストローで啜った。

「……含みを持たせるとしたら、こうしてマッキーとも再会できたし。そーゆうイミでは再会ってなるかな〜、なんて」
ニッコリ笑う に。舞耶は一瞬目を見張り、それから柔らかい表情を浮かべる。
「面識があるのかい? マッキーと」
ゆきのが驚いて の顔を覗き込む。
「あるって言えば、あるし。ないって言えば、ないのよ。ユッキーv」
弾んだ声で舞耶が答える。
も舞耶の言葉にうんうんうなずく。
「?」
顔いっぱいに疑問符を飛ばすゆきのに、 と舞耶は顔を見合わせて笑いあう。

「それにしても、今回は濃いメンバーだったよね〜。今度アヤセさんとお茶した時に教えてあげようっと。克兄とか、パオとか。ナンナンとかって面白いよね」
テーブルの上に手を置いて は両手足をゆっくり伸ばした。
「???」
益々ワケが分からない。
そんな顔をするゆきのに、 はプリクラ帳を取り出す。

「これが達兄の、克兄〜。外見はイケメンだけど、中身は超真面目な刑事さん〜。ネコ好きーなペルソナ使い。
でパオは、元検事? みたいなんだけど〜。ロンゲで面白いんだよ。最後に御馴染み一番アイテム使いのナンナン〜」

あの事件を通して知り合ったペルソナ使い達。
舞耶とうららと一緒に脅して。
エリーも呼んで一緒に撮ったプリクラ。
一つ一つを指差して は説明する。

ゆきのも最初は興味津々だったが、南条やエリー。
ブラウンといった懐かしい顔のプリクラに表情を緩ませる。

「折角だから、ユッキーともプリクラ撮る?」
手をぱちんと叩いて舞耶が提案した。
「あ、撮りたい〜vv ほら、城戸っちと城戸っちの奥さん(予定)v 一緒に撮ったんだよ〜」
舞耶の提案に同意して、 は最新プリクラを指差す。
澄ました顔でストローに口を近づけていたゆきのが、何も飲んでないのに咽返った。
「レアなのは行方不明のただしさんとたまきさん。三人で撮ったやつかな〜」
ページをめくって一つのプリクラを示し、 が尚も喋る。
「へぇ〜。このフレーム可愛いわ〜」
舞耶もマイペースでフレームを指差し のノリについていっている。
常識人? ゆきのだけは額を押さえてため息をついていた。

後数分もすれば。
の悪戯によって呼び出された克哉と達哉が。
互いに互いの呼び出しを知らずにこのカフェにやってくる筈で。

 どーやって遊びましょーか?

なんて。
舞耶とプリクラを何処で撮るかの相談をしながら。
はこっそり考えていた。

この日のプリクラはゆきのも、舞耶も。
克哉も達哉も。
いつものペースを崩されて、それでも楽しそうに の我侭に付き合ったのだった。




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