『再会2』




呆けて自分を見上げている の頭に片前脚を乗せ、ソルレオンは豪快に笑った。

《馬鹿ねぇ。たとえ がグライアスじゃなくたって、私は貴女よ》
ペルソナは、ペルソナ使いの心の海から生まれ出(いず)る存在。
肩書きによって出現したり、しなかったりするものではない。

「ペルソナが喋ってる……」
稲葉が目を剥いて驚く。
麻生はコレを見るのは二度目なので、比較的落ち着いていて。
アヤセは絶句中。
仮にも戦闘中だというのになんとものんびりしたメンバー。

《質問があるなら後で答えるから、戦っておかないかい? 君達》
黒きガイアの攻撃を一人(一体?)防ぐルーが、皮肉交じりに四人へ声をかけた。

「あ、ごめん」
すっかり黒きガイアの存在を頭から消し去っていた が、最初に謝罪する。
慌てて砂利塗れのエルの杖(銃バージョン)を拾上げ構えた。

「調和の力よ」
狙いを定めて黒きガイアを撃ち抜く。
銀色の軌道を残し、銃弾は黒きガイアを貫いた。
四散する黒きガイアは蝶の姿を取って空高く上っていく。

「ぺるそなっ!」
が叫び、声に応じて女神は両手を組んで祈る。

《フォース》
女神の放つ調和の究極魔法。
フォースが天空より降り注ぎ、黒い蝶を次々に消し去っていく。
幻想的な光景を見上げ、四人は暫く言葉も無く立ち尽くした。

「お、終わったの、かなぁ……」
黒きガイアの気配が消えて は心許無げにひとりごちる。

《ああ、お疲れ様〜。なんとかなったな》
の背中をビシッと叩いてルーが呑気に、 の労を労う。
《ではこれにて》
最初に女神が姿を消し、次にルーがウインク一つ残して消えた。
麒麟とソルレオンは実体を保ったまま現実に留まり。
の両隣を陣取る。

「ふぇ〜、久々に使ったけど。まだ俺達はペルソナ使えるんだな」
妙に感心したように。
稲葉は自分の手のひらを見詰めて呟く。
「ホント、ホント。フィレモンってケッコー太っ腹だよね〜」
稲葉の考えに同意してアヤセも喋り始める。
「そうかな〜? わたし的には殴り倒してやりたい気持ちだけど」
さり気なく物騒な台詞を が吐く。
大人しい雰囲気を持つ の意外な言葉に、稲葉がギョッとした。

「園村さんを助けるためには必要だったのかもしれない。だけど、そのせいで麻生さん達、神取と戦って……。
非常事態だって言われたらそーかもだけど。人殺し、になっちゃったのに。フツー腹立たない?」
探る目つきで当事者三人へ疑問を投げつける。

「……確かに、殴る権利はあるかもな」
麻生が困った顔で笑う。

「うー。難しいことはアヤセパス、っていーたいトコだけど〜。勉強料ってコトにしておく。実際に悪いのはあっちだし死体も出てきてないし。
ペルソナの実証だって無理でしょ。誰も信じないよ」
アヤセの肝が据わった発言。
あっけらかんとした調子で断言したアヤセに、 と稲葉が同時に唸る。

「まぁ、なんだ。厳密に言やー、俺達はヒトゴロシだ。罪は拭えないけどな。園村の笑顔を取り戻せて、こいつらと知り合えたんだ。安いバイト料だったとは思えないぜ」
照れて頬を赤くする稲葉をアヤセが脇腹つつき、くすぐる。
突然のくすぐりに稲葉が顔を真っ赤にして大爆笑して。
それからアヤセに怒鳴り出す。

「えーカッコしーだよ、マークって〜」
拳を振り上げる稲葉から逃げ回り、アヤセが稲葉を囃し立てる。
「うっせーぞ! アヤセだって急に良い子ちゃんの仲間入りして。キモいぜ」
「ちょっと、言ったわね!」
互いに睨み合い火花を散らすアヤセと稲葉に。
麻生は耳元のピアスを弄り、立ち尽くす。

「手伝ってくれてありがとう。わたし同じペルソナ使いには、敬語とか、丁寧語。使わないことにする。今決めた」
麻生の隣に移動して、 がアヤセと稲葉の喧嘩を傍観したまま言った。
「ふぅん?」
の反応を楽しんでいるような麻生の相槌。
「それなりに差はあるかもだけど、抱えてるコトとか。フィレモンのこととか。共通項は多いしね、同じ場所ってゆーのかな。
そーゆう同じトコに立ってる人に遠慮すのも馬鹿らしいしさ」
互いにペルソナを呼び出して睨み合う。
そろそろ止めようかな。
なんて考えながら、 は自分の言葉の続きを麻生へ喋った。
「壁を造る必要が無い人には造らない」
悪戯っぽい笑顔を浮かべ、 は麻生の顔を見上げ笑いかける。
指先は互いに罵り合っている稲葉とアヤセを示したまま。

「一見細く見えても絆は何よりも強くて切れない」
の輝く瞳に目を細め麻生も同意。
二人してニヤリと笑って口に出すのは。

「「ぺるそなー!!」」
ソルレオンが氷結魔法を。
麻生の魔神が魅了の魔法を。

「「暴力反対〜!」」
対する稲葉・アヤセも負けてはいない。
綺麗に声を揃えて自分達のペルソナを召還する。

ペルソナの能力がぶつかり合い、空気が破裂するような軽い音。
弾けて消えて。

 当たり前のように使う力だけれど。
 望んで手に入れた力ではないけれど。
 命を危険に曝して得た確かな絆を手にする為に。
 必要だった力だから。

 否定はしない。力を恐れはしない。

 過去は取り戻せないよ。
 どんなに偉そーなコト言っても、しょーがないもん。
 誰もが皆後悔を抱えてそれでも生きてる。
 わたしだけが不幸なんじゃない。
 わたしだけが特別なんじゃない。

 ……って、考えても。稲葉さんやアヤセさん達を見てると。
 それさえも馬鹿らしくて仕方ないって思えちゃうよ。
 なるようにしかならない。
 出たトコ勝負でも、最後に良いトコ取りすればオッケーでしょ!!

「ぷっ……」
急に可笑しくなって は噴き出す。
ケラケラ笑い出した に毒気を抜かれ、稲葉もアヤセも麻生も笑い出す。
人気の少ないセベクビル跡地に四人の笑い声だけが暫くの間響いていた。




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