『再会1』





が我に返った瞬間。

アラヤ神社境内から、神社の中へ全力疾走してくる稲葉と麻生の姿が見えた。
必死な形相の稲葉に思わず表情が緩む。

 還ってきた。

神社の中に浮かぶ無数の仮面。
目の前には淡い光を零し飛ぶ蝶の姿。

「いいわ、今回は乗ってあげる。次はどーか分からないけどね。今回の責任は取るから」

蝶に素っ気無く告げて は神社の中から境内に下りる。
元気な姿を見せた に、稲葉は目に見えて安堵の表情を浮かべ。
麻生は微苦笑しながら へ手を振った。

「ごめんなさい、突然飛び出しちゃって」
服装も変わっている自分に自分で苦笑して。
それでも取り合えず、 は稲葉と麻生に頭を下げた。

「や、いーけど……よ???」
言いかけた稲葉も の服に気がつき口を噤む。
は分かり易い稲葉の態度にクスクス遠慮なく笑った。

「お久しぶりです、麻生さん」
混乱している稲葉を放置して、 は麻生へ向き直った。
「君にとってはそうじゃないだろ?」
やんわり穏やかな口調ながら、きっちり切り返す麻生の言葉に は答えなかった。
黙って笑っていればきっとそれだけで麻生は察するだろう。
「自分探しの旅ってゆーのは、困難が付き纏うモンなんですよ」
しれっとした顔で言い切って は歩き出す。
「そう」
麻生も深く追求せずに に従って歩き出した。

稲葉といえば腕組みしてウンウン唸っていたが、置いてけぼりをくらいそうになって慌てて一歩を踏み出す。

「オイオイ! お前ら知り合いかよ」
裏手で律儀にツッコむ稲葉。
驚く稲葉に、 と麻生は揃って笑う。
「ビミョーなラインです」
笑顔のまま曖昧に返事をする
「後で詳しく話すよ」
麻生は手をヒラヒラ振って稲葉の言及をかわす。

「もう一人、待ち合わせしている人が居るんで。急ぎましょう。まだ燻っている種火があるんです。その種火はわたしにしか消せないから」
笑っていた表情を引き締め は急ぎ足で歩く。
アラヤ神社を出て、住宅街を抜け。
大通りは避けて今は更地になっているセベクビルの前へ向かう。

世界中を震撼させ、いまだその実態は明確になっていないセベクスキャンダル。
その舞台となった、と公には発表されているビル跡地。
事件後は色鮮やかだった黄色い縄のロープを押しのけ、 は更地へ足を踏み入れる。
砂利を踏みしめる靴の感触。
頬を撫でる風の冷たさ。

 感じる。

仁王立ちしながら は考えた。
あの時。
混沌の鏡を使って破壊した町から零れた感情。
負の感情が渦巻く独特の雰囲気が の肌を刺す。

「はぁ〜時間ギリギリ……って!? 麻生に稲葉!?」
走って に近づく第三の影。
素っ頓狂な声を発して麻生と稲葉を指している。
「「アヤセ!?」」
麻生も稲葉も。
流石に驚いて逆に走ってきたアヤセを指差し返した。

だけがこうなった経緯を理解していて笑顔。
アヤセと稲葉が揃って に問いかけようとして。

ソレ、は現れた。

《ファアファアアファファファ》
老人と老女の声が二重に聞こえる独特の笑い声。
黒い塊。
見えるのは真っ赤な瞳と真っ赤な口。
明らかに敵意を四人へ向け威嚇するかのように咆哮した。

「ちょ、ちょっと! ちょっと! ナニアレ!!」
上ずった声音で黒い塊を指差してアヤセが絶叫する。

「黒きガイア。人の負の心が集まった集合体。セベクスキャンダルに巻き込まれた全ての人々の負の感情によって生み出された。一種のペルソナ、みたいなモノです」

黒い塊・黒きガイアが哂う度に舞い上がる風。
砂。
は眉を顰めアヤセの疑問に答えた。
稲葉は口に入った砂を吐き出して鼻を鳴す。

「んだよ、つまりコレも神取の置き土産ってワケか?」
細かい疑問はさておき。
目の前の難題に対処しなければいけない。
事情を飲み込んだ稲葉は頭を切り替え、現実的な質問を へ放つ。

「当たらずとも遠からず。さっさと倒しちゃいましょう。詳しい説明はその後です」
手のひらを黒きガイアへ向け は大きな声で三人へ言った。

「早くしなよ〜」
アヤセが機転を利かせて先制攻撃。
呼び出すのはあの戦いで召還した、幻魔。
ペルソナ召還時の独特の蒼い光がアヤセを包みペルソナが発動する。

《マハラギダイン》

アヤセの呼びかけに応じ出現したペルソナは火炎魔法を唱えた。
紅蓮の炎が黒きガイアを囲みその青白い炎で包み込む。

「ペルソーナァー」
独特のイントネーションでペルソナを呼び出すのは稲葉。
癖なのか片手を高々と掲げる。

稲葉と尤も相性の良いペルソナは破壊神。
青き肌を持つ高貴な破壊神はその逞しい腕を黒きガイアめがけて振り下ろした。

《らくようさんだんうち》
青白い炎を両断して破壊神の一撃は黒きガイアにダメージを与える。

「行くぜっ」
麻生も二人に倣いペルソナを発動。
魔神は優雅な所作で指先を黒きガイアへ向けた。

《てんきょうちばくだん》

破壊神のダメージを増長させるように。
新たな一撃を黒きガイアへ。
黒きガイアは怒涛の連続攻撃に低い声音で呻きながら、その身を細かく震わせた。

「……還る場所を見失った気持ち達よ。汝があるべき空の元へ還れ」
自分の中へ眠る調和の力。
は生まれて初めてこの力を自分の意思で引き出し始める。
を中心に円形の光が浮かび上がり、出現するのは四体のペルソナ。

「あ、あれ?」
が呼び出そうとしていたのは『ペルソナ・女神フォース』だったので。
予想外の展開に首を傾げる。

《まったく。 が勝手に杖を捨ててくから。拾って還るのに苦労したのよ》
呆れた声音で を叱るソルレオン。

《……》
麒麟に至っては言葉もないようで。
不満がありありと浮かぶ眼差しが を捉える。

「ご、ごめん」
謝った の足元へ。
麒麟は咥えていた光り輝く銃を落としたのだった。




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