『楽園観察4』




サンモールを出た瞬間、遭遇したのは巨人だった。

《オーガ》
巨人の名を呼び麒麟が身構える。
ソルレオンは を庇うように、その前方に立った。

は腹を立てたままだったので、無言で銃を抜き放ち発砲した。
空へ向けて。

「こちとら機嫌が悪いんだよ。さっさと失せるか、とっととかかってこい」
幾分目の据わった が低い声でオーガに警告する。
オーガ達は互いに顔を見合わせ を嘲笑し一斉に飛びかかろうとして。

「ぺるそなぁ〜」
《メギドラ》
一体のオーガを残し、残り全てを麒麟の放つ核熱魔法が焼き払う。
焦げ臭い匂いと恐怖に怯えるオーガが一体。場に残る。

ガチャッ。

拳銃のトリガーに手をかけ、傍らに麒麟を従え はオーガに笑顔を向けた。

《ヒィイィ》
腰を抜かしたオーガは悲鳴をあげその場に座り込む。
銃口をオーガに見えるようチラつかせ は穏やかな口調で切り出した。

「うん、アンタ達がペルソナ使いを襲うのは、仕方ない。それがアンタ達の存在意義だ。使命だ。けど? こっちは忠告したよねぇ?」
怯えるオーガの足元が、ソルレオンの放つ冷気魔法で固まる。

「喧嘩売ってんのか? こら」
目がまったく笑っていない の笑顔。
青を通り越し白くなった顔色でオーガは首を左右に振った。
唇が土気色になっている。

《そ、そんな訳は》
「じゃあどんなワケだ」
言いかけるオーガの言葉を遮って は笑顔のまま、言葉を紡ぐ。

冷気魔法だけではない。
確実に下がっていく体感温度。
魔法もかけていないのに一気にTERROR3レベル。

オーガは意味不明瞭の言葉を口早に叫び、口から大量の泡を吹いて意識を手放した。

「……ちっ」
忌々しそうに舌打ちする と。
背後で豪快に笑い転げるソルレオンと。
複雑な顔でキれた を見る麒麟。

周囲にいた悪魔達は恐怖に慄き一斉に逃げ出す。

。遊ぶのはソレくらいにして、森へ行きましょう》
笑いすぎて泣いているソルレオンが、怖いもの知らずで へ言葉をかける。

ブチキれた の行動を『遊ぶ』レベルで表現できるのは、世の中広しといえどソルレオンだけだ。
妙に感心しながらも麒麟は先頭を切って歩き出す。
物陰に隠れて怯える悪魔が不憫でならない。
この世の終わりを見たかのような真っ青の顔。
訴えかける瞳を麒麟へ向けているからだ。

「ふんっ」
気絶したオーガを一瞥し、 は渋々麒麟について歩き始める。

《あははあはははっ》
まだ笑い足りないソルレオンが最後に笑いながら、 の後を追う。

一種異様な一人プラス二体は、悪魔に遭遇することなく道行く人に森を尋ね。
目的の場所、マイの家のある森へ辿り着いた。


森にはまだ の情報が齎されていないのか。
果てはマイを守る為に悪魔が配されているのか。
これでもか、という位悪魔達は絶え間なく登場し襲い来る。

「雑魚がいちいち吼えてんじゃないわよっ」
の掛け声でソルレオンが繰り出すマハブフダイン(氷結魔法)。
森の木々が真冬の北海道のように雪に埋もれる。

合間に的確に繰り出される麒麟の蹴りと の銃弾。
文字通り悪魔達を蹴散らして はどんどん森の奥へと進む。

《ガイア強き者よ》
怒りに任せて進む の耳に女性の声。
御影総合病院で遭遇したあの女性の声だ。
ギリシアチック( 命名)ドレスの女性である。

「あー、エルの杖のこと最初に言った人!!」
無遠慮に が女性を指差せば、女性は穏やかな表情のままうなずく。

《無事エルの杖は手にしたようですね、目覚めの力を持つ者よ》

場違いにも程がある。
ここは森の中で悪魔が沢山出る危険地帯。
綺麗さっぱり無視して己の用件を切り出すこの女性も。
中々どうして。
肝が据わっているというか、マイペースというか。

毒気を抜かれ、 は全身から放っていた殺気を四散させた。

《フォースの力は調和の力。ですが映画とは同質のフォースではありません》

にっこり。
無邪気な笑顔を浮かべる女性に、 は苦い顔つきで「ごめんなさい」と。
何故だか分からず条件反射で謝った。

《貴女に眠るフォースの力は、強きガイアの輝きに阻まれ表に出てくることが叶いません。ですが焦らないで下さい》

の頭を撫でて女性は静かに一方的に語る。

《調和の力は求めて得る力。貴女が心のそこから望んだ時、フォースの力は自ずと具現するでしょう。それよりも今はこの森の奥深く、蠢く異物を掃う事が大切です》

 すっと。

白い長い指が森の奥の方角を指差した。
女性の示した先に も顔を向ける。

「異物」
呟いて目を凝らす。
薄暗い靄のような霧の塊。

の瞳が捉えたと感じた瞬間、背筋を這い上がる悪寒に嫌悪感。
小さく身体を震わせて は自分の心に恐怖心が湧き上がるのを他人事みたいに感じていた。

《新たな力を貴女に授けましょう》

森の奥を指差していた女性の指が の額に触れる。

触れ合った部分から伝わる、何かの呪文。
言葉自体は、呪文自体はよく分からない。
それでも自分の奥深い部分が呪文を理解している。

《フォースのご加護がありますように》

唐突に現れて、唐突に消える。
空気に溶けるように消えた女性と、呆然とする
数分してからやっと は自分を取り戻した。

「ここはもう一つの御影町。偽りの御影町。アキちゃんが神様みたいな場所。そんな場所にギリシアチックの人まで来てるよ。
……まさか、今のギリシアチックの人も悪魔とか? にしてはまともだし、ミステリアスってカンジだし。それともアキちゃんが鉄ネズミと同じ感じで呼び出した?? とか?」

ぐるぐる周囲を回り が独り言を漏らす。

「言葉とか聞いてる限りじゃ、アキちゃんと関係なさそう。あああ、よく分かんないよ。悪魔は日常的に出るし、銃は売ってるし。サトミタダシは魔性の調だし。警察署のある場所に森はあったし。てか、この世界どーなってんのぉお!!!」

 どーなってんのぉ!!

絶叫する の悲鳴が、森の中で不思議と木霊していた。




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