『楽園観察2』
疲れきった顔でサンモール目指す
と。
《あれぐらいで諦めちゃ駄目よ?》
母親代わりだったソルレオンが釘を刺し。
《無理せずに》
麒麟は同情的に を慰める。
奇妙な一行は人気の少ない町を、サンモールへ移動する。
YIN&YANの店員から得た情報は、銃に関するものと。
サンモールの向こう側に森があって、そこで白い服を着た女の子が目撃されているというもの。
ただし。
森には最近悪魔が多数出没するらしく、準備を整えて行った方も良い。
との事。
黙って聞いていた に怒涛の武器説明を繰り出した店員。
ある意味商売上手である。
慣れない専門用語を聞かされた は頭がトーフ状態。
フニャンフニャンのグニュグニュ。
苦手な科学の授業を受けた後のように燃え尽き気味の
。
だらけていた。
「いまいち良く分からなかったから、聞き流してたけど。はぁ、疲れた」
見えてくる黄色いサンモールの天井。
サンモール内部に入って は口先を尖らせた。
悪魔が出るというのに手ぶらで森へ行くのは気が引ける。
《薬とか買っていく? でも麒麟がいれば心配要らないけど》
サンモール入り口で足を止める に、ソルレオンが気を利かせて問う。
は首を横に振って次に慌てて縦に降った。
「薬とかはいらないかなぁ。でも情報は必要でしょ。YIN&YANじゃ、この町のことはあんまり分からなかったし」
ピースダイナーに、千年万年堂。
サトミタダシにROSA−CANDIDA。
他にも本来なら細々した店が並んでいるのに、大部分はシャッターが下りていた。
「うーん、一応ピーダイでも……?」
言いながら歩いていて、サンモールの行き止まり。
袋小路に怪しい蒼い扉が。
の視界に飛び込んでくる。
《あら、ベルベットルームだわ。懐かしい》
蒼い扉に向かってソルレオンが歩き出した。
麒麟も咎めることなくソルレオンと共に蒼い扉へ近づく。
「……いっつもこのパターン。あぁーあ」
自分は肝心な部分で主導権を握れない。
はぼやいてから自分もソルレオンと麒麟の後を追って蒼い扉を潜った。
蒼い扉の向こう側。ピアノ伴奏に乗って紡がれる女性の歌声。
革張りの品の良さそうな肘掛け椅子に座る老人?
鼻、なっがっ!!!
の老人に対する第一印象はこんな感じ。
薄っすら口を開けてまじまじ老人を凝視していたが、老人に咳払いをされてしまい我に返る。
「こんにちは」
は無難に挨拶して頭を下げた。
「ようこそ、ベルベットルームへ。我が名はイゴール」
椅子に座ったまま老人・イゴールは名前を名乗る。
何度か瞬きをして
は「はぁ」なんて少しばかり失礼な返答を返した。
ピアノ伴奏と女性の歌声。
暫し聞き入ってから
は周囲を観察する。
サンモールには超場違い、だよねぇ。
元の御影町にはなかったし。
これも神取かアキちゃんが作ったのかなぁ。
にしては感じが違う。絶対違う。
興味津々の顔から、怪しむ顔つきになって、最後に考え込む顔つきに。
一人百面相する と大人しく
の行動を見守る二体のペルソナ。
「あ、あの。ここってナニ?」
逡巡してから
は直球でイゴールへ質問した。
「ペルソナを降魔・消去する場所です。また、得たスペルカードにより悪魔を召還し新たなペルソナを生み出します」
両方の眉を持ち上げてイゴールが簡潔に答える。
口を開けたまま数秒間固まった
は、己の口の状態に口を閉じた。
ゲーム? 冒険?
新しいペルソナってのは、必要だから生み出すんだよね。
脳裏に浮かぶのは麻生達の顔。
「しかしながら今回、貴女様には不必要のようですな」
イゴールは含みを持たせた言い方で、顎先で麒麟とソルレオンを示す。
はイゴールの言葉に頬を膨らませた。
今回は麒麟とソルレオンと協力して敵を倒せって事。
そりゃー、わたしは今回の事件の中心じゃないし。
つまり、この部屋はわたしの為じゃなくて。
鋭い目つきで青い装飾の室内を睨む。
一瞬だけ、金色の蝶が の目の端をかすった気がした。
妙に納得して
は目を伏せる。
「ええ、そうみたい。わたしに必要なんじゃなくて、貴方の知り合いが必要としてる。彼が。そうなるように仕向けた冒険者達が、ココを必要としてるから」
硬い声で言い切る
にイゴールは失笑した。
《そう変に頑なにならないの。今回はお世話にならないけれど、いずれまた彼等の力を必要とする時が来るでしょう》
よしよし。
ソルレオンが
の腕に鼻先を押し当てて宥めにかかる。
「分かってるから悔しい。当事者じゃないから上手く言えないけど。望んで戦ってるわけじゃないのに、ペルソナ使って戦って。ただの高校生じゃん、麻生さん達」
戦う義理などないのだ。
考えて は小さな声で自分の意見を口に出す。
言わなければ伝わらない。
猫被りは止める。
決めたから不満に思ったことも口に出す。
《それを言えば汝も中学生》
麒麟が揶揄する口ぶりで横槍を入れる。
「だけどっ! わたしの家は昔から不思議な力を持ってて。成れるか分からないけど、わたしはグライアスだよ。責任があるじゃない」
小さくなって胸ポケットに収まっているエルの杖が。
少し冷たくなった気がした。
不満を吐き出しながら、自分の気持ちが上手く伝わらないもどかしさに苛々する。
《
の主観と彼らの気持ちが同じとは限らないわ。さて、イゴール、元気そうでなによりだったわ。今後ともよろしくね》
おざなりに別れの挨拶を口にして、ソルレオンは をグイグイと。
出口に向かって押し出していく。
《いずれまた》
麒麟もイゴールへ別れを告げ、ソルレオンと一緒になって を部屋から押し出しにかかる。
が文句を発する間もなく、一行は慌しくベルベットルームを後にしたのだった。
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