『楽園観察1』




再度城戸と別れた は、周囲を注意深く見渡し。

人の気配が希薄なのを察して、頼りになる仲間の名前を呼んだ。

「麒麟・ソルレオン!」
を中心に円形の光が浮かび上がり、風が舞い上がる。
肩まで伸びた の茶色の髪の毛が上方向に靡いた。

《ここに》
軽く頭を下げた状態で出現するのは聖獣・麒麟。

《無事、あちら側とやらに着いたようね》
欠伸交じりにゆったりした調子で呟いているのが、聖魔獣・ソルレオン。

「なんとかね。ひとまず、城戸さんとは直接話せて。麻生さん達は見かけた。皆、この事件に深くかかわった人達なんだ。テレビじゃ報道してなかったけど」

一時期ワイドショーを賑わせた、御影町のセベクスキャンダル事件。
クローズアップされたのはセベクと神取。
町の住人のインタビュー等の報道もあったが、聖エルミン生である彼等の名前は一切表に出ていなかった。

「テレビはテレビ。視聴率とかがとれればいーんだし、麻生さん達がペルソナ使いだって証明できないもんね」
証明されたらされたで、麻生達は変人だと思われ社会から阻害される。

の場合は半分自業自得で、クラス中の子供たちから仲間外れにされたが。
容易に想像できる。

《さて、マイちゃんとやらに会いに行くのでしょう?》
考えが違う方向へ行ってしまうのをやんわり阻止。
ソルレオンが の考えを本筋へと戻す。
はソルレオンに小さくうなずいてみせて、歩き出した。

「マイちゃんの家。深い森の中にあったから、森を探せばいいんだと思う。黒瓜さんもこの町に森があるのは否定してなかったし。
後は情報収集をかねて、こっから近いYIN&YANに寄ってみよっかなぁ、って」

馴染みのコンビニチェーン店を頭の中に描き、 は人差し指をぐるぐる回す。

「操られっぱなしてってのは、性分じゃないの。だいたい、人の気持ちは強制されて揺らぐもんじゃないでしょ。ビミョーなことに、わたしは操られっぱなしだけど」

住宅街を抜け大通りへ抜ける。
静かで穏やかな雰囲気が漂う偽りの御影町。
神取が作ったにしては穏やかだ。

《自分からも動いてみようというわけね?》
愉快そうに瞳を輝かせソルレオンが念押しするように問うた。

「そっ。なーんにも分からないで、真っ直ぐ走ってくのは麻生さん達にお任せ。どうせ同じ時代の麻生さん達じゃないし。下手に係わって麻生さん達と変に知り合うのもなんだし。
少なくとも麻生さん達とは違う情報を持ってるわたしは。わたしなりに事実を突き詰めて行きたいの」

 こーなったら、受けて立つわよ。フィレモン!!
 成り行きだけど、わたしがペルソナ使いだって思い出しちゃったし。

 どーやら、上手くいけば魔獣王グライアスにもなっちゃいそうだし。
 わたしが退治しなきゃいけない異物は、退治する。

決意も新たに拳を振り上げた に、ソルレオンは口元をひくつかせ。
笑いを堪える。麒麟といえば心配そうに の横顔を見やった。



そんなこんなで が目指す最初の目的地、YIN&YANに到着する。
自動ドアを潜り内部に入った は絶句した。

「……」
鉄格子ごしに佇む店員さんの笑顔。

鉄格子など、まずあり得ない。
所狭しと並べられているのは拳銃やライフルといった、 には縁遠かった武器類。

これも絶対にあり得ない。

店内をうろついている住人も普通に銃を選んだりしていて。
ここは法治国家日本で、完璧に銃刀法違反だと。
は考えかけて、考えを正す。

 ここは偽りの御影町。
 悪魔が普通に出現して、それを普通だと思う人達が住んでる町。
 自衛手段として銃とか売ってても、仕方ないかぁ。
 コンビニで銃ってトコがシュールだけど。
 まずはわたしも新しい弾とか買っておこうかな。

弾の陳列棚(本来はデザート類が売られているケース)に近づいて、 は何種類かの実弾を手に取った。
見慣れない実弾の形や重さに気が引き締まる。

《この“せんこうだん”も良いんだけど、効果的に得る弾の方が効果が高いのよ》
堂々と店内を闊歩していたソルレオンが、思案する の横から口を出した。
「へ? 効果的に?」
見下ろす の視線を受け止め、ソルレオンは鼻を動かした。
《ええ、そうよ。 、根本的な部分を忘れていない? 貴女は卵とはいえ、正真正銘グライアスの力を受け継ぐ者なのよ。魔獣王なのよ》
「あー……うん、そーいえば、そーだったねぇ」
崇めてもらったわけじゃない。
に従うのだって、麒麟とソルレオンだけ。

従って の自覚はゼロ。
が曖昧に笑って鼻の頭を掻けば、遠巻きに を見守る麒麟が息を吐き出したのが見えた。

《交渉の力、悪魔との交渉の力は誰よりも高いの。聖エルミン生の彼等よりもね》
ソルレオンの説明に、 が麒麟へ目を向ければ。
麒麟もうんうんうなずいている。
「悪魔と交渉してモノを貰うの?」
てっきり戦うだけかと思った。
そんな感情を滲ませて言えば、ソルレオンは不敵に笑った。
麒麟は何故か顔を背けている。

《穏便に済ませるなら、そうよ。ただ綺麗事だけじゃ全ては丸く収まらない。時には脅して奪う! 臨機応変》
威厳漂う外見通りのワイルドな答え。
は頬を引きつらせて愛想笑いを浮かべ、もう一度麒麟を見たが。
麒麟には見て見ぬフリをされてしまった。

 ……都合悪くなるとすぐ他人のフリなんだから。

内心憤り、 はゆっくり息を吐き出す。

「分かった。出来たら挑戦してみるね。じゃぁ、お店の店員さんに話を聞いてくる。森のこととかこの町のこととか」

実弾の陳列棚を離れ、 はカウンターへ足を向けた。
物騒な物ばかりが置いてあるコンビニには不相応のまったり雰囲気。
カウンターも同じで商品さえ違えば、どこにでもあるコンビニ。
似て非なる世界に気が遠くなりそうになる。

「いらっしゃいませ」
カウンター前に一歩を踏み出した
そんな にニコニコ笑顔の店員がおきまりの挨拶を口にする。

「すみません、ちょっと教えて欲しいんですけど」
鉄格子越しの店員の笑顔に引きながら。
は本題をきりだすのであった。




 Created by DreamEditor                      次へ