『パンドラ4』




パンドラは極彩色の羽を緩やかに動かし、上半身を起こす。

《本来の彼女は己の闇を知った。私やアキ、理想の自分の存在を行動を知った。だから黒きガイアは私達の中に入ってはこれない》

自分の胸に手を当てて説明するパンドラに、一同は感心して相槌を打つ。

「「「へぇ〜」」」
声をハモらせて ・アキ・元気な園村が言う。
パンドラは微苦笑して欠伸を漏らした。

《楽園の扉は自分で開くもの。分かっていたけれど、簡単に開ける扉をヒトは選んでしまうもの。ヒトがヒトの気持ちを持っている限り、避けられない宿命なのかもしれない》

デヴァ・システムを一瞥しパンドラは続けて喋る。
はパンドラを見詰め小さくうなずいた。

「なんとなく分かります。わたしも楽園……グライアスの証を捨てられなかった。なんだかんだ言って、選ばれた証を持っていたかったんだと思う。
わたしは他の人とは違う。選ばれたトクベツな女の子なんだって」

は苦い気持ちを込め、自戒の念を込めて。
パンドラへ答えるというより、自分に言い聞かせるように喋る。

「そんなモノ持ってても。意味ないなぁ〜って、麻生さん達見てて思いました。最初は成り行きだったかもしれないけど。
園村さんの為に頑張る麻生さん達見てたら。園村さんのコト羨ましくなっちゃいました」

只のクラスメイトの為に命を懸ける。
己の矜持を懸ける。
簡単に出来ることではなく、そこまで身を案じてもらえる園村は幸せ者だ。
にはそう見える。

《私の暴走を命がけで止めてくれたの。だからもう心配はしない。時々は私の人格が表に出ることがあるかもしれない。でもそれは本当に時々。
もう彼女は大丈夫。そして貴女も。貴女の中のパンドラは貴女の中へ戻った。そして理想とする貴女も貴女の中に……》

暴走人格とは思えない穏やかな振る舞い。
パンドラは細く長い指先で空気をかき混ぜるようにくるくる回す。
パンドラがかき混ぜた空気の渦から、 を導いて? きた、ギリシアチックドレスの女性が姿を現す。

「はえ?」
口を大きく開けて間抜けた声を発する と。
互いに顔を見合わせ、愉快そうに笑う元気な園村とアキ。

役目を終えたとばかりにパンドラは本当に眠りについた。
丸まったパンドラを周囲から繭が溢れ出して優しく包み込んでいく。

《貴女の中に眠る、理想の貴女。私は女神・フォース。調和を司る者》

穏やかな瞳を へ向け、ギリシアチックの女性・フォースの女神は名を名乗った。

「女神……フォース」
歴代のグライアスが持つという調和の力『フォース』
その象徴とも言える女神。
それが自分の思い描いていた理想の自分。
幼い頃、グライアスだと言われて育ち、そう在るべきだと信じていた自分が『理想』とした女神。

「……」
は何度も瞬きをして女神を食い入るように見た。

モデルでもできそうな完璧なプロポーション。
動作も口調も女神らしく威厳に満ちている。
選ばれたからには相応しい態度を取りたい。
願った自分の全てが凝縮された姿。

「ああああ、ビミョー!!!」

頭を抱えて は絶叫。
背後でルーがクスクス笑っていた。
まるっきり状況を楽しんでいる声音で。

《幼い頃描いた理想が、成長した自分の目の前にあっても困るよね》
の背後からルーが呑気に口を挟む。
「ちょっと! ルー!!! 人の心をあっさり読まない」
真正面に立つ女神を見据えたまま、 は後ろのルーへ怒鳴った。
「アレがアンタの理想〜???」
隣ではアキが露骨に嫌そうな口調で へ問いかける。
は頭を掻き掻き。

「理想ってゆーか、ああいう風になんなきゃって思ってた結果。かなぁ。
絶対無理だけどね、こんな風になるのは。分かったからさ。えーっと、わたしの中で眠ってて貰えばいいの??」

前半部分はアキへ向けて。
後半部分は女神に向けて。
自分の気持ちを音に乗せる。

《汝は我、我は汝、だぞ〜》
女神が口を挟むよりも早く。
ルーが揶揄する口調で野次を飛ばす。

「はいはい。女神フォースも私が本物を見て思い描いたザンゾー。例えるならペルソナの一種。受け入れるか入れないかは、わたし次第」
どこからみても完璧な正義キャラ。
フォースの女神を眺めて は少しショックだった。

 こんな風な女神様が理想だったんだ〜。
 でもわたしの願った形であり、ペルソナでもある。
 だとしたら気が進まないけど。

「きっと貴女は強いだろうから、ペルソナとして一緒に戦ってください」
渋々 は女神に頼み込んだ。

《フォースの力は常に貴女と共にあります。私自身も。必要なのは貴女の自覚だけ。私は女神フォース、以後良しなに》
優雅に一礼して女神は消える。

これで は黒きガイアと化した自分の闇の仮面と、女神の姿をした自分の光の仮面を取り戻した。

 わたし。
 この事件を通してしなきゃいけなかったのって。
 自分を取り戻すコトだったのかもしれない。

 お祖母ちゃんは知ってたのかな?
 わたしがペルソナ使ってイジメしてたの。
 わたしが孤立して一人ぼっちになっちゃったの。

改めて聞く事じゃない。
だから何も無かったフリしてお祖母ちゃんに「ただいま」と言おう。
は幾分すっきりした頭で考えた。

《これで は調和の力の端っこを掴んだ。引き出して力を使うか、使わないかは。 次第だよ》

撫で撫で。
の頭を撫でてルーが講釈。

「へぇ〜、良かったね。神崎さん!」
元気な園村がパチパチ拍手して を称える。
アキはそんな園村の行動に言葉も無い。
呆れて首を左右に振っていた。

「掴んだ以上は責任が出てくるんで、なんとも」
が園村のハイテンションに気後れしながら、やんわり反論する。

「お節介らしいアンタなら、なんとかなるんじゃない? しかも、もう分かったでしょ? 人の心には色々な仮面があって。時にとんでもない事件を起こす」

あたしが言えた義理じゃないけど? 付け加えてアキが切り出した。

「大丈夫。一人じゃないって分かってれば、強くなれる。……きっと」
胸のコンパクトを握り締め、元気な園村がはにかんだ笑顔を見せる。
寂しさの混じる園村の笑顔に はニヤリと笑った。

「そんな簡単に『忘れ』られる体験じゃないですよ? 確かに、本物の園村さんが今度は園村さんになるんでしょうけど。元気な園村さんも、アキちゃんも、マイちゃんも。簡単に忘れられないです」
デヴァ・システムに手を載せ は言い切る。

「もうこれは必要ないですね。えっと、わたしが壊していーんですよね?」
の問いかけに、元気な園村とアキがうなずく。

「じゃ、遠慮なく」
にっこり笑って は呪文を唱えた。




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