『パンドラ3』




元気な園村、膨れるアキと一緒に。
は繭からデヴァ・システムを取り外す作業を手伝っていた。

「え!? じゃぁ、あの寝てる蝶羽のヒトがパンドラ!?」

基本的に表に出てくることは無い暴走人格・パンドラ。

本来の園村の精神が落ち着いたこともあり、パンドラは再び深い眠りに入りつつある。
丸くなってうとうとしている姿からは想像もつかない。
綺麗な外見を持つからこそ、余計信じられないのだ。
あれがパンドラだという事に。

「でも一番強いのよ。何度か死にかけたもん」

ブチブチ繭を引きちぎりながら、平然と元気な園村が言う。
アキと はその台詞に引いた。

を挟んで隣り。
小さな手で繭を引きちぎるアキは小さく呻いた。

「アンタってさ、昔から思うんだけど。無邪気なフリしてえげつないよね」
毒舌はアキの十八番。
無遠慮なアキの言葉に元気な園村はケラケラ笑った。

「あははは、そうかな?」
「そうだよ」
自分が自分と会話する不思議な光景。
それもデヴァ・システムがあるから出来る非現実。
とぼけて尋ね返す元気な園村に間髪いれずアキは言い切った。

「諒也君たちは無事に御影町に戻ってるはずよ。これの処理が終われば、本当のわたしも目を覚ます」

手のひらに絡む繭を床に払い落として元気な園村が言った。

即ちそれは本物の園村の中へ彼女達が還るコトを意味する。
微妙に盛り下がる場。
ブチブチと、繭をちぎる音だけが園村・アキ・ の会話のバックミュージック。

「……結局、アンタはナニしに来たわけ? 最後にそれ位説明していきなさいよ。ヒトに散々説教してさ」

気まずい雰囲気を払拭するように。
アキが意地悪く口角を持ち上げて へ話を振った。

「へ? わたし!?」
突然話を振られて は目を白黒させた。
「わたしも聞きたいv」
アキに似た? ニンマリ笑って元気な園村もアキの意見に同調。
四つの瞳に見つめられて の顔は引き攣った。

「えーっと、えっとですね」
繭を除去する手を休め、 は懸命に考え出す。
期待に満ちた二人の視線を一手に引き受けながら。

「最初は自分がペルソナ使いだってコトも忘れてて。そしたら急にジャックフロストが見えて。変だなぁ〜って追いかけて。それで巻き込まれました」

馬鹿正直に喋り出せば、アキは白い目を へお見舞いした。

「はぁ? バッカじゃないの!? フツーは『疲れてるんだな』とか思って、早く家に帰って寝ない?」

追いかけないよね。
なんて、同じ人格だけあって意見の一致を見るアキと園村。

「すみませんねぇ、夢見がち女で」
口元をヒクヒク痙攣させて が応じれば、

「ていうか、将来クスリとかに手を出さないよーに気をつけなさいよ?」
等と。アキから逆に説教をされる始末。
なんともいえない顔で項垂れた を、元気な園村が慰める。

「ほら! 逆に考えれば忘れていた事を思い出せたんだもん。忘れてるよりは良かったんでしょ?」
何事も前向きに。
元気な園村がさり気ないフォローを入れる。

「まぁ、そうかもしれないですね。自分がペルソナ使って、いじめっ子してた記憶も取り戻しましたし」
淡々と答える に今度は元気な園村が引く。
逆効果。
元気な園村の失敗をアキはくすくす笑った。

「それで、ジャックフロストに会って?」
引きっぱなしの園村を放置して、アキは に話の先を促す。

「フィレモンに会って、次に森でアキちゃんマイちゃんに会って。
んで神取に遭遇して。マイちゃんに飛ばされて、ニコライ博士に会って。
最後に御影総合病院に辿り着いたんですよ。そこで城戸さんに助けてもらいました」

随分昔に体験した遠い過去のような気分になる。
間違いなくここ十数時間で体験した全てなのに、何年も前のある日の思い出のような。
は懐かしむ口調で自分の辿ったルートを改めて確かめる。

「え!? レイジ君に〜??」
元気な園村は仰け反り、裏声になって叫んだ。
信じられない、とその表情が彼女の感情を物語っている。

「最初はヤバイ系の人かと思ったら、素っ気無いけど優しいし。そこでペルソナ使いだった事を思い出して。
そこで麻生さん達を見かけました。病院を出た後、お祖母ちゃんに会って『エルの杖』とやらを手に入れろって。言われて」

思えば中身が詰まった時間を過ごした。
腹を括るなんて根性も無くて、強気になったり弱気になったり。
針が左右に触れるように迷い、戸惑い、悩み。
最善の答えかどうかさえ分からずに闇雲に歩いていた。

「エルの杖を手に入れて、わたしじゃないと払えない、異物があるって知って。マイちゃんのSOSに応じてあげたいと思って。
それでキョコーの御影町に。黒瓜さんに会って、鉄ネズミを出すアキちゃんや、それと戦う麻生さん達を見たり。後はだいたい麻生さん達の跡を追いかけてました」

後半は端折り。
は出来事を掻い摘んで説明する。

「そうよね。アキの家にも不法侵入してきたし。デヴァ・ユガにも乱入してたし。虫みたいに一寸の隙間から入ってくるカンジよね〜」

アキのあんまりな言い表しに、 は結構傷付いて胸を押さえた。

 い、言われてみればっ。わたしって虫みたい……かも。
 いーやー。

「……その表現はカンベンして下さい」
弱々しい声音で はアキへ訴える。

「大丈夫よ。どーせ本物は覚えてないんだから。それで結局何か出来たの? その異物ってのはどーしたの? やっぱ、マズイでしょ。ここにはまだコレがあるし」

デヴァ・システムを指差し。
アキは御もっともな質問を へした。

「出来たのはジコニンシキってやつです。異物ってのは『黒きガイア』ってゆーんですけど、払えたのかなぁ。少なくともこの世界には、園村さんの中にはもういないですよ」
がアキの言葉を真に受けて返事を返す。

《そう……ココには何もいないわ……》
眠たげに目を擦りパンドラが物憂げに言葉を紡いだ。




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