『目覚め1』



アラヤ神社→ジョイ通り→ピースダイナー→アラヤ神社→見知らぬ森→デヴァ・システム前。
ポンポンと、誰かの意図通りに飛ばされて最後に辿り着く先。

 ここが終点だといいなぁ。

気持ち悪い感覚が身体から抜けない。
口元を押さえ は壁に凭れかかりながら立ち上がった。

真っ白い壁に静かな雰囲気。
非常口の緑色の電気の灯りに。
フロアの案内図と、それからナースステーション。

「病院?」
ナースステーションの掲示板に張り紙がある。

御影総合病院。

はゆっくりした動作で頭を左右に動かしギョッとした。
明らかに病院向けじゃない、妙な格好の聖エルミン生徒がこちらに歩いてくる。

 てか! ありえないよ、ありえない〜!! 
 なんで上着だけなの、この人。

額に傷を持ち鋭い目つきを へ向け、その男? 高校生らしき青年が近づいてきた。

 怖いよ……って、まさか。まさか!? 伝説の『裸番長』

気持ち悪さをすっかり忘れて迫りくる高校生? を凝視する。
聖エルミンには数々の噂が存在し『裸番長』もその一つだ。
なんでも上着だけを身につけ、ボクシングを操る喧嘩の強い聖エルミン生徒だったらしい。

「おい」

 ぽん。

高校生? は の肩を叩いた。

「は、はい」
機械の存在もすっかり。
綺麗さっぱり頭から洗い流して現実に進行する恐怖に震える。
怯えて返事をすれば高校生? は表情を少し和らげた。
「お前は無事か」
の顔色を確かめ高校生? が言う。
「は?」
病院で。
しかもその廊下で無事とは何故に?  の頭の中を疑問符が飛び交う。
「怪しいゾンビモドキがこの病院を徘徊している。看護婦やら医者やら病人やら。一部の奴等は襲われた」
言いながら高校生? は の肩から手をどけた。
拳に嵌めた星柄のグローブを整え、高校生? は油断なく周囲を警戒する。
「あの、わたしは神崎  です。聖エルミン中等部の生徒です」

なんとなく。

 名乗っていた方がいいかな。

高校生? の威圧にビビりつつも、 は自己紹介をした。
コワイは怖いけれど多分そんなに悪い人には見えないから。

「城戸だ」
を一瞥し高校生? 基、城戸は名前を名乗った。
不気味な静けさに包まれた病院。
何処かから甲高い女の声と地を這うような男の声が響いてくる。
「病院どうなっちゃったんだろう」
小さく鼻を鳴らして は心細い気持ちを言葉にした。

《遊ぼう、遊ぼう?》
丸くて青白い小さな物体が城戸と の周囲を取り囲む。
小さな子供みたいな口ぶり。
「ポルターガイストか」
城戸が小さく舌打ちして を背後に庇う。
《王の帰還だね。思ったより早かったね。ねぇ、遊ぼうよ。皆待ってるよ》
子供特有の甲高い声音。
青白い浮遊物体は へ手を伸ばす。
はどうしたらいいか分からず、左右に視線を泳がせていると。

女性の残像がすぐ近くの登り階段上へ消えたのを見た。
ハリウッド映画に出てきそうな女神みたいな。
古代ギリシャ風の裾の長いドレスを身につけた女性である。

 ドクン。

身体の奥底から揺さぶられる懐かしい感触。
暖かい気持ちになる心。
涙が止まらない。

「ごめんなさい、城戸さん」
涙声で謝って敵前(?)逃亡。
青くて白くて丸い物体と戦う城戸を背に、階段目掛けて走る。
女性の姿が消えた階段上へ顔を向け一生懸命足を動かした。

 誰? こんな胸騒ぎ感じたことがない。
 こんな懐かしさも感じたことがない。

 すん。

鼻を鳴らして涙を指先で乱暴に拭って は走る。
淀んだ空気を掻き分けるように腕を動かし、意味不明瞭な言葉を発して唸る。

気付けなかったのは のせいではない。

《遊ぼう、遊ぼうよ》
軽い衝撃に吹き飛ばされて は階段の踊り場に背中を打ち付けた。
「ポルター……ガイスト?」
首だけ捻って背後を見れば城戸が『ポルターガイスト』と呼んだ物体が、浮遊していた。
《思ったより早かったね。お帰り、お帰り》
クルリと一回点。
回ってポルターガイストは へ話しかける。
「お帰りって、なに?」
顔が強張る。
身体に緊張が走る。
知らず知らず眉間に皴を寄せ は質問した。

ジャックフロストも何故か同種的扱いで に接した。
この目の前のポルターガイストも。
自分をお帰りという。マイちゃんは思い出してといっていた。

 分からない。

当事者の自分をそっちのけで輪だけがグルグル回っている。
周りは知っている。
でも 一人が何も知らない。

《とぼけないでよ〜、ねぇ、遊ぼう。折角還ってきたんだから》
はしゃぐポルターガイストを前に はついに叫ぶ。
「アンタなんか知らない。還って来たんじゃない、飛ばされてきただけよ!」
にしては大きな声が踊り場に響いた。


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