『彼等と彼女の選択2』



マナの城を見上げる聖エルミン生。

彼等と同じ様に城を眺めていた は、身体を駆け抜ける不快感に身震いした。

 すっごく嫌。
 あの黒きガイアとは違うけど、とても嫌な感じがする。

 なんだろう。

 見覚えがある不快感なんだよね。
 こんな所が家って、だいじょーぶなの!? アキちゃんは。

眉根を寄せ城を睨む と、扉に近づく稲葉。
稲葉が扉に手をかけようとした時、彼女は現れた。

「しつこいなぁ、ココまで追っかけてきたの?」
不快そうに稲葉を睨みつけるアキ。
唐突のアキの出現に、麻生達は身構える。

「神取はここにいるのか?」
ドスの利いた低い声で。
城戸は殺気だってアキへ問いを投げた。

アキは城戸を一瞥するがあっかんべぇ、と舌を出して逆に城戸を挑発する。

「さあね。どっちにしてもアキの家には入れてあげないよ〜。あんた達なんてだーいきいらい」
ムッとした顔でアキが悪態をついた。
毒の混じった口調に、聖エルミン生達は表情を固まらせる。

「か、可愛くない〜!!!」
顔を引き攣らせたアヤセが正直に思ったままを代弁。
南条・稲葉が思わずアヤセの意見にうなずく。
目を丸くするのはエリーとブラウン。

「べっつにあんた達なんて要らないもの。さっさと『還り』なさいよ」
頬を膨らませたアキが聖エルミン生を睨みつける。

含みのあるアキの言葉遣いを は冷静に分析する。
アキと対峙する当事者ではないから、客観的に考えられるのだ。

 還る。フツーなら、帰れって言うよね?
 アキちゃんはドコまで知ってる?
 このセベクスキャンダルについて。
 神取操られてる? 騙されている? それとも。

「そういう訳にはいかない。神取はデヴァ・システムを使って御影町を隔絶し、異変を起こした。町をそのままにはしておけない」

微笑を湛え、アキを見る麻生の眼差しはどちらかといえば優しい。
アキは目を細め腰に手を当てて口を真一文字に引き結んだ。

「神取は御影町の人達を苦しめているんだ。どうして止めない?」
続けて放たれる麻生の口撃にアキの眉間に皴が現れる。

が感じ取るアキの感情は複雑な怒り。
麻生の意見を認めつつも彼を容認できない。
麻生よりも神取の方がアキにとっては大切だからだ。

 オカシイ。外見通りの子供じゃない、アキちゃんもマイちゃんも。
 していい事と、悪い事ちゃーんと分かってる。
 なのに、アキちゃんがあそこまで神取を信頼するのは何故?
 デヴァを作り御影町に悪魔を放った。この世界にも暗い影を落としてる。

アキは険しい顔で麻生を睨みつけ、そっぽを向いた。
「ふん。アキは知らないもん」
「……俺はそうは思わないよ」
困った顔で笑う麻生にアキはコンパクトを掴む。
「ノモラカタノママ!!!」
コンパクトが輝きを放ち、アキの姿が消える。
「えっ!? 消えた??」
園村が驚き、南条と城戸が城の扉に飛び掛る。

扉はどんなに押そうと引こうと開かず、ペルソナを使っても無理だった。

『そんなんじゃアキの家の扉は開かないよ〜っだ。どうしても入りたければコンパクトを持ってきなさい。迷いの森にあるコンパクトを』

城の上方からアキの声が響き渡る。
アキの捨て台詞に聖エルミン生達は会議を開始。
数分間ああでもない、こうでもないを繰り返し。
結局引き返してアキの提示した『迷いの森』へと向うらしい。

麻生は憂い顔でマナの城を見上げ、そして二度と振り返らずに、一行の最後尾を歩いて消えた。
出直し組の彼等を見送り、 は自分にかけていた魔法の効果を解く。

「さてさて、行きますか」
見上げるのは聳え立つマナの城。

《さあ、行きましょう》
の独り言に応じてソルレオンが出現。
身体を震わせて毛並みを揃える。

《油断大敵》
簡潔に心情を言って麒麟は両前足を掲げ上半身を起こしてから、地面に足を下ろした。

「うん。麒麟、お願い」
は言って麒麟の背に跨る。
麒麟は一声嘶いて宙を駆ける。
ソルレオンは飛翔しては城の外壁に足をかけ、次の場所へ飛ぶ。

「……あそこ、城のバルコニーから中へ」
風に靡く髪を押さえ が指差す。
麒麟は風を切り静かにバルコニーへ着地した。
ソルレオンは器用にもバルコニーの手すりに脚を着ける。

《あら? 出迎えみたいねぇ》
ソルレオンの指摘を耳に がマナの城へ足を踏み入れる。

真正面の通路奥から、アキが歩いてこちらにやって来るのが見えた。
些か憤っているらしい表情が。
その険しい瞳が。 だけを真っ直ぐに見据える。

無意識に背筋を伸ばして は無言のままアキの到着を待った。
を責める顔でアキは を睨み上げる。

「弁解はしない。フホー侵入については、ね」

肌に感じる嫌悪感。
黒きガイアと似て非なるもの。
が知っている気配。

一つは神取のものだろうが、もう一つは。

静かに切り出す にアキは無言を貫く。

「別に責めてるんじゃないよ、アキちゃんにはアキちゃんの事情があるんでしょ。わたしには理解してあげられないけど」
はため息をついた。

 アキちゃんの行動には意図がある。
 人を傷つけるのは理解できないけど。
 それにさ、わたしが責める立場にはなれないし……。

 いじめっ子だった、わたしには。
 人を責める資格なんて無い。

自嘲気味に笑った の顔を凝視してから、アキは の手を取った。

「ついて来て、パパが待ってる」
を引っ張って歩くアキの赤い色のリボンが、歩く動作によって揺れる。
アキのリボンを見詰め は何度か瞬きをした。

 嬉しい? アキちゃんは少し嬉しいって思ってて。
 でも苛ついてて?? コンパクトを気にしてる。
 それから学校……聖エルミン学園を気にしてる。憧れてて憎んでる。

 ワケ分からんない、アキちゃんの気持ち。

密かに悩む の気持ちを他所にアキは迷路のような城を迷わず進み、最上階へと出たのだった。




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