『彼等と彼女の選択1』



元ハーレムクイーン。

香西 千里と和解を果たした、麻生達、聖エルミン生一行。
香西の情報を元に、ブラックマーケット脇にある小スペースで会議中。
も情報を手に入れるべく透明の姿のままちゃっかり話を聞く。

「まずはアキが居る、マナの城だな」
先頭きって口を開くのは頭脳派の南条。

お互いにぎこちない麻生達にも『チームワーク』が芽生えているようで。
南条・エリー・麻生が主に冷静に判断し、アヤセやブラウン等は自分の意見を率直に言い。
聞いている が驚くくらい洞察力に優れた意見を時折披露する。
大抵の意見は愚痴ばかりだが。

「御影総合病院跡。園村が入院している病院」
稲葉が表情を曇らせる。

「……ねぇ? ソウゴウ病院ってなに?」
無邪気に園村がエリーに尋ねて、エリーは微苦笑を湛えつつも園村に病院についてレクチャーし始めた。

「園村が具合が悪くなって、あの異変が起きた」
麻生の呟きに南条・稲葉がうなずく。

麻生達から数歩分の距離を取り は空を見上げ考えた。


マイが住む御影町半分とは大違い。
殺伐とした風景に、町の所々が廃墟のように寂びれている。
は周囲の景色を落ち着いて眺め目を伏せた。

 なんて寂しい風景なの。
 アキちゃんの心の中みたい。あの寂しい悲しい気持ち。
 そしてハーレムクイーンの前に現れた時の、妙にハイテンションだった、アキちゃん。
 やっぱり神取と関係があるの? パパ、かぁ。

稲光が走る不気味な空。
恐ろしい雰囲気をまったく気にせずに、麻生が大きく息を吐き出した。

「さっきの話だけど」
「麻生〜! 一々確認とるまでもねぇだろう。神取を捕まえない事には終わらねーしな」
人差し指を左右に振って稲葉が麻生の言葉を封じる。

「個々の目的は別だ、といいたいが。無視できないだろう? 園村も、学園も」
片眉を持ち上げ南条が尊大な態度で言い放った。
アヤセは買ってきたミネラルウォーターのキャップを空け中身を口に含む。

「……そうだね」
曖昧に笑って麻生は南条に応じた。

「それよりさぁ、アキって子の家も分かったんだから。さっさと行こうぜ」
当てずっぽうにデタラメの方角を指差してブランがポーズを決める。
ブラウンの一言をきっかけに、移動を開始する聖エルミン生達。

「余計なお世話だけどさ、ブラウン」
歩きながら麻生がブラウンの肩を叩く。

「マナの城の方角はあっち」
ブラウンが指差したのとはまったく違う方角を示して麻生が説明する。
少々バツが悪そうな顔をしたブラウンは誤魔化し笑いをしながら歩く。

《さてさて。どうするの?》
傍観する の頭にソルレオンの声。

 アキちゃんに会いに行くのは一緒だから、付いて行こうかなぁ。なんて。

距離を取って麻生達の跡を尾行け。
はのんびりソルレオンに告げる。
透明の姿になった の気配を誰も察する事がなく。
高校生らしく喋りながらマナの城へ歩いていく。

あの世界中を騒がせたセベクスキャンダルの当事者とは思えない、ノンビリ振りである。

近くに居れば感じる彼等の感情。
は一人一人の感情を心の中で言葉に置き換えた。

 なんか。全員が正義感に燃えてるって感じでもないね。

 南条さんは病院で死んだお爺さんの敵を取る為に。
 稲葉さんは園村さんを助ける為に。
 アヤセさんは成り行きで仕方なく。
 園村さんはこの世界を元に戻す為に。
 エリーさんは元からの好奇心とペルソナ使いになったからっていう、妙な正義感。
 ブラウンさんは……一人に弱い? 同じペルソナ使いで、輪から外れるのを嫌がってる。

 城戸さんからは、神取に対する溢れる憎しみが。

 ……麻生さんは。

 麻生さんは、不思議。
 穏やかで妙に落ち着いているの。
 なんでだろう? 無関心って訳でもないんだけど。
 他の人達とは違う。

談笑しながらブラウン・エリーと喋っている麻生の横顔。
耳のピアスがアンバランスに感じるほど真面目で穏やかな性格・物腰。
不思議でしょうがない。

 ねえ、ソルレオン。

《なあに?》

数メートル前で戦闘が始り、悪魔と戦う麻生達を眺め はソルレオンを呼ぶ。

 麻生さん達ね、もっと熱血してたのかと思ってた。
 フィレモンに騙されて、戦士として?
 あぁ、勇者みたいな感覚で事件に関わってるのかと思ってた。

 なーんか、皆、事件に関わってる理由バラバラ。
 いーのかなぁ。

園村が回復魔法を唱え、エリーがレイピアで悪魔に止めを刺す。
アヤセが攻撃魔法を唱えれば背後で南条がライフルを構える。

何度も悪魔に遭遇して、ちょっとずつ築き上げてきたのだろう。
連係プレーで悪魔達を倒していく。

 それに。麻生さん達をこの世界に呼び寄せて、闇に引きずり込むなんて。
 どういう意味なんだろう? 香西さんの状態が闇に引きずり込む、なのかな。
 だったらムリじゃない?

麻生が魔法で仲間をサポートし、稲葉は斧を振り上げる。

《そうねぇ。願いの鏡を与えても無駄でしょう。欲が深そうだもの》
ソルレオンが頷く気配がする。

 アヤセさんとブラウンさんなら、ノリでやっちゃいそうだね。
 でも南条さんと麻生さんとエリーさんが止める。
 絶対。
 城戸さんだって、アノ二人が馬鹿やりそーなら怒るでしょ。

城戸のパンチが悪魔の顔面に炸裂し、ブラウンが最後に全体に効果のある攻撃魔法を放った。
瞬く間に数を減らす悪魔達。

 って、違うって。
 ペルソナの力があれば、お金に関しては分からないけどさ。
 ある程度は自分の望みは叶うでしょ? 体力もつくし。
 相手の感情を惑わす事だって、そう、相手の気持ちを変える事だって可能だもん。

の脳裏にちらつくのは、自分が苛めた少女の顔。
自分自身で最低だと思うが、その子が誰だったのか。
名前は何だったのか は覚えていない。
人間という生き物はつくづく己に都合の悪い記憶は素早く消し去ってしまうようだ。

なんとなく、で神取追って。
そしてセベク事件を片付けたなんて信じられない。

《彼等の考えがまだ変わるということじゃない? あら、見えてきたわ》
途中、何度か悪魔に襲われた麻生達は、見事な連携プレーで退ける。

が見ていても問題ないくらい強い。
ソルレオンの言葉に周囲を見渡せば、不気味な黒い色をした城が の視界に入ってきた。




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