『彼女の仮面3』
トコトコ歩き、途中戦闘して、会話して。
麻生と園村。
そして 。三人の珍道中? は続く。
主に喋るのは園村と の二人。
麻生はどちらかといえば傍観者。
和やかに喋っていた園村と はパニックに陥り、目を丸くして。
口を大きくあけて二人の麻生を交互に眺めた。
「麻生さんが二人……」
が驚愕して呟く。
「諒也君が二人!?」
信じられない気持ちを抑えきれず、園村も二人を指差す。
麻生と対峙する『もう一人』の麻生は最初、ゲーム台に向かってゲームをしていた。
三人がやって来る気配がすると立ち上がり、不遜な笑みと態度で三人を迎えたのだ。
「驚くことじゃないだろ? ここは無数の意識が集まる場所だぜ」
腰に片手を置き態度も。
言葉遣いも麻生から比べれば乱暴で。
もう一人は飄々とした調子で言った。
「俺はお前の中に居る、末端、みたいなモンだな」
「そうみたいだね」
もう一人の言葉を麻生は動揺せずに肯定する。
肯定した麻生に再度驚く、園村& 。
突然自分の前に自分そっくりさんが現れたら、それだけで驚きなのに。
そっくりさんに、もう一人の自分発言されて、受け入れる麻生って一体!?
驚かずにはいられない。
「さて……オマエのこれまでの行動だが」
ゲーム機の前。
ちゃちい丸椅子に座って、『もう一人の麻生』は話を切り出した。
「御影総合病院で、ゾンビに追われているのに看護婦を助けた。中々出来るモンじゃないよな。
二番目。自爆しようとしたニコライ博士を助けた。放置してもよかったのにさ。
三番目。仲間が石にされているのに、彼女の絵を否定した。度胸あるな、自分も石にされたかもしれねーのによ。
んで四番目、あんなガキ相手に根気よく相手とは恐れ入る。前向きなお答えも励ましにはもってこいだ。
五番目、神取の哲学的問いかけにバカ正直に答えるなんざ、本当、オマエらしいよ」
『もう一人の麻生』は指折り数え、要所要所で麻生が取った行動を言葉にする。
「らしい、ね」
含みある『もう一人の麻生』の言い方に、麻生は微苦笑した。
眼前で展開される異常な光景に、園村と
は互いに手を取り合って成り行きを見守っている。
「別に俺は自分で考えてるほど“お人よし”じゃないさ。君が言った行動は偶然が重なったから、と。
多分相手が、俺に望んだ行為を俺が叶えただけだ。人から見て、それが良き行いに映っただけだろう」
麻生は落ち着き払った態度を崩さずに。
静かに『もう一人の麻生』に反論した。
「自分の考えが無い訳じゃない。ただ相手がそうして欲しいコトが、俺の負担にならないなら。そうしてもいいかな、とは思う。本当に嫌だったら見殺にしてるよ」
嘘は無いのだ。
麻生のあっさりした喋り口に、『もう一人の麻生』は愉快そうにクスクス声を上げて笑った。
「なんだ、テメーは偽善じみた面も。冷酷な面も。使い分けて理解してるんじゃねーか。まぁ、俺は『表』には興味ないからカンケーないけどな。
せいぜい、頑張れよ。自分の身体を別の俺に乗っ取られないようにな」
手を左右に振って『もう一人の麻生』はゲーム台へ向き直る。
「……幻滅した?」
麻生はもう一人の自分を省みず、出口へ歩き出す。
問いかける麻生に園村は「ううん」と否定した。
「世渡りジョーズってカンジで羨ましい……、麻生さんって」
本音を漏らした に、麻生は再度大爆笑する。
よく見れば背後でソルレオンも大爆笑していた。
中々? 大分失礼なペルソナである。
「か、神崎って面白いね。俺の打算的な性格を羨ましいって」
《は、
……。笑い死にするからこれ以上のボケは止めて頂戴》
褒めているようで貶している。
曖昧な麻生とソルレオンのコメントに、
は顔を赤くして怒った。
「いーじゃん!! 打算的でも何でも。相手を不快にさせないなら、対人関係も上手くいくでしょ。そーゆう部分を羨ましいって思ったの。わたしは人付き合いが下手だから」
無遠慮に笑う麻生とソルレオンを睨む。
園村も笑いを堪えた顔で
の肩を叩いた。
「確かに。諒也君ってソツないよね。でもわたし、神崎さんも羨ましいよ? そうやって自分の気持ちを正直に言えちゃうところ。そろそろ落ち着いてよ、諒也君」
せき込み始めた麻生を窘め、園村が
を宥める。
「誰にでもってワケじゃないですよ」
キョトンとした顔で
は園村は反論した。
今は。
同じペルソナ使いで、この事件に関わって。
人の心の断面の深さを知っている彼等にだからこそ。
も自分の仮面を捨てて素を晒せるのだ。
誰彼かまわず本音を暴露しているわけじゃない。
そんなことしたら、円滑な人間関係から遥か数キロは瞬時に遠ざかるだろう。
「特定の人にでも。自分の気持ちを伝える方法を持っているのは、羨ましいな」
今度は自分から の手を握り。
園村は真正面を見据える。
足元を流れる不思議な何か。
巨大な扉と向こうから感じる無数の気配。
扉の大きさに
は目を見張る。
「わたしもちゃんと伝えたい。言いたいから」
胸のコンパクトを握り締め園村が表情を険しくする。
無意識に強く握られた自分の手に は顔を顰めてから。
一度頬を膨らませて一気に息を噴き出した。
「やってみなきゃ分かんないです。言わないより言った方がいー場合もあるじゃないですか。てか、言わなきゃ伝わらないモノってありますよね。わたしなんか、いっつもそーだし」
ジト目で背後からやって来る麒麟とソルレオンを睨む。
の視線を感じ取り、麒麟とソルレオンは揃ってそっぽを向いた。
「……そう、みたいね」
緊張に硬くなっていた肩の力を抜き、園村が呟く。
「そうですよっ。わたしの筈なのに、わたしより物知りで。わたしよりちゃっかりしてるなんて絶対変ですよ。世の中間違ってる!!」
子供じみた(実際 はまだ子供)怒りを炸裂させる に。
麻生と園村は互いに顔を見合わせて穏やかに笑いあった。
不思議な少女。
妙にこの世界に馴染んでいて、でも園村が作り上げた幻ではない。
愛嬌のある雰囲気を持つ少女。
「さぁ、今度はわたしの番。負けないから」
深呼吸して園村は扉へ手をかけた。
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