『彼女の仮面2』




唖然とする麻生と園村。

はスカートについた埃を払って、二人へ向き直った。

「初めまして。わたしは神崎  。聖エルミン学園・中等部三年生です」
自己紹介しながら、 はしみじみ思った。

 お祖母ちゃんに感謝v
 聖エルミンの制服って意外なトコで役に立つモンだ。
 ……ま、もしかしたら? こーなるコトを予想されてたのかも、だけど。

お辞儀をする に互いに顔を見合わせる麻生と園村。
無理もない。
いきなり戦闘に乱入してきてペルソナを使った挙句、聖エルミン生だと自己紹介されれば。
何かの罠なのか助っ人なのか。
判断がつきかねる。

「えっと、神崎さん?」
意を決して園村が に近づく。

「はい。園村さんですよね? そちらは麻生さん。聖エルミン高校の人。えーっと、話せば長いんで結論から言うと、マイちゃんに頼まれて応援です」

自分の肩書きは必要ない。
どのみち説明しても理解させても。
彼らには必要のない知識だ。
今は。

結論を出し は短く自分の立場を説明した。

麻生は怪訝そうな表情で、つま先から頭まで。
の格好を眺めている。
三回視線が上下して最後に の瞳に焦点が定まった。

「君は」
多少の警戒を孕んだ麻生の声音。

「信用できないならお構いなく。ここでお別れします。ただ、わたしもこの奥に用があって。だから途中までの手伝いなんです」
対する は微苦笑して頭をかいた。

《自分が楽したいだけでしょう》
呆れ返った口調でソルレオンが突っ込む。
ここで麻生と園村は の背後にいる二体のペルソナに気がついて目を丸くする。

「まぁ、まぁ。一人で行くのもいーかげん慣れたけどさ〜。メンドイし、一人戦闘」
 ね? わざと甘えた声でソルレオンに答えれば。
ソルレオンは尾尻を床に打ち付け諦めたように大きく息を吐き出した。

《急がば回れ》
「……って、麒麟? 急いで回ってもココ、ダンジョンだし。迂回は無理だよ」
素っ気無く言い切る麒麟には逆に突っ込み返して。
はニヤリと笑う。

「へぇ〜、面白いね。神崎さんはペルソナと喋れるんだ」
純粋に驚いて感心して。
園村が へ喋りかける。
「え? あ、はい。なんか出来るんですよね。自分でもよく分からないんですけど」
の隣まで来た園村を見上げ、 は答えた。

「ねえ、諒也君! 折角だから一緒に行こうよ。神崎さん強いし」
数秒考えてから園村が元気良く。
好感度も高い、溌剌とした女子高校生らしい態度で麻生に提案する。
麻生は首を縦に振った。

こうして二人の許可を得た は麻生と園村と並んで歩き出す。
ダンジョンは薄暗く、足元が見えにくいが歩けないほどじゃない。
等間隔につけられた明かりを頼りに三人は最深部目指して歩く。

「よくフィレモンに咎められなかったね」
歩きながら麻生は言った。
の真意を探る調子で。

「ペルソナをフィレモンから貰ったのは確かです。だからって彼の意見が全て正しいとは思いません。彼が正義の味方だとは思いません。
だって、神取やその部下にもペルソナ与えてたじゃないですか」
は口先を尖らせ不満を口にした。

 ったく、エセ偽善者。コレが終わったら一発殴らせなさいよね、ってカンジ。
 お陰でイヤーな記憶も思い出しちゃったし。
 宿命に踊らされちゃったし。
 人殺しになっちゃったし。
 確実にヤバイ人に近づいちゃったじゃない!!!

 忘れっぱなしよりかは。ちょっとだけ、マシだけどね。

の意見に麻生は目を丸くし、それから柔和な光を宿した瞳で。
の頭を見下ろし失笑した。

「しっかりしてるな」
微笑ましい。 を労わるような、からかうような口調。
は頬を膨らませた。

「そーじゃないです。見てきて体験したから言えてるだけで。しっかりしてるんじゃなくて、知ってるから言えるってだけです」
言い終わらない内に、 は園村に背中を軽く叩かれた。

「ケンソンしないの! だって凄いよ? 見てきたって、多少は戦ったりしたんでしょう? あっ……えっと、原因はわたしにもちょっとあるんだけど」
前半ははしゃいだ声で。
後半はちょっとトーンが落ちて。
萎れる園村の態度に、 は首を横に振って園村の手を握った。

「誰にでも優しい自分と、冷たい自分が居て。わたしの中にもいます。ペルソナだって小学生くらいの時に使えてたの、ずっと忘れてました。嫌なことがあって、忘れたんです。自分に都合が悪かったから」

 貴女は悪くない。
 例え『本物』の園村が作り上げた『理想』だったとしても。
 一つの信念を持って行動した。
 自分自身を手酷く裏切る行為だったとしても。

「結局、忘れて蓋をしたつもりになってたら。ツケが回ってきちゃいました。ジゴージトクなんですけど。
自分に都合が悪くてもそれが現実なら、ちゃーんと見ておかないとな。って思いました。わたしは小心者だから、まだ真正面から立ち向かえないですけど」

気持ちを込めて手を握れば、園村は に笑いかけた。

「そうだね。ありがとう、神崎さん」
園村につられて も笑顔になる。
同時に悲しくもなる。

 嘘の。ううん、沢山ある園村さんの一人。
 元気な園村さん。このぬくもりも暖かさも嘘じゃないのに、現実の園村さんじゃない。
 こんなに確かに存在を感じるのに。

 事件が解決したら、園村さんはどうなっちゃうんだろう?

「?」
頭に重みを感じて視線を上に上げれば、麻生が の頭に手を載せていた。

 心配しなくても、大丈夫。園村なら。

優しい光を放つ麻生の瞳が にそう告げていて。
告げているように感じて、 は少し涙腺の緩んだ目元を空いている片手で乱暴に擦った。

「俺も少し流されすぎなんだろうな」
話題を変えるように麻生が口を開く。
「諒也君が? そんな風には見えないけど」
不思議そうに園村が聞き返す。
麻生は意味深に笑ってゆっくり首を横に振る。

「客観的人物像と、主観的自己分析は違うから」
麻生の言葉に、 と園村は二人して首を傾げる。
同じタイミングで同じ動作を行う二人に耐え切れず。
麻生とソルレオンが大爆笑した。




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