『彼女の仮面1』




その光景が視野に飛び込んできた瞬間。

はなんとも表現できない、重い石を腹に抱えたような。
苦い気持ちを覚えた。

「……これが、この世界の園村さん。本当の園村さん」
ベッドの上に横たわる園村。
頭に取り付けられたのは恐らく、デヴァ・システムの末端。

砕け散った鏡と、窓際におかれた積み木。
掲げられた絵のタイトルは『楽園への扉』

「コンパクト・キョコーの御影町・アキちゃん・マイちゃん……襲われる聖エルミン学園。元気な園村さん。全部全部」
微かに暖かい園村の手を握り締め、 は自分が見て集めたキーワードを口に出した。

「全部が園村さんの感情を反映していた。それだけ強い『想い』がデヴァを動かし。神取の計画を実行に移させた」
俯く の耳にアキの言葉が聞こえてくる。

『そうよ。バッカじゃないの!? わたしは、わたし自身の手で、わたしを真に理解してくれるパパを殺しちゃったのよ!?』
悲鳴に近いアキの叫び。
は装置で顔の見えない園村の顔へ目線を移す。

「神様みたいな自愛に満ちた自分と、悪魔のような冷酷な自分。鬩ぎあって勝ったのはきっと良心。このままじゃいけないっていう、ちっぽけな良心」

笑顔の。
向こう側、虚構の御影町に存在するアイドルの園村。
屈託のない彼女の笑顔を思い出して は良心と。
言い表す。

『下らない良心にパパは殺された! もうお仕舞いよ! 何もかもを失った。こうなったら……あいつの力を借りてでも、仕返ししてやる』

憎しみに満ちたアキの声。

「麻生さん達に? それとも……自分自身に?」
はそっとアキへ囁き返した。

園村の心の分身達。
マイとアキ。
そして偽りの御影町で真綿に包まれて幸せに生活していた元気な園村。
無数の仮面が象徴するように、人の心は様々な断面を持つ。
だって持っている。
だが、具現化した結果がコレだとは皮肉以外の何者でもない。

自作自演の事件を、自分で解決し。
自分で真犯人を追い込んで。
でも、犯人も自分自身で。
結果町は破壊されて。

麻生達の気配は感じられない。
その代わり、握った手から。
眠る園村の裡側から麻生達の気配を感じる。
恐らく『世界の仕組み』を理解しても尚。
大切なものを譲らない為に、彼らは再びあの世界へ戻ったのだろう。

『これ以上係わるなら容赦しないわ』
「うん。こっちも遠慮しないから」
アキの気配が遠ざかる。
も応じて園村の手を強く握り締めた。

 お願い。もう一度チャンスを。
 わたしに黒きガイアを払う、チャンスを。

力を失って深く眠っているはずの、園村の手が微かに力をおび、 の手を握り返したように は感じた。


味わう浮遊感と違和感。
落下する感覚に諦めて、とりあえず痛いのは御免なので麒麟を呼び出して跨る。
麒麟は不可思議な空間を鮮やかに飛翔し、出口まで を落とすことなく到達した。

「最初からこーしてればよかった」

 はぁ〜。

アラヤ神社を前に はガックリ肩を落とす。

《不安定ね、世界を作り上げた本人の感情が揺れているんだわ》

 とす。

を乗せた麒麟の隣に着地して、ソルレオンが油断なく周囲を観察。
歪む空にぼやける視界。グニャグニャした物の見え方に も目を細めて周囲を見る。

「目が悪くなりそ〜」
眉間の皺を人差し指で押さえ、 は不機嫌口調でぼやく。
乗り物酔いしそうな景色にため息をつき。
麒麟の背から降りる。

「さて問題です。神社からは城戸さん達の気配がします。神社裏からは麻生さん達の気配がします。さてどっちについて行く?」
問いかける にソルレオンも麒麟も首を横に振った。
《接触は控えるべき》
麒麟が苦言? を呈する中、 は胸ポケットから小さくなったエルの杖を取り出す。
杖先を上に地面の上に立てた。

「向かって左なら麻生さん達。で、右なら城戸さん達」
言いながら は手で押さえていた杖先から手を離す。

 コトン。

エルの杖は左側へ転がった。
あんぐり口を開けて呆れるソルレオンと麒麟を尻目に は立ち上がる。
麻生の気配を感じる方角へ歩いていく。
アラヤ神社の境内を回り、丁度横に位置する怪しげなダンジョン入り口に到達。
は遠慮なくダンジョン入り口へ足を踏み出した。

っ!》
流石のソルレオンも焦った口調で を静止する。

「……どう行動するかは自分で決める。どんなに馬鹿な選択したとしても、それは、わたしが考えて決めたことだから。
麻生さん達が園村さんの世界に戻ってきたのだって似たようなモンでしょ」

はこの際なのでソルレオンの意見を聞き流すことにした。

 わたしは知りたい。
 元気な園村さんがなんでココを目指すのか。

 わたしは知りたい。
 麻生さんが何を考えてまたココへ戻ってきたのか。

 そして確かめたい。
 わたしが本当に黒きガイアを払えるのか。

固い決意を胸に階段を下りる。
数階分下にいる麻生と園村はペルソナを使って戦闘中らしい。
彼等のペルソナが動く気配がした。

 今迄あの大人数でしょ〜、大変だよね。二人パーティーって。

は床に手のひらを当て、ハーレムクイーンの宮殿でしたように、床を溶かす。
躊躇いなく穴へ身を躍らせ落下。

「えっ!?」
驚く園村が をまじまじ見つめる。

「雑魚がいちいち吼えてんじゃないわよ?」
巨大仮面を前に は不敵に微笑む。
目を細め銃を手早く構え、 に続いて飛び降りてきた麒麟とソルレオンに叫ぶ。

「ぺるそなっ!!」
《メギドラ》
ソルレオンの核熱魔法が巨大化面をドロドロに溶かした。
続いて麒麟が聖魔法で残りを薙ぎ払う。
の真正面、体当たりを試みる巨大化面。

「ランカ ランカム イエト アルファ オメガッ!!」
は咄嗟に腕を顔の前で交差して呪文を唱える。
突然の闖入者に驚く麻生と園村を前にして。
の手際良い行動により、悪魔は倒れていったのだった。




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