『過去の遺物3』




数分ばかり一人駄々捏ねタイムを満喫した は、かなり恥ずかしくなって慌てて起き上がった。

麒麟も飽きていたのか蹲ってしまっている。

「はぁ。落ち込んでてもしょうがない。進んでも進まなくても怖いなら。進めるトコまで進んだ方が無難だよね」
、適応能力は低いが諦めるのは人一倍早く。
誰よりも切り替えが早かった。

してしまった事をうじうじ悩んでも時間は戻らない。
言ってしまった誰かの悪口を取り消せないのと同じだ。

「銃って反動があるって知ってたけど。片手で撃てないのは詰まんないなぁ」
痺れた右手をさすって はまたもや愚痴モード。
《我の力を使えば可能かと》
控え目に喋る麒麟の言葉に、数秒前までの不機嫌顔が嘘のよう。
は顔を輝かせた。
「そうだよっ! ペルソナを宿していると運動神経あがるもんね。意識して使えば!」
もう一度右手だけで銃を構えトリガーを引く。

 バァン。

二度目の銃は一直線に軌跡を描き近くの立て看板を打ち抜いた。

 っしゃー!!! これでやーっと獲物も手にしたし、準備万端?
 異物って奴を回収しなきゃねv

因みに は天然さんで漢字を間違えて変換するのは、彼女の素の性格に由来するものである。

内心ガッツポーズを決め悦に入る の背後で、至極冷静な麒麟は呟く。

《無闇に撃つのは如何なものか》
空気が固まった気配がして は顔を歪めて笑った。
「あははは……ご、ごめっ」
《我がソレで傷付く事はありませんが?》
誤魔化し笑いを浮かべる に、麒麟は怪訝そうな様子で返事を返す。

 うっ。痛いところピンポンイントで突いてくるじゃない。

口先を尖らせて数秒間麒麟と睨めっこ。
尤も麒麟には訳が分からずに不思議そうに を見ているだけなのだが。

「……ま、いっか。御影遺跡ねぇ、遺跡かぁ〜。社会見学で行ったことあるけど、大層な遺跡じゃ無かったよ? 確かに古代遺跡だったけどさ。それに祠? なんてのも無かったし」
歩き出しながら は麒麟に喋りかける。
矢張り一人では心細いし、会話でもしていれば気が紛れる。
《通常ならば、恐らくは汝が体感した通り》
蹄の音を響かせ歩き麒麟も の会話に反応。
「ふーん。じゃあ、あのニコライ博士が作ったっぽい、デヴァ…なんとか? あれも原因なのかな? 今時悪魔が人を襲いますなんて。ナンセンスだよ」
次から次へと驚愕の現象に晒され。
は博士の作った機械の名前をすっかり忘れていた。
最新の記憶に書き換えられた脳の容量は大きくないようだ。
《きっかけは些細でも力が加わり拡大すれば脅威となる》
思慮深い麒麟の言葉だが には難しいというか。
曖昧な表現が多すぎて、麒麟の謂わんが事を理解できていない。
「難しいよ、そういう言い回し」
欠伸交じりに がぼやいた所で、それは出た。

《ヒッヒッヒッ》
蝋燭を手にした人型の悪魔。青いローブの悪魔である。
《ナハトコボルト、魔法を反射する種族》
悪魔の名前を言い当て、半眼になった麒麟が身構えた。
角をハナトコボルトへ突き出し威嚇もする。
《あはははっ。変な人間発見〜》
ナハトコボルトの背後には羽の生えた小さな少女。
「えーっと? ぴくしー? ……風の魔法が聞かない(←本人無自覚漢字変換)んだっけ??」
頭に浮かんだ言葉を悠長に音にしてみる呑気な
構える間もなく悪魔達は 目掛けて飛び掛ってくる。

《ハピルマァアァ》
低い声音でナハトコボルトが呪文を。
負けじとピクシーも指先で空気の渦を作り出し へ放つ。

「ううう、よってたかってボコるなんて趣味悪っ!」
控え目の性格の仮面が徐々に剥がれて素の状態に近い が叫び発砲。
立て続けに放った二発の銃弾はピクシー一体とナハトコボルトを貫いた。
発砲した瞬間にナハトコボルトの魔法衝撃が の身体に到達する。

「きゃっ」

 パチン。

目の前で硬い泡が弾ける感触がして、不思議と気持ちが高揚する。

幸福感を増長させる魔法。

麒麟の声がエコーになって の脳に届く。
は咄嗟に己の左手を強く握り締め、爪を手のひらの内側に食い込ませた。

《それっ》
ピクシー高い声音と、同時にピクシーの指が作る風の渦。
麒麟は弾き返し、逆に己の角でピクシーを刺す。

「くらえぇ」
試しに拳だけでナハトコボルトを地面に沈め、大口開けて息をしながらも戦闘終了。
「はぁ……はぁ……」
汗ばむ身体に火照った頬。
ペルソナメインの戦いに慣れてきた時に、必要に迫られて行った肉弾戦。
疲れ切った は歩道に座り込んだ。体育座りで。

《メディラマ》
疲労のヒの字も見えない麒麟が癒しの呪文を唱える。
淡い金色の光が を包み、身体を覆う倦怠感や疲労が一気に吹き飛んだ。

「やっぱ冒険はパーティープレイだよねぇ」
どんより曇った空を見上げ一気に歳を取った気持ちになって。
は率直な本音を言葉にした。
麒麟は の傍らに座りキョトンとした顔を へ見せる。

「……仲魔か( やっぱり漢字変換違う)」

 麻生さんと稲葉さん。仲魔って感じだったよね〜。

一人ぼっちはやっぱり寂しいものだと実感しつつ、 が漸く遺跡に辿り着いたのは。
30分経過した後(のち)であった。




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