『異界の誘い4』




三回目のアラヤ神社。

「三回目。でも一回目は故意に。二回目はジャックフロストを追っかけて。三回目は自分から謎を解く為に……ゲーム?」
ブツブツ独り言を言う と、背後に控える のペルソナ。

麒麟とソルレオン。
金色の蝶は淡い光を発しながら宙を飛ぶ。

「ねぇ、貴方はフィレモンって名前だよね? あの時、不思議な空間であった仮面をつけていたのも貴方、だよね?」
一番最初に問いかける疑問。

侮れない存在。
胡散臭い雰囲気を持つフィレモンに対する警戒心から、 の口調も余所行きのものになっている。

『そうだ』
蝶は、フィレモンは短い言葉で肯定した。

「回りくどいコトして、結局わたしに何をさせたいの? 人のトラウマを抉ったりして。
ただの異物退治だけすればいいなら、どうしてこんな酷いことするの? 貴方はセベクスキャンダルの真実を知っているんでしょう?」
は内心の不満を顔に出し、詰問する。

『思い出すべき心の記憶は、まだ思い出せていないようだな』
の疑問に答えずフィレモンはひとりごちた。

額に青筋を浮かべる に、 をハラハラして見守る麒麟に、雰囲気すら楽しんでいるソルレオン。

「思い出せてないです。それがなにか? 麻生さんや稲葉さんは無事なんですか? 城戸さんは? マイちゃんは大丈夫ですか? アキちゃんは? 神取は? お爺さんは?」
今まで出会った人達を思い浮かべ、 は名前を上げてもう一度尋ねる。

『聖エルミン生の彼等は彼等自身の意志で動いている。白い服と黒い服の少女は、現実世界の御影町とはまったく違う別の御影町に。博士は行方不明だ』
穏やかな空気を纏い語るフィレモン。

「……優しいフリして、助けるフリして冒険に送り出しただけじゃん。セッコ!」
フィレモンの台詞に、 は誰にも聞こえないくらいの小さな声で悪態をついた。
わざとらしく咳払いをして は本題に入る。

「麻生さん達は今何処に居ますか? 後、もう一度マイちゃんに会わなくちゃいけないんです。マイちゃんは思い出して欲しいって言っていたし。もう少し詳しく話を聞きたいし。
わたしの持っているらしい、力ではないと払えない敵の存在も知ったの。だから」
の若干弱々しい語り口に、沈黙が訪れる。

未知の環境への恐怖と期待。
本来持っているらしい己の力への喜びと、複雑な戸惑い。

 心臓がドクドクいってる。うん。
 わたし、すっごくビビッてる。戦いは嫌。
 今時軍隊に居る兵士じゃないんだし、一般人のわたしが戦う必要は。

 本当はない。

 逆に。嬉しい、わたしって特別なんだって喜んでる。
 人とは違う、選ばれた。

 ……どっちの気持ちが正しくて、人から見てちゃんとした答えなのかな。
 分からない。

「だから、行くべきだと思う。わたしに分かるように説明してください、お願いします」
は出来るだけ丁寧だと思える深さで頭を下げた。

『現在の御影町は神取の野望、デヴァ・システムの稼動によって混乱を極めている。
システムは虚構の御影町、偽りの町を作り出し、そこへ聖エルミン生を迎え入れるつもりだ。罠にかける為に、彼等の心の闇を暴く為に』

フィレモンにしては珍しく分かりやすい表現を使い に説明する。
は驚いて胸を押さえ口を真一文字に引き結んだ。

『君が捜しているマイとアキと名乗る少女は、偽りの御影町の住人だ。彼女達に会うなら君も偽りの御影町に赴かなくてはならない』
続けて説明するフィレモンに は目を伏せ、アラヤ神社の床を見た。

 やっぱ、そーゆうオチだよね。
 マイちゃんもアキちゃんも。

 双子みたいな、そーじゃないような。
 そんなカンジだった。誰かの想いが作り上げた子?
 あの寂しい気持ち、病院でもちょっぴり感じたし。
 麻生さん達は巻き込まれたっぽい。
 逆に城戸さんは何か知ってて自分から探してるカンジ。ヤバくない?

 皆、実際を知らないまんま。
 この目の前のムカツク蝶にいい様に操られてんだよ!?

 マジヤバイ。絶対ヤバイ。

自分もヤバイが彼等もヤバイ。
は脳裏にイメージを思い描いた。
フィレモンの手のひらで踊る自分達の小さな姿を。

「……分かりました。悔しいけれど今のわたしには情報も力も信条もないわ。ないない尽くしのわたしが出来る事は、フィレモン、貴方の手のひらで暫く踊る事だけ」
実力不足は痛いくらいに実感中。
は怒りを湛えた顔のままフィレモンに告げた。
「キョコウの御影町への道を教えて」
漢字変換できないのはご愛嬌。
本人は必死にシリアスを装って、フィレモンへ要求を突きつけた。

背後ではソルレオンが必死に笑いを堪えて震えている。
麒麟は無表情で のコメントを聞き流している。

『セベクビルの地下に研究施設がある。そこにデヴァ・システムがある筈だ。御影町の廃工場からセベクビルに通じる通路がある』
「廃工場からセベクビルに行って、そっから地下の研究所へ行けと」
忘れそうになる内容に、思わず は携帯を取り出しメモ機能にフィレモンの情報を入力する。
次に は密かに落胆した。

 また移動かぁ。

別にセベクビルへ乗り込むことが怖いんじゃない。
単純に面倒なのだ。
御影町の廃工場はアラヤ神社の対角線上に存在するから。
歩き通しの一日で疲れて疲れて仕方ない。

普通ならバスを使うし、近場だったら自転車だ。
遠出であれば車を使うか電車だ。

 ちっさな箱庭じゃぁ、徒歩移動!? マジメンドー。

本人は隠しているつもりでも、感情が顔にしっかり出ていてバレバレ。

《次の目的地へ》
笑いを堪えるソルレオンに一瞥をくれ、麒麟は の注意を促した。
麒麟なりの分かりにくい気遣いである。

「じゃあ、フィレモンさようなら」
の頭は廃工場へ向う事だけで一杯。
普通にフィレモンに別れを告げ、 は去って行った。




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