『異界の誘い3』




 はぁ。
 ドラマだ。劇的。うーん、ゲーム的?

眉間に皴を寄せ考える と、 の発言を待つ麒麟とソルレオン。

「なんか出来すぎちゃってる? ってカンジ。納得できてない細かい部分もあるし。
でも助けって言われちゃったし。
くだらない見栄を張ったら怒ってくれる? 間違えそうになったら叱ってくれる? もう一人のわたし。ううん、わたしの心の海に住むわたし」

不安そうに麒麟とソルレオンを見る。

《失敗は恐れるものではない》
生真面目に答えるのが麒麟。

《そうねぇ。失敗するから恥ずかしいから、次は気をつけようって思えるでしょう? 失敗しない子が凄い子だとは限らないわ》
優しく諭して宥めるのがソルレオン。
二体の役割分担に は口先を尖らせた。

「どーせ、どーせ。直感で動いてソレが裏目に出ちゃって。一人気まずい思いをしてますよ〜っだ!」
舌を出して は頬を膨らませる。

《自分のインスピレーションを信じるのは良いじゃない。さぁ、グライアスの卵。 。次はどうするの?》
唐突な話題展開に は瞬きをした。

「えっと。移動して病院だったから良く分からないんだけど。デヴァなんとかって、動いちゃったのかな? お爺さんの博士に止めてって。お願いしたんだけど」
御影町を切り取る壁。
気分を暗くする空の色。

異変が起きたのは確かで、その原因があの装置なのかどうなのか。
確かめなければいけないことが多すぎる。
病院で見かけた麻生達の行方も気になるのだ。

《ではシステム稼動の有無を確認》
麒麟が の言葉を復唱する。
《妥当ね。まずはその装置が動いたのか、壊れたのか確かめに行きましょう》
ソルレオンは をそっと押して実際の行動を促す。
「うっし。改めて冒険の旅? へしゅっぱーつ」
右拳を振り上げ は歩き出す。
数メートルほど先頭を切って歩き、不意に立ち止まった。

「あ、あのさ? 何処に行けば確かめられるかなぁ?」

 えへへ。

自分から歩き出した手前恥ずかしい。
まったく何も分かっていない のノンビリした台詞に、二体は一瞬押し黙り次に爆笑した。

《まあ、相変わらず。そのマイペースと人の話を聞かないのは治ってないのね》
マイペースの は健在で。
育ての母としては嬉しいやら、もう少し成長していて欲しいような。
複雑な気分でソルレオンが感想を述べる。

「だって。状況分かんないし、どーしたらいーかも……って! そうだよ! きっかけはあのチョウチョでしょ? だったらチョーチョ捕まえて吐かせりゃいーじゃん」
顔を輝かせる の微妙な提案に麒麟は無表情を装い。
ソルレオンは複雑な気持ちを再度抱える。

「それにあのフィレモンって男と同一なのかも確かめたいし」

 うんうん。

は腕組みして一人納得する。

《考えるまでもなく同一だと思うわよ?》
さり気ないソルレオンの突っ込みに は首を横に振った。
「そりゃ、ベタな展開だとそーだけどさっ。確かめてみてからフィレモン笑ってやるってのも、それなりに楽しいモンでしょ」
悪戯っ子のように。
ペルソナと共に生活し伸び伸びした気質を持っていた頃の。
幼い頃の の顔で笑う。

麒麟は の笑顔を眩しそうに一目した。
《ならば向う先はアラヤ神社》
まだ言いたそうなソルレオンの口が、開きかけるより先んじて。
麒麟は淡々と言い、自ら先頭に立って歩き出す。

「……えっ!? あ、うん」

冷静沈着。
打算的な自分に似た部分を持つ麒麟の思考は合理的で隙がない。
好奇心やちょっとした悪戯心に心動かされる存在でもない。
その麒麟が率先して歩き出すなんて青天の霹靂。
驚天動地。

は雷に打たれた気分になって立ち竦む。

《ほら、行くよ》
ソルレオンもいつの間にか の隣を通り過ぎて。
数メートル先から振り返り後方の を顧みている。

「待って! 待っててば」
自分の心の中に住む、自分の分身なのに。
彼らのほうがよっぽど己を知っていて、 の事も知っていて。
大人で理性があってなんだか違う。
違う。

追いかけながら は麒麟とソルレオンを羨ましいと。
ちょっぴり羨ましいと思う。

「なんだかんだいって、わたし。根本的な問題の解決には至ってないってカンジ? わたし『ぐらいあす』になっちゃったけど。
力を引き出せてるわけじゃないんだよね。やっぱゼントタナンかなぁ」

真っ白の紙に黒いインクを滲ませたように、心のもやもやが広がる。
手に握ったばかりのエルの杖が妙に重く感じた。

麒麟、ソルレオンの順に歩くペルソナの後について歩き。
空を見上げる。

 知らない事。無知なのはいけないかも。
 でも、知ろうとしないで文句を言ってるより。
 行動してみて体験してみて文句を言ったほうが格好良いよね。

 城戸さんにまだお礼も言ってないし。
 麻生さんにも、稲葉さんにも説明してないし。
 マキちゃんにももう一回会ってちゃんと話を聞きたいし。
 アキちゃんにも確かめたい。

 神取の変な計画にアキちゃんも関わっていたのか。

 何も知らないから、知りたい。
 悲しい辛い結果だったら……嫌かも。
 矛盾してるけど仕方ないかなぁ。

 わたしは神崎 リアトリス 
 神崎家次期当主(予定)不思議なものも見えたり、色々出来たりするけど。

 今の肩書きは『グライアスの卵』

 あれ? グライアスじゃないの?
 ……えーっとグライアスってなんの王様だっけ。

 てか 認められてないじゃん!!

 わたし。

つらつら考える の視界に漸くアラヤ神社が見えてきたのだった。




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