『異界の誘い1』



少し躊躇して。
傍らの麒麟とソルレオンに目線で励まされて(脅されて?)
は渋々朽ち果てる寸前のエルの杖、とやらを手にした。

閃光。

『やあ、また、会ったね』
真っ白い空間に佇む一人の青年。
いつかのフラッシュバックの時、中年の男性と剣を交えていた青年だ。

 は?

間抜けた顔で は青年を見た。
どっかのRPGに出てきそうな軽装と。
盾と剣と鎧。

ある種キちゃってる出でたちである。

『あ〜、まぁ、時代が違うから。僕の名前はエル。ガイアマスターを目指していた』
青年は苦笑してエルという彼の名前を名乗った。

 がいあますたー?

見知らぬ単語が出てきて は再度間抜けた顔でエルを見る。

『君の概念で言う魔法の力、かな。主に対象物を破壊する力。
ガイアの制御を学び僕は一卒業試験を受けに行き事件に巻き込まれた。見たこともない怪物が空から降ってきて、町を人々を襲った』

穏やかな口調と態度で語り出すエル。
会話を止めるのはどうかと思ったので、 はうなずいた。

『町を人々を助けていたら自然と。大きな闘いの渦に巻き込まれて、さ。僕のガイアの師匠が、怪物の創造主達と敵対する勢力の長をしていてね。
僕は戦いたくなかったけれど。それでも師匠と戦った。命までは奪っていないけど。分かり合う為に戦う、なんて変な話だ。僕は悩んだ』

 って。巻き込まれたの!?

呆れて突っ込む(気分は裏手ツッコミで) に、はにかんで笑い。
エルは頭を掻いた。

『恥ずかしながら。怪物はある人物によって作られた命だった。怪物といっても感情はあるし、理性も知性もある。でもある人物の力に縛られていた。成り行きで僕は怪物の創造主と戦い、彼に勝ち怪物達を解放した』

血生臭い戦いを潜り抜けたとは思えないエルの優しそうな雰囲気。

『作られた彼らを解放した時決めた。命に序列はない。だから僕は怪物達、いや、魔獣を守り彼らと共存しようと』

固い決意の詰まったエルの瞳。
綺麗な瞳に見据えられ は気まずく感じた。

 純粋。今時って今の人じゃないみたいだけど、スゴイね。

『人より要領が悪くて人よりバカ正直だったから、だよ。きっとね』

笑顔のままエルは消える。 の視線の背後から新たな人物の気配。
気持ち的に振り返ればエルよりは歳若い少年が立っていた。



『俺の名前はユーリ。孤児でソルレオンに育てられた。ケルベロス・オルトロスの兄弟達と一緒に』

少年、ユーリは胸に下げたペンダントを握り締め自己紹介。
服装はエルと似たり寄ったり。
矢張り剣と盾と鎧を身につけている。

 ソルレオンがお母さんなんて、わたしと一緒だね。

が微笑めば、ユーリもつられて笑顔になった。

『最初は近所の町に住む幼馴染の男友達と一緒に。ある国の兵士に志願したのが発端だった。力を試してみたい、単純な動機と外の世界への憧れ。それが全てだった』

遠い目をしてユーリは呟く。

『知らなかった。国の兵士はソルレオンを、母さんを誘拐し、俺達が住んでいた森を焼き払った。俺は母さんを助ける為に。行方不明になった兄弟を捜す為に旅に出た』

エルと似た優しい空気を持ちながら、ユーリは何故か炎を連想させる。
エルは水のような穏やかさ。
ユーリは炎のような激しい真っ直ぐさ。

『国へ向かう為に俺は仲間の力を借りて旅をして、辿り着いた先で。母さんはボロボロになって息絶える寸前だった。俺は母さんの死ぬ間際に間に合っただけだった。
傷心の俺は、母さんを攫った宿敵が生み出した、オニという名の魔獣の暴走を止めるべく更に旅を続ける』

口下手な語りながら一生懸命語るユーリの姿。

『母さんも。大切な幼馴染の少女も。俺は助けられなかった。……旅を続けた俺は、幼馴染の男友達の、アイツの行方を耳にした。
アイツはある伝承を調べそれが自身じゃないかと考えていた。伝説の魔獣王・グライアスの生まれ変わりが自分なんじゃないかって』

 ぐらいあす? ……懐かしい響き。

ホワホワと温まる の気持ち。
ユーリは曖昧な笑顔を浮かべる。

『グライアスが生まれ変わったのは事実だった。生まれ変わりは、俺。アイツは世界を変える為に魔界を作ると宣言してきた。
俺には……俺は戦うことでしかアイツを止められなかった。エルの杖と引き換えにアイツは逝った、魔界を残して』

伏目がちに自嘲気味に。
寂しそうに笑うユーリに は言葉が出ない。

『魔界にはアイツが集めた世界中の負の感情が溜まっていた。黒い感情。俺達は黒きガイアと名を付け殲滅した』

の沈黙を黙認したままユーリは語る。
特に の感想を求める為に語っているわけではないようだ。

『俺がした事といえば、仲間を勇気づけた事と。世界の黒い感情を一時的にだけど、滅ぼした事と。自分の生まれを知った事。
大切なものは結局手を擦り抜けて行っただけだ。正直悔しいし今でも……いや、過ぎた事を言っても仕方ないな』

軽く頭を左右に振ってユーリは最後に小さく笑った。

『肩書きなんて。相手をある程度判断する材料にしかならない。名前に振り回されるなよ、お前は』

ユーリは軽く手を振って溶け込むように消えていく。


『あら、でも時には役に立つわよ』

三人目は黒髪の六歳くらいの女の子。
勝気な態度と自信溢れる対応。
今までの青年とは空気がまったく違う。

『あたしはレナ。グライアス作った王国が確立された時代出身の合体屋見習いよ』

両腕を組んでレナは不敵な笑みを浮かべた。

『取り合えず説明続けるけど、分かってるかしら?』

レナの問いに は困った顔で首を左右に振る。

『詰め込みすぎちゃったか』

 やれやれ。

そんな感じで両手を広げ肩を竦めるレナに、 は恐縮するばかりだった。




Created by DreamEditor                       次へ