『ハーレムクイーン4』



香西は南条の説明に耳を傾けていたが、表情を徐々に曇らせていく。

「知らなかった……元の世界。御影町がそんなことになってるなんて」
青ざめる香西の顔。
励ますように手を握り締めている内藤。
アヤセは詰まらなそうに口先を尖らせた。

「香西が騙されてたのはいーけどさぁ。アヤセ疲れた〜、チョーツカレタ」
床にじかに座り込みアヤセは愚痴モード。

「ご、ごめん」
気まずそうに謝る香西。
この宮殿を作り上げた張本人なだけに、良心が咎めるのだろう。

「まあまあ、過ぎちゃったことを掘り返してもナンでしょ。んで? 香西ちゃんはあの子の事なーんか知ってる?」
沈みかける香西の心情を察してすかさずブラウンがフォローした。

「あ、ええ。アキは不思議な力を持ってるの。わたしにも願いをかなえてくれる、あの鏡をくれたくらいだし。
彼女が住んでいるのはブラックマーケットから出た先にある『マナ』の城って呼ばれている場所……? 稲葉君?」

香西は説明していたが、難しい顔をしている稲葉の視線に居心地が悪く感じて。
言葉を切った。

「なぁ、園村・諒也。なんでお前ら香西と戦えたんだ?」
ずっと考えていた疑問だろう。
稲葉の問いに全員の顔が麻生に集中する。

「香西に話を聞いて欲しかったから、かな」
のんびりした調子で麻生が応じ、その間延びした返答に城戸は顔を顰めた。
アヤセは白い目で麻生を見、稲葉は口を開けたまま硬直する。

「ryouya? どういう意味ですの?」
比較的冷静なエリーが全員を代表して麻生に問いかけた。

「そりゃ、良心が痛まないかって聞かれたら。痛むけどね。だからって大人しく香西に殺されたんじゃ何も解決しないだろ?
ペルソナの力があるから、最悪死んでも生き返ることは可能だけどね」

微苦笑して説明を始める麻生。

「俺達が今立たされているのは現実だ。元の世界、俺達の御影町の異変も。俺達がこの異世界に飛ばされてきたのも現実だろ。
……神取から元の御影町を取り戻したい。園村の安否を確かめたい。そう考えたら例え嫌でも戦わなきゃいけないよな、相手が知り合いだったとしても」

寂しそうな顔で麻生が香西へ目線を送る。

「ううん。仕方ない。特別な力があるって有頂天になってたわたしも悪いの。自分の中のコンプレックスが膨らんで、打ち消したくて。
暴走っていうのかな、そういう気分になってた。誰もわたしの気持ちを分かってくれないって決め付けてた」

香西はサバサバした口調で答え首を横に振った。

「今回はなんともなかった。戦ったけど香西は無事だった。だがこの先、俺達が逆に加害者になるかもしれない。可能性がゼロじゃないなら覚悟はしないと」

静かに言った麻生の言葉は重くて。
聖エルミン生一行は黙り込む。

「それでも! 俺は助けてやりたいんだ」
掠れた声で稲葉は声を絞り出した。

「……私怨で悪いが、俺は神取を許すことが出来ん」
奥歯を噛み締め南条が低い声で言う。

「アヤセはねぇ。なんか、ココまで巻き込まれて知らん振りできないかなってカンジ。だって町はオカシイし、ガッコは凍っちゃってるし。
あのデヴァ・システム壊して治るならそーしたいかな、って」
アヤセは少し考えてから肩を竦める。

無責任な言動とも受け取れるが、巻き込まれたアヤセがここまで周囲の状況を配慮しているのだ。
それだけこの事件が異常だともいえる。

「persona使いである以上、見捨てては置けませんわ。彼の行動は常軌を脱しておりますもの」
「確かにヤバいよなぁ〜。ま、俺様に任せておけば即解決? なーんちゃって」
エリーが真面目に喋る近くでブラウンがおどける。

「わたしも、皆の力になりたい。アキちゃんの悪戯も止めたいし」
胸に下がったコンパクトを握り締め、園村が真っ直ぐ麻生を見た。

「わ、悪い。俺そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけど」
困った顔になる麻生の脇腹をアヤセが突いた。

「とかなんとか言っちゃってぇ〜、さり気に麻生ってばリーダーっぽいじゃん」
このこの。肘で麻生の脇腹を突けば、ブラウンが即行で騒ぐ。

「リーダーって言えば俺様だろ!?」
「客観性に欠ける判断しかしない貴様の、どこがリーダーなんだ?」
自分を指差すブラウンに、冷たい南条の一言。
ブラウンは大袈裟に胸を押さえて倒れ込み悲鳴を上げた。

「南条キッツ! 俺様ハートブロークン!!」
喚くブラウンに稲葉がため息混じりに零す。
「勝手に壊れてろ。香西、他に何か知ってる事は無いか?」
足先でブラウンを突き稲葉は再度香西に話題を持っていく。
香西は小首を傾げて暫く考え込んでいたが、静かに首を横に振った。

「ごめんなさい。……あっ、でもわたし一つだけ気になった事があるの。今回の件に関係しているか分からないけれど。
アキの住んでいるマナの城は、御影町の御影総合病院と同じ場所にあるの。そして南条君が説明してくれた、セベク。セベクビルがここには無くて、同じ場所に幽霊屋敷があるわ」

香西から齎される情報に、聖エルミン生は一同首を傾げる。

「故意に変えられたものか、それとも只の偶然か」
真顔で悩む南条。

「偶然にしては出来すぎてますわ、kei」
知性派。
これまでのエリーの台詞から察するに彼女は頭の良い生徒らしい。
南条にしっかり己の意見を返している。

「何があろうと俺様に任せりゃ万事オッケー!!」
無駄にテンションを上げるブラウンに、園村が苦笑する。

「ハァ。俺は段々不安になってくぜ」
「まあまあ、ブラウンなりに場を和ませようとしてる? んじゃないかな」
肩を落とす稲葉を麻生が慰めて。
アヤセは座り込んで休憩を決め込み、欠伸を一つ漏らした。
城戸は会話は聞いているものの自分から参加しようという気はゼロ。

 知らなかった。

麻生を筆頭とした聖エルミン生の会話を間近に聞いて、 は思う。

 知らなかった。選んで迷って戸惑って。
 当たり前だけど麻生さん達だって、必死だったんだ。
 単純青春物語かと思ってた。

当人達が聞いたなら、激怒間違いなし。
随分失礼な感想を抱いていた は、彼等への認識を改めようと考えた。




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