『ハーレムクイーン3』




は激しく動揺して胸を抑える。

 ちょっと、ちょっと! なんでもそれはマズイでしょ。
 だって友達なんでしょう? 園村さんと香西さんって。

 それなのにどうして戦えるの? 麻生さんだって止めてよ。
 どうして同じ知り合い同士で戦えるの??

不気味に吼えて攻撃してくる香西に、園村と麻生は怯むことなく立ち向かう。
ペルソナも使えば剣も、銃も。
明確に香西を倒す目的で使用しているのだ。

園村と麻生は迷い無く香西を攻撃し、激しい戦いの末彼女を打ち倒した。

「ウガアアアアアァァァ」
一際大きく香西が絶叫し、その身体が崩れ落ちる。

「千里!!」
園村は弓を落とし、慌てて香西に駆け寄った。
ぐったりして意識も無い香西を、アキは冷めた表情で一瞥。
小さく鼻で笑う。

「所詮、その程度ってコトね。アンタはもう用済み。じゃぁね」

 ニヤリ。
アキは意地悪く笑って姿を消した。

「……アキ」
アキの立っていた場所へ顔を向け、麻生が小さく呟く。
その間に園村が香西を回復さる。
気が付けば石にされた他の聖エルミン生達も回復していて、なんとも言えない奇妙な空気が漂った。

「香西……お前」
言いかけて稲葉は口を噤む。
エリーは驚いて口元を押さえ、アヤセは目を丸くする。
南条は少々俯き加減で口を引き結び、城戸はそっぽを向いた。

「香西ちゃん、その顔」
最後に、呆然とした調子でブラウンが。香西の顔を指差す。

「……いやあぁあぁあぁぁぁ」
姿見の鏡に映る己の姿に、香西は半狂乱になって叫ぶ。
沈黙する聖エルミン生を他所に、香西は叫んだ。

《恐らくはアノ鏡。願いを叶える事に代償として、あの女子生徒の顔にあのような》

 麒麟……、こんな時に冷静に解説してる場合じゃないじゃん。
 でも、アレは耐えられない。あんな風になっちゃったら。
 わたしなら泣くどころじゃない。

 アキちゃん、どうしてこんなことするんだろう。

麒麟を窘めながらも。酷く冷静で冷淡な自分が居る。
は客観的に香西を見ていた。

実際に会った事のある人ではないし、こちらに何かをしてもらった訳でもない。
彼女の事は気の毒だとは思ったが、自業自得だとも思った。

 逆に。疑問なのは麻生さん達でしょ。
 だって香西さんって知り合いなんでしょ? 園村さんとは仲良さそうだし。
 ヘーキでさっき攻撃してたけど……。

が思考の海に沈んでいると、荒々しい音と共に扉が開いた。

「千里!!」
頭と腕に包帯を巻いた聖エルミンの男子生徒の乱入である。
「内藤、大丈夫なのか?」
入り口近くにいた南条が男子生徒の名を呼ぶ。
内藤と呼ばれた男子生徒は曖昧に笑った。

「君達が地下鉄の悪魔を退治してくれただろう? こっちに来れると知ったら、居ても立ってもいられなくて。千里、無事だったんだな」
「来ないで」
香西に近寄る内藤を香西自身が拒む。
長い髪で顔を隠したまま、香西は俯いた。

「駄目、来ないで。わたし酷いことしたの」
内藤を拒絶する香西の言葉。

 ピシリ。

姿見の鏡に皹が入る。

「千里が悪魔に攫われて心配してたんだ。何かされたのか?」
心配そうに言った内藤に香西は首を横に振った。

「違うわ。されたんじゃなくて、したのよ。見たでしょう? この部屋にくるまでにあった部屋で。わたしはハーレムクイーンとしてブラックマーケットを封鎖して。
訪れる人を試したの……わたしと麻希の絵、どちらが上手いか聞いたの」

震える声で喋る香西の背中を懸命に園村が擦っている。

「皆、皆、麻希の絵を。だから石にした。命令したわ。その……バチが当たったの。陽介だって本当はわたしより麻希のコト、好きだったんでしょう?」

嗚咽交じりに零される香西の本音。
内藤は少し怒りが滲んだ顔で香西に歩み寄り、その顔を無理矢理覗き込んだ。

「確かに。園村さんを素敵だと思った時期もあった。けれど俺が付き合いたいと思ったのは千里だよ。信じてももらえないのか?」
内藤がそっと香西を抱き締め真摯に告げる。
「でもわたし」
「千里の性格を含めて俺は好きなんだ。顔だけで選んだんじゃないよ」
反論する香西の言葉を封じる内藤はとても格好良い。

わっと。

子供が泣き出すように、激しく泣き出した香西と、そんな彼女を優しく抱き締める内藤。

「うわ〜、アツアツなこって」
目の前で展開される青春ラブに、稲葉が顔を赤くして園村を見る。

一方、エリーとアヤセは手を取り合って羨望の眼差しを香西へ送り。
南条は呆れた調子で首を横に振っていたし、ブラウンは園村と麻生にちょっかいをかけていた。
石化中に何が起こったのか、根掘り葉掘り聞き出している。

「ごめんなさい、麻希。わたし貴女が羨ましかった。絵の才能も何もかも。羨ましくて仕方なかったの」
目を真っ赤にした香西が濡れた瞳を園村へ。
「ううん。いいの、千里。わたしだってちゃんと言えばよかった。確かに内藤君は素敵な男の子だけど、千里の自慢の彼氏でしょ? 疑ったら駄目だよ」
園村も涙で瞳を潤ませて首を横に振る。

皹が入っていた鏡が割れ、破片が周囲へ飛び散った。
破片は一斉に光だし閃光を放つ。

「ち、千里!!」
やっと視界が元に戻った時。
園村は慌てて香西に自分のコンパクトを開き、彼女の顔を鏡に映してみせる。
園村のコンパクトを覗き込んだ香西は両手を頬にあてて固まった。

「恐らくはその鏡の力が無くなったからだろう」
一連の流れを冷静に見ていた南条が、的確に指摘を飛ばす。
「わたし……」
呆然とする香西。
「よかった。よかったね、千里」
我が事のように喜び、園村が明るい声で言う。

「その……ハッピーエンドの最中、悪いんだけど」
申し訳なさそうに、麻生が口を開く。
全員の視線が麻生に集中した。

「あのアキちゃんって子の事、知ってる範囲で良いから教えてもらえないかな?」
首をかしげた麻生に、我に返って抱擁を解く香西と内藤。

でもしっかり手を繋いでいる二人を聖エルミン生はどっから見てもバカップルだった。




Created by DreamEditor                       次へ