『ハーレムクイーン2』



きっと本当は女子高校生でも、美人な部類に入る。

整ったお姉さん系の顔立ちの香西の表情は鬼気迫るものがあった。
も顔を強張らせて香西のオニのような顔を眺める。

 こ、コワッ。

《時として嫉妬は醜く人の心を焼く》

怯えるの頭に哲学する麒麟の回りくどいコメント。
ソルレオンは麒麟の台詞を聞いた瞬間から爆笑していて、話にならない。

「何が分かるって言うの!? わたしだって努力してたわ。懸命に頑張ったのに! いつも評価されるのは麻希の絵よ」
醜く歪んだ香西の瞳に燃え上がる憎悪の念。
「内藤君のコトだって……」
眦を吊り上げた香西が言い放つ言葉の一つ一つに、園村の表情が曇っていく。

「子供じみた愚痴をこぼしているんじゃねぇ」
麻生が口を開きかけた瞬間に、それを制するように。
城戸が素っ気無い口ぶりで呟く。

「下らなねェンだよ。力で人の心を思い通りにさせようとしたり、力を見せ付ける為にく宮殿なんざこしらえたり。ガキか、お前は」
鋭い眼光で香西を睨みつける城戸の淡々とした口調に、園村は押し黙り。
アヤセとエリーは互いに目を合わせ驚き。
南条は眼鏡のズレを直すフリをする。

「……城戸の意見はちょっと極論だと俺は思うけど」
これまでの沈黙を破り麻生が穏やかな顔で口を開く。
互いの怒りをぶつけ合う、香西や南条達とはやや違った態度で。

「香西の絵は、誰も否定していない。けれど絵の表現、この場合は展示方法が正統じゃないだろ? 上手い絵を描けばそれだけで素晴らしいもの、っていえるのだろうか」

困った顔で笑う麻生の笑顔は、 もピースダイナーで見たのと同じ笑顔。

「客観的に見て、絵の上手い・下手は存在する。だけど、それだけで絵の価値は決まるもんじゃないと思う。
御影町の廃工場で、マークも絵を描いてる。園村や、香西が描く本格的な絵からすればちょっとジャンルは違うけどね。確かに認知度は低いけれど俺はマークの描く絵も上手いと思うよ」
にっこり笑う麻生に、すかさずブラウンが背後から抱きつく。

「うわ〜!! りょうりんったら、男前!!」
「気色悪りーぞ、ブラウン」
麻生の隣に立っていた稲葉がげんなりした顔で、素早くツッコんだ。

「そうだよ! 千里。確かに人の好みで絵の……」
「五月蝿い!」
園村が口を開いたところで、香西は叫んだ。
穏やかになりかけた場の雰囲気が、再び緊迫の色を孕む。

「何が分かるの? 確かに絵は見る人の、受け取り手側の感性によって評価が変わるわ。わたしが言いたいのはそんなちゃちなコトじゃない。
そこに居る泥棒猫はわたしから全てを奪っていった。だからわたしも奪ってやったのよ。内藤君に憧れていた麻希。その麻希から内藤君を奪ったの。絵を描く事は、わたしにとっては、とてもとても大切な事」

園村を指差す香西。

《絶対に譲れない大切なものを、身近な人間と競い合う。最初は互いに良い刺激となっても、片方が苦痛に感じれば溝は自然と出来上がるわ》

 そーだね、ソルレオン。
 香西さん、園村さんのコト友達だって。
 ライバルだって思うから、余計に譲れないのかもしれない。
 引っ込みがつかないのかもしれない。
 ……不思議な力を得たから、間違えちゃってるのかもしれない。

 いつかの、わたしみたいに。

傍観者にしかなりえない状況で、 はただただ彼等の青春一ページを。
何処か冷めた目で見ていた。

「白黒つけたいの。相手が麻希、貴方だから尚更にね」
無表情に戻った香西が不意に落ち着いた調子で全員の顔を見た。

「もう一度尋ねるわ。わたしと麻希の絵、どっちが上手いと思う?」

「園村に決まってんだろ!」
間髪居れずに稲葉が怒鳴った。

「アヤセもそー思う」
「私もですわ」
ムッとした顔でアヤセが言い、アヤセに倣ってエリーも答えを口にする。

「ハイハイー! 俺様も麻希ちゃんの絵」
「愚問だな」
「くだらねぇ」
ブラウン→南条→城戸の順に男子生徒たちは返事をした。

「そう。分かったわ。……わたしの絵の良さが分からないなら、あのお方の指示通り、お前達をここで一生飼い殺してあげるわ」
香西が姿見の鏡に向って何かを呟く。
鏡は一瞬妖しく光り、次に光線を放つ。

「「「「「「!?」」」」」」
園村の絵を選んだ彼等が見る間に石化する。
驚く園村と麻生を除き、彼等は物言わぬ彫像に成り果てた。

「千里、どうして!?」
一歩を踏み出す園村の数メートル先が輝き、姿見の鏡の隣に黒服の少女、アキが姿を現す。
身を乗り出しかけ は口を真一文字に結ぶ。

「あははははっ。みーんな石になっちゃったv カッチカチ」
意地悪く笑うアキと、アキに膝を突く香西。
警戒の色濃く剣を構える麻生と、同じく弓を構える園村。

「その鏡を奪われたくなかったら、そいつらも石にしなさい」
アキが視線を園村と麻生に向け、香西へ命令した。

「……少し待ってください。麻生君、貴方にもチャンスをあげるわ。貴方はわたしの絵と、麻希の絵どっちが上手いと思う?」

すっと立ち上がり、台の上から麻生を見下ろしたまま香西が最後の問いかけを放つ。

「俺は園村の絵が上手いと思う」
香西の瞳を見据えたまま麻生は毅然とした態度で言い切った。

「ほら、気は済んだ? 早くやっつけちゃって」
冷淡な態度でアキは香西の背中を押す。

「鏡よ、鏡。わたしに力を!!!」
姿見の鏡に手を伸ばし呪文を唱える香西と、彼女の声に呼応して輝きを放つ鏡。

眩い光が部屋を包み込み、消え去った時。
禍々しい何かを纏った香西が不敵な笑みを湛え園村と麻生に襲い掛かった。




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