『ハーレムクイーン1』




地下鉄通路(迷路)を抜けた後、 はブラックマーケット(御影町ではジョイ通り)で何度目かの絶叫を放っていた。

「なんでココから抜け出せなんだよ〜!!!!」
出口から外に出たと思った瞬間、ブラックマーケット内部に引き戻される。

お菓子の家でマイに黒きガイアの説明をしてから。
次はアキに会うべく、マイの説明にあった『アキちゃんの家』目指して移動中であったのだが。

「こんの無限ループがあぁあぁぁぁ」
苛立ち紛れにブラックマーケットの壁を蹴る。
泥に汚れたスニーカーの靴底跡が、壁にくっきり残された。

ブラックマーケットに漂う、なんとも言えない妖しい雰囲気。
気だるげに歩く人々の奇抜な衣装。
まるで人らしい喜怒哀楽の感じられない平坦な感情。

すれ違う人々の心を占める単語は『ハーレムクイーン』

「むう〜」
ハーレムクイーンが支配するこのブラックマーケット。
どうやら潜入して、直接対話しか道はない。
一足先に麻生達がクイーンに会うべく向った事実も調べ上げ。
は少し迷っている。

 会うのはまずいんだよねぇ。
 見るのはダイジョーブなんだよねぇ。超メンドー。

ハーレムクイーンが居るという、カーマ宮殿。
入り口に当たる、ブラックマーケットの一角。
は一見何の変哲も無い扉を眺め腹正しさを込めて蹴りを一発。

無造作に蹴りいれた扉は のペルソナ能力によって、奥へ飛んでいった。

 ガンッ。

何かがぶつかって壊れるような音と、薄暗い奥へと続く通路。

《迷ってないでさっさと行きましょう》
頭の中でソルレオンが を急かす。

 分かってるよ〜。
 麻生さん達が怪我とかしてたら、それなりに罪悪感わいちゃうし。
 なんか、城戸さんの気配も下から感じんだけど、気のせいじゃないよね。

最深部に位置するカーマ宮殿目指し、 はトボトボ通路を歩いていく。
地下二階部分でエレベーターを発見する。
「ふーん。今までに無い新たなダンジョン」
閉じられたエレベーター扉。
上を見て、下を見て。
は見えない神取にも伝わるよう、精一杯の皮肉を込めて呟く。

《移動が楽で良いじゃない》
楽天家のソルレオンはのほほんとした口調で、に喋りかける。

 そーゆう問題じゃないっしょ……って。

ソルレオンにツッコミを入れようとしては閃いた。
エレベーターの扉を開き、内部に入る。
それからエレベーター床の隅っこに手のひらを当てて、魔法を放った。

「メギドラ」
核熱魔法はエレベーターの床を溶かし、人一人が降りれるくらいの小さな穴が。
は両手足をブラブラ揺らし準備運動。
オマケに首も左右に二回ずつ交互に回して、穴から飛び降りた。

冷たい風が吹きぬける。

「ヒャホォォオ〜。一度やってみたかったんだよね〜」

森での恐怖体験を忘れたい。
正義感に燃える自分と、流される自分。
針が振れ切っては元に戻る の気持ちの揺れ。

エレベーターを支える線に足を乗せ、下方向へ垂直に下っていく。
風の魔法を操り、落下速度を調節し。

は悪魔との遭遇と戦闘を避け、カーマ宮殿最深部手前、地下七階まで一気に降りるていった。

エレベーター扉をこじ開け、頭だけだして左右を確認。
人気が無いのを確かめこの場合一番頼りになるペルソナを呼び出す。

「ぺるそな〜」
を中心として青い円形の光が発生し、の目の前に麒麟が姿を現した。

「一人じゃ迷子になる自信があるし。麻生さん達と会うのもヤバイなら、麒麟に察知してもらった方が賢いよね〜」
にっこり笑顔で麒麟の頭を撫でれば、麒麟は小さく鼻を鳴らし。
無言のまま通路を歩き始める。

階段を降りたり落とし穴に落ちたり。
常識じゃ考えられない場所を通ったり。
紆余曲折を経てはハーレムクイーンの居る部屋前に到達。
扉に耳を当てれば、複数の人の声が入り乱れている。

「? うーん」
中に入りたいけれど、堂々と入るのは色々な意味で勇気がいる。
かといって、このままでいても何も変わらない。

情報も得られないし、 が何一つ肝心な手がかりを得ていない状況も変わらない。

「仕方ない。ソルレオン、お願い」
《ドロンパ》
ソルレオンの言葉と同時に身体が透け始める。
両手を眺め、完全に身体が透けきったのを確かめてから、 はそっと中へ入った。


ハーレムクイーン。
らしき、長髪の聖エルミン生が鏡を背に、怒りに燃える瞳で園村を睨みつける。

「私の方が絵だって上手いわ。なのに何故なの!? 何故、麻希は私よりも、私よりも」
足を踏み鳴らしたクイーンに園村の表情が曇る。

「悪いが俺は香西(かさい)、貴様の絵が園村より上等だとは思えん」
腕組みをした南条が素っ気無い口ぶりで言い切った。

「てゆーかー。無理矢理褒めさせるのも違くない? アヤセ、絵の事は良く分からないけど〜、今の香西の絵は嫌い」
頭の後ろで手を組んだアヤセも気だるげな態度ながら、自分の意見を口にする。

「ayaseに同意見、ですわ。人の心は、力によってforceするものではありませんもの」
長髪のポニーテールの聖エルミン生。
何時の間に麻生達に加わったのか、毅然とした態度でクイーンに意見した。

「まぁ、俺様もさぁ。絵の事は良く分からないけど。キョーセーは駄目っしょ〜。エリーちゃんの意見に俺様もサンセー」
ゴーグルをつけた、今時風の聖エルミン生も挙手。
名前を呼ばれたらしい、ポニーテールの女子生徒(エリー?)はゴーグルの男子生徒に微笑んだ。

「thank you! brown」
ポニーテールの女子生徒、エリー? は綺麗な発音の英語で、ゴーグルの男子生徒をブラウンと呼ぶ。

「エリー、ブラウン……。南条君に優香も」
園村が少し複雑そうな顔つきながらも、嬉しそうな声で仲間の名を呼ぶ。
部屋の片隅には城戸も居て。この三流茶番劇を小馬鹿にした様子で眺めている。

《どうやら城戸は彼等に合流したみたいね》
頭の中でソルレオンの声がする。
は黙ってうなずいた。




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