『演技者達4』



が城戸に近づくと、城戸は道路向かいの不思議な光の壁を指差す。

「変な機械に……神取に飛ばされて俺はココに来た」
城戸の説明に は矛盾を感じる。

 やっぱり。あのデヴァは神取が作って彼が操ってる?
 でも神取とは別の存在。
 アキちゃんだってこの世界を操る力がある。
 学園を迷路にして悪魔を呼び出して。

「確かめます」
は道路に車が走っていないのを見て、道路へ飛び出す。
手を当てて光の壁を触る。
固い感触に低い声で は唸った。

「元いた御影町の壁とはなんだか違いますね」
他の地域と隔絶された御影町とは違う種類の壁。

城戸もゆっくりとした足取りで壁に近づいた。
「ああ、違う」
口数の少ない城戸がきちんと の疑問に応じる。

「これって黒瓜さんに聞けば分かるかもしれないです」
城戸を追いかける寸前まで一緒に居た、外見はアレだが中身はインテリの黒瓜。
彼の名前を口に出すと城戸は明らかに表情を固めた。

「黒瓜か?」
驚愕しているような城戸の問いかけに、 は首を傾げる。

「え? はい。外見はオカルトマニアだったりするんですけど、話してみると頭良いんですよ。園村さんのこととか、学園を迷路にした黒い服の女の子のこととか。色々教えてもらいました」

 人は見かけによらないなぁ〜。

が密かに考え今までを伝えると、城戸は益々混乱したかのように顎に手を当てて眉を潜めた。

「知ってますか? 園村 麻希さん。元の御影町では知らないですけど、この町では。園村さんはアイドルなんだって。優しくて元気もあって」
続けて喋る を、城戸はある一言で黙らせた。
「園村はずっと入院している。同じクラスだが、俺は顔を見たことが無い」
城戸の言葉に は何度も瞬きをして口を噤む。

壁の冷たい感触と、黒瓜の言っていた園村なる人物の話と。
実際にペルソナを使っていた園村と。
今しがた城戸が告げた、入院している園村。

「じゃ、じゃあ」
気を取り直して口を開いた を城戸は、
「俺の知る黒瓜はイカれたオカルトマニアだ」
と言って再度黙らせる。

 うーん。城戸さんが言ってるのは、きっと『元の御影町』だよねぇ。
 園村さんは入院中で黒瓜さんはオカルトマニア。
 しかもヤバ目の。

 じゃぁ、わたしがさっき見た園村さんはこっちの園村さん。

 でも目の前に居る城戸さんは『元の御影町』組。

 あう、訳が分からなくなってきた〜!!!

「つまりは、この町と、わたし達の居る御影町では。人の性格が違う。入院していて学校に来れない園村さんは元気だし。オカルトマニアの黒瓜さんはインテリだし」
声に出して は今までの情報を整理した。
「まるで誰かが用意した俳優さんみたい。必要な役割を与えられて、その誰かに有利に動くみたいに行動するの」
ひとりごちた に城戸は小さく笑う。

下を向いていた に、その顔を見ることはなかったが。
城戸は周囲を見渡し慌てて学園から距離を置いて立て看板の裏側に隠れる。
遠慮なく の首根っこを掴んで。

「???」
顔一杯に疑問符を飛ばす に、城戸は僅かに首を横に振る。


「ったく酷い目にあったぜ」
声が聞こえて、稲葉が麻生にぼやきながら校門から歩道へ出てきた。
麻生は苦笑し、南条はそんな稲葉を鼻で笑っている。

「稲葉、お前の思考は軟弱だな」
目を細めた南条に、稲葉はムッとして口をへの字に曲げた。

「てゆーかー。どーでもいーけど、早くもとの世界に戻りたいってカンジ? アヤセにだって予定はあるし。アヤセ達のガッコは凍ってんだよ?」
気だるげにアヤセが意見を述べる。

「うん……。こっちの世界と向こうの世界。両方が大変な事になっちゃってるもんね。早くなんとかしなきゃ」
持っていた弓を構えなおし園村は決意の篭った瞳で宙を見上げた。

「入院してる園村、無事だといいけど」
さり気なさを装って発せられる麻生の台詞に。
聖エルミン組は押し黙る。

「おう! そうだよな。神取に滅茶苦茶にされた町を早く取りもどさねーと!」
握り拳を自分の手のひらで受け止めて、稲葉が気合を入れた。
アヤセは稲葉を白い目で見てため息をつく。

「アヤセは早く家に帰って寝たい。怖いことばっかじゃん、今まで」
歩道の小石を蹴り上げてアヤセは早くも愚痴モード。

「でも大丈夫だよ、皆で力をあわせれば。ね? 優香」
元気の無いアヤセの肩に手を置いて、園村が元気付けている。
女子二人組を傍観していた南条は握り拳を作り憎しみを込めた呟きを零した。
「神取……」
南条の胸ポケットに納まっている眼鏡が光を反射して光る。
俄仕立ての凸凹グループ。
会話は高校生らしくそれなりに成り立っていたが。

彼等の会話を黙って聞きながら は目を伏せた。


 フィレモンは麻生さん達が自分達の意思で、選んだって言ってた。
 確かにある部分は麻生さん達が選んでる。
 御影町を、入院中の園村さんを助けたい。

 違う、でも違う。
 誰かが内緒で糸を張って、相手が引っかかるのを待ってるみたい。

 罠っぽい。

息を潜めて隠れる城戸と の存在を知らず。
麻生たち聖エルミン組はワイワイ・ガヤガヤ。
賑やかに? 喋りながら聖エルミン学園から遠ざかっていった。

「城戸さん、またまた有難う御座いました。城戸さんには城戸さんの事情があるみたいだし、わたしにもこの町で会わなくちゃいけない子がいます。だから」
麻生達の背中を見送り口を真一文字に引き結ぶ。
背後に居る城戸を振り返れば、城戸は無表情のまま へ背を向けた。

「でもわたしでも助けられるなら、お手伝いします。一人で無茶はしないで下さい」

 きっと。お兄さんがいたら、あんなカンジ。
 城戸さんはちょっと怖くて、近寄りがたい空気を持っているけれど。
 人と馴れ合うタイプじゃないけれど。根が悪いわけじゃない。

は無言で去っていく城戸に自分の気持ちを告げ、気合を入れて己の両頬を叩いた。

 っし! わたしももう一回マイちゃんに会いに行かないと。


適当に歩き出した、 の背後。聖エルミン学園方向から。
「ったく俺サマ置いてくなんて、駄目じゃんか〜」
やたら人当たりの良い顔で状況を茶化す一人の聖エルミン男子生徒に。
「確かに合流が遅れてしまったのは事実ですわ。早く皆に追いつかないと」
男子生徒を宥めつつ、構えたレイピアを振り下ろす髪の長い女子生徒。
奇妙なコンビもまた聖エルミン校門から町へと飛び出していったのだった。




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