『演技者達3』



両手でコンパクトを包むようにして、アキは叫ぶ。

「ノモラカタノママ〜!!!」

コンパクトは眩い光を放ち、現れるのは巨大ネズミ。
鉄で出来た巨大なネズミのロボットのような、不思議な物体である。

聖エルミン生徒五人は油断無くそれぞれ、剣や弓や、斧、さらには鞭を構えた。
緊迫した空気が漂う。

その様子をリアルタイムで高みの見物。
つもりはないが、この図書室から中庭に出るのは恐らく得策ではない。
色々と教えてもらった黒瓜を危険に晒すわけにもいかない。

は呪文に首を捻り、コンパクトに疑問を抱き。
必死に頭の中で考えを纏めていた。

 あの呪文はマイちゃんも言ってた。
 多分、二人はあの森に居たから、知っていてもおかしくない。

 うん。

 次にコンパクト。

 アキちゃんのコンパクト。マイちゃんのコンパクト。
 それから町の『アイドル』だっていう、園村さんのコンパクト。
 同じだよね。ちょっと遠目で見えないんだけど。

「おや? 彼等は不思議な力を使えるみたいだね」
眼鏡をかけなおし、目を細め中庭を凝視して。
黒瓜は戦闘を始める麻生達五人を観察し始めた。

「そう、みたいですね」
返事を返して も戦いに見入る。
丁度園村がペルソナを発動していた。

目を凝らす の前で展開される、ネズミと聖エルミン生の戦い。
コミカルな動きをするネズミなのに、装備されているのは機関銃だったり。
真っ赤な燃える熱を放つ魔法? を使ったり。
明らかな敵意を聖エルミン生へ向けている。

《チュユゥユュゥウュウ》
ネズミの機械が耳障りな鳴き声をあげて機関銃を撃ち放つ。
は眉を顰めた。


 なんか、子供の悪戯にしては悪意がありすぎ。
 学校嫌いの高校生やわたしみたいな中学生だったら。
 もしかしたら学校なんか大嫌いとかって。

 考えちゃうかもしれない。

 こんな嫌な思い出しかない場所、壊しちゃえって。
 そう考えるかもしれない。

 小学生だったら、う〜ん、どうだろう?
 壊せばいいとは思うかもしれない。
 でもこんな性質の悪い意地悪はしない。

 もっとこう直接。
 例えば、地震とか起こして壊しちゃうよ。
 わたしだったらそうするし。
 いちいち悪魔に襲わせたりなんて面倒な事考えない。


そうこう が考えているうちに。
稲葉の振り上げた斧の一撃が決まり、鉄のネズミは動かなくなった。

「学園を守る勇者達の誕生、かな」
茶化す黒瓜に は曖昧な顔で笑い返す。

学園を守る勇者。ここでいう麻生達を招き、戦わせ。
この世界を作ったのが神取なら、大人ならこんな面倒をするだろうか。

 わたしなら絶対にしない。
 でも神取は傍観してるような、してないような。
 そういえばマイちゃんの前で会った時何か言ってたっけ。

 えっと……。

思い出せず、内心冷や汗をかく に裡へ篭っている麒麟が助け舟を寄越す。

《正しくは“良いのか? あのコンパクトを……”という言葉》
の脳内に響く麒麟の声。

 あ、そうそう。コンパクト! 神取はコンパクトを気にしてた。
 フツー男なのにコンパクトなんて気にする? しっかもアノ顔で。
 アノ歳で!!!

 ないない、絶対ない。マジありえない。

心の中で神取のあの姿とコンパクトを思い浮かべ、 は鳥肌を立てた。

 『コンパクト』が一種のキーアイテムって考えんのがフツーだよね。
 うー、ゲームの王道のようでなんかヤなカンジするけど。

が考える間に再度地震が巻き起こり、図書室も激しく揺れる。

「きゃっ」
小さく悲鳴をあげ は三度目の尻餅をつく。
スカートの裾を押さえた格好で はため息をついた。

 あうううぅう〜、この発見を麻生さん達に伝えてもいいけど。
 面識があるのって今のところアヤセさんだけだしなぁ。
 稲葉さんと麻生さんとは現段階ではこれっぽっちも。
 初対面も初対面。メチャメチャ胡散臭いよね、わたし。
 南条さんと園村さんは、わたしが一方的に知ってるだけだし。

 駄目じゃん。

図書室の出入り口へ目をやれば、酷く見覚えのある人物が図書室を通り過ぎていく。

「はえ?」
素っ頓狂な裏声を発し は図書室のドアを開け放つ。

 き、城戸さん!?
 なんで城戸さんがナチュラルに歩いてんの!?
 ココ(偽りの御影町の聖エルミン)で。

驚く を尻目に城戸は図書室から二階へ下る階段を下りていった。

「黒瓜さん! また後で話を聞きに来るかもしれません。その時はお願いします。助かりました〜」
形式的にお辞儀をして もダッシュ。

背後で黒瓜が何か言っていたような、言っていなかった様な。
よく分からなかったが今は城戸を追いかけるのが先だ。

城戸は二階から一階へ向う階段を降りて、昇降口へ歩いていく。
どうやら学園の外へ向うらしい。

 は、はやっ。足の長さが違うから追いつけないよっ!
 こーなったら、呼んじゃえ。

「城戸さん!」
ドキドキしながら は城戸の背中に声をかけた。
城戸は気付かずに何処かへ歩いていってしまう。
との距離は広がるばかりだ。

 声が小さいのかな。

「城戸さん!!! 城戸っち―――!!」
は自分でも精一杯。
普段は出さない大声で城戸の名を叫ぶ。
流石に城戸も の声が耳に入ったようで振り返る。
眉間に皴を寄せ怪訝そうな顔つきで。

「あ、あの。わたし」
肩で息をしながら口を開く を一瞥し、城戸は低い小さな声で呟く。

「またお前か」
「はい。……って、城戸さんはなんでここに?」
城戸に対する恐怖心は何故か には無い。
頭に浮かんだ疑問を率直に城戸へぶつけた。

「……」
制服のズボンのポケットに手を入れたまま、城戸は押し黙る。

「わたしなんだか知らないうちに迷い込んじゃったんです。セベクビルとか、この見影町とかに。ええっと、あの変な機械とか見ましたか?」

 ええい、城戸さんが話してくれないならその気にさせりゃーいいの!
 ガッツよ!  〜!!
 カマをかけるってゆーのかな?
 こういう言い方。

 いやーん、なんかスパイみたいでカッコイイ!!
 わたしってばv

沈黙する城戸にもう一度話しかければ、城戸は苦々しい顔つきで を手招きした。




Created by DreamEditor                       次へ