『演技者達2』




黒瓜に倣い も図書室の窓に駆け寄る。

「なっ……なにこれ!?」
驚きに考えた言葉をそのまま音にした の傍らで黒瓜は微かに笑う。

「いつになく派手な登場だな」
顎先で黒瓜が示した先には学園の中庭に佇む一人の少女。

「アキちゃん」
見覚えのある黒い服の少女の名前を、新たな驚きを持って は呟く。

「黒瓜さん、変じゃないですか? 高等部って中等部と造りは同じですよね?」
暫くは呆然とアキを窓から見下ろしていた は、学園のある異変に気付いた。
黒瓜は の発見に満足して何度かうなずく。

「そう。本来図書室は学園の中庭には面していない。よって、この図書室から中庭を眺める事は物理的には不可能だ」
指先で中庭を示して黒瓜は説明した。
「例えるなら。あの子は神に等しい存在なんだ。神出鬼没で、今やったみたいに建物の構造を捻じ曲げたり、果ては悪魔を呼び出したりしている」
黒瓜が窓ガラスの上から余計に小さく見えるアキの姿をなぞる。
次々に入ってくる情報に は唾を飲み込む。

が初めて見たアキ。
不安そうで寂しそうで何かを探している顔。
実際アキから感じたのは痛烈な孤独感。
埋まらない心の隙間だった。

けれど。
腰に片手をあてて何かを待つ、アキの今の姿は。

心細い雰囲気など微塵も感じない。
自信に満ち溢れ、埋め切れなかった何かを満たした顔をしている。

「アキちゃんが、神様」
デヴァ・システムにより作り上げられた偽りの御影町。
町を自在に操るというアキ。
親指の爪を噛み、 は必死に考えた。


 オカシイよ。だって神取がデヴァを作ったんでしょ?
 実際作ったのはニコライ博士だけど、作るように命令したのは神取。

 偽モノの御影町を作って、麻生さん達を招きいれて何をするつもり??
 だってただのコーコーセーでしょ、あの人達。
 ペルソナは、使えるだろうけどね。

 しかも神取じゃなくてアキちゃんが町を支配しているなんて。
 どーゆうコトなの?


窓ガラス向こうのアキ。
話しかけたくて が無意識に窓のカギへ手を伸ばす。
が、 の指先が窓のカギへ届く前に。黒瓜によって腕を掴まれた。

 なんで!?

怒りを込めて黒瓜を睨めば、黒瓜は力無く頭を左右に振る。

「言っただろう? あの子は悪魔を操る力を持った神みたいな子供だって。見付かったら酷い目にあわされる」
恐らく。
黒瓜自身が実際に体験し、見た事実をありのまま に伝えている。

黒瓜の顔に。
心の表層に浮かぶ感情が、彼の発言は正しいと肯定する。
は眩暈を感じてきつく両目を閉じた。


 嘘。けど本当なんだ、きっと。
 アキちゃんは何度かこの学園を襲って、生徒達に被害を出してる。

 なんで? なんでなの??

 神取じゃなくてアキちゃんなの?
 麻生さん達の心の闇を暴いてどうするの?
 そんなコトの為にニコライ博士にデヴァを作らせたの?


「違う」
瞼を持ち上げ、もう一度アキを見て。
は自分の考えを声に出す。

「違う。絶対に違う。わたしは信じない」
震える声で自分に言い聞かせる。キョコーの御影町。
偽りの町。
にしてみれば全てが作り物だが、生活する彼等にとっては現実だ。
こんな異常事態、許されるわけが無い。

 駄目。絶対に駄目。だってアキちゃん、自分から一人になってるよ。
 力があるからってなんでも壊して攻撃していいって、理由にはなんない……え?

「黒瓜さん」
黒瓜に握られていた腕から、黒瓜の手を静かに振り払う。
窓向こうのアキから視線を外さずに、 は名を呼んだ。

「今までに何度か学園を襲ってたみたいな説明してくれましたけど。あの女の子は、どうして学園に現れたりするんですか? どう見たって幼稚園くらいの女の子で高校には無関係そうですよね?」
「何故だか、僕も是非尋ねてみたいね」
黒瓜は苦笑いする。

「小さな女の子が学園を襲う。学園に、特定の高校に敵意を抱いている。あり得ない事だが、あの子自身には理由があってしている事かもしれない。
詳しく説明してなかったけれど、実際に何度も学園は襲われてるよ」

冷静な黒瓜の意見と、新たに教わる事実に は下唇を噛み締める。


 見たままを信じるか。捜すか。
 わたし自身に任されてるってコトね。
 きっとアヤセさんと会ったのも、あそこでマイちゃんの声を聞いたのも。
 ココで黒瓜さんと喋ってるのも。

 ぜーんぶ仕組まれている気がする。

 わたし、本当にナニもしらない。何も分かってない。


「そうですか……。被害は?」
極力平静を装って は更に会話を続ける。

「数人の生徒が怪我をしたよ。その度に園村なんかがあの子と戦って、なんとか学園を守っているけどね。おや? 噂をすれば学園を守る、いや、町のアイドルのご登場だ」

中庭に通じる扉が開いたような音がして。

中庭に飛び出す聖エルミン生の生徒達。
麻生を始めとして、稲葉・南条・アヤセ。最後に、見知らぬ頭にリボンを巻いた女子生徒。
全員を観察してから は女子生徒を指差した。

「あの頭の中央でリボンを巻いた人が園村さんですか?」
デヴァの機械の前で見た残像。
麻生達と共に神取と対峙していた聖エルミン生の一人。
一つ が気になったのは園村? らしき女子生徒が胸から下げるコンパクト。

 マイちゃんがしているのと、同じ。同じコンパクト。

当事者たちである麻生達生徒。
対して は外側から事件を眺めている。
当然事件の結果も知っている。
着眼点が彼等とは違うものになるのは当然だ。

遠慮なく疑問点を質問する を黒瓜は嫌がるようでもなく。

「ああ。彼女が園村 麻希。聖エルミンの人気者で、この町のアイドルみたいな存在さ。元気が良くて優しくて勇気があって、分け隔て無く接する」
何処までも穏やかに。
丁寧に説明してくれる。

『ノモラカタノママ〜!!』
丁度その時アキが呪文を唱える声が、 と黒瓜の耳に飛び込んできた。




Created by DreamEditor                       次へ