『演技者達1』




 また、この展開〜????

ジェットコースターで一気に落下する浮遊感。
次に来るのはきっとお尻を床に打ち付ける痛み。
つい数時間前に立て続けに飛ばされたのを思い出し、 は意味不明瞭な言葉を吐いて唸った。

 どすっ。

鈍い擬音と身体を襲う痛み。

「いった……って、またコレなの!!!」
ムッとして起き上がり周囲を見る。

「やあ」
突如 の視界一杯に広がる怪しげな人物。
「きゃぁあぁあぁぁぁ」
は心の底から絶叫して、自分でも驚く勢いで尻餅をついたまま後退した。

聖エルミン生の制服着用の男子生徒。
真っ白すぎる顔色に赤い怪しいマーク入りのバンダナ。
ボサボサの髪に丸い黒ブチ眼鏡。

何処から見てもヤバすぎる外見の持ち主である。

「ああ、ごめんごめん。驚かせたかな」
眼鏡をかけ直しつつ別段気分を害した風もなく。
男子生徒は に謝った。
「僕の名前は黒瓜。この聖エルミン学園の生徒だよ」
男子生徒・黒瓜が名前を名乗る。
は驚いて改めて自分の居る場所を確かめた。

 うっそ。マイちゃんの居た『お家』じゃない!?
 聖エルミンって。

 アヤセさんが凍ったって言ってたじゃない。どういうことなの???

混乱をきたす の視野に飛び込む怪しい扉。
ドクドクと心臓のように鼓動を繰り返す、不気味な空気を放つ怪しい扉だ。

「……ここは図書室、ですよね?」
本棚に納められた大量の本。
パニックに陥りそうな気分を沈めて は黒瓜へ尋ねた。

「見ての通り図書室だよ。それより君は大丈夫だったかい? 最近悪魔の襲撃が多くて困っているんだ。黒服の女の子が悪魔を引き連れて、この学園を攻撃しているんだよ」
明日の天気を語る気安さで、ありえない状況を説明する黒瓜。
「あの、ここって。森とかあったりします? 白い服を着た女の子が居たりして」
確証も何もない。
ただ目の前の黒瓜から悪意は感じない。

悪い感じがしない自分の感覚だけが頼り。
の問いかけに黒瓜はニヤリと笑った。

「ああ、森ね。あるよ。それがどうかしたかい?」
含みのある黒瓜の台詞。
は深呼吸してから捨ててきた自分と、決別して。
ちゃんと事実を知りたいと願う自分を表に出す。

「わたしは新たなグライアス。グライアスの名を継ぐ者です。この世界にはあってはならない存在を払う為に来ました。何か情報を知っていたら教えて」
フィレモンが伝えた虚構の御影町。
もう一つの御影町。
はマイがちゃんと『むこう側』に、 を連れて来てくれたと判断した。

「情報、か」
図書室の窓から外を眺め、黒瓜はひとりごちる。
は立ち上がり黒瓜へ近づいた。

「グライアスの伝承を知っているかい?」
考え込んでいた黒瓜がやがて喋り始める。
「少しは。でも良く分かってないんです」
は正直に答えた。

この場で見栄を張っても仕方ない。
知ったか振りをしても何も得られない。
非常時だから『猫被り』は捨ててきた。
元居た世界に。

今は自分について知る事が大切である。

「……魔獣の王・グライアス。強大なガイアの力を有しながら調和の力を持つ。初代グライアスはフォースの女神に導かれその能力を身につけたといわれている」

静かに黒瓜は説明を始めた。
オカルトチックな外見にそぐわず、非常に冷静で理知的な人物らしい。

「初代グライアスは魔獣を引き連れ新天地を開拓。そこで暫くの間、魔獣達と共に平和に暮らした。やがて人々も移り住むようになり、人々は魔獣との共存の道を歩み始めた」

穏やかな黒瓜の語り口と外見のギャップ。

はこの際、気にしないことに決めた。
小さく頷いて黒瓜に話の先を促す。

「だが、人類は持っていたガイアの力で、呼び出してはいけないものを呼び出してしまう。人々の負の感情、黒きガイア。
黒きガイアは植物を枯らし人々を死に至らしめる。現代になぞらえるなら死の病。生きとし生ける者に平等に降りかかる死の病」

黒瓜の説明は二代目グライアス・ユーリの話とほぼ同じ。
改めて話の壮大さを思い知り、 は無意識に肩に力を入れていた。

「恐ろしい負の感情の塊、黒きガイアは本能だけの存在。全てを破壊しつくすまでその暴走は止まらない、という化け物。打つ手はないかに見えた」

黒瓜の眼鏡の端が窓の外からの光に当たって反射する。

「初代グライアスの生まれ変わりが、魔界において黒きガイアを調和の力で殲滅。人類と魔獣達を守る。
それ以降、グライアスの証、エルの杖を手にした者が王となることになった」

は小さくして、制服の胸ポケットに仕舞ったエルの杖を服の上からなぞる。

「グライアスは調和の象徴。ガイアとは対極を成すフォースの力を持つ者。絶対たる力を持つ魔獣の王。……まぁ、あくまでも伝説。
ノアの箱舟の伝説や。日本書紀に出てくるような伝説に近い話だけどね。参考になったかい?」

「あ、あの。黒いガイアって、本当に消えたんでしょうか?」
話し終えた黒瓜に は感じた疑問をぶつけた。

「さて、どうかな? 黒いガイアは人々の負の感情から生まれる。憎しみ・悲しみ・妬み・恨み。大なり小なり誰もが持っている負の感情だ。
聖人君主じゃない限りは。誰だって持っている種みたいなものさ」
黒瓜が言い終えるか、言い終えなかのうちに。
激しい地震が学園を襲う。

「きゃっ」
再度尻餅をつく と、顔色を変えて窓に近づく黒瓜。

今迄学園を覆っていた穏やかな雰囲気が一変し、御影総合病院で感じたような、重苦しい怪しい空気が漂い始める。

「なんてことだ」
額に手を当てて黒瓜が心底苦々しい。
といった態で舌打ちをした。




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