『デヴァ・ユガ4』




はトリッシュの泉で震えながらくしゃみを漏らす。

「あう〜……」
鼻声でぼやき、トリッシュの『サービス特価』で特別に制服までクリーニング。

「ロイヤルミルクティー飲みたい」
遠い目をして が言えば、トリッシュはいそいそと電卓を叩き、ソルレオンと密談中。
麒麟は蹲って休んでいて見事にバラバラ。
は身体の奥に残る寒気を追い払うべく、両腕を擦りながら泉を覗き込む。

眠りから覚めた麻生達が不思議がりながらも、再び起き上がり移動を始める。

「麒麟〜」
泉から顔を離して は麒麟を手招いた。
麒麟は不思議そうな表情を作りつつ、大人しく に従う。

「戦わなくて済んだかも知れない、麻生さん達を戦場へ送ってしまいました。ちょっと残酷だったよね」
棒読み口調で は言った。

 わたしだって。神取だって、アキちゃんだって。
 神様にはなれない。
 なったとしても、欲だけがドンドン膨らんで破裂すんのがオチってヤツでしょ。
 どっかでやってた、ハリウッド映画じゃないけどさ〜。

「仕掛けたのは神取だって思うから、やっぱ、ラスボスらしく。麻生さん達の怒りの鉄拳をうけなきゃいけないって思うわけよ」
麒麟は目尻を下げ曖昧な表情を浮かべる。

「……ま、考えてもしかたない、か?」
が言い終わらないうちに、トリッシュの泉の空間が開き。
黒スーツの男達が乱入してくる。
ポカンとする を他所に男達は銃を乱射した。

 ドドドドドッ。

耳を塞ぎたくなる銃の爆音。
は両手で耳を塞ぎ姿勢を低く保つ。

「全ては神取様の為に!!」
濁った茶色の瞳。歪んだ唇と、人形のような動き。
カタコト交じりの妖しい発音。

《デヴァ・システムによる精神の支配》
と同じく身を伏せて床に這い蹲る麒麟が男を言い表す。
うなずき は叫んだ。

「ぺるそなっ!!」
《マハブフダイン》
応じてソルレオンが黒スーツの男達へ冷気を吐き出す。
冷気の風は男達の両手足を凍らせた。
男達の背後に見えるのは、神取の背後にも見えた無数の仮面の気配。

《クククッ、覚悟も無いのに正義の味方を気取るか。小娘》
仮面の一つが を嘲笑った。

 ムカ。
 一々人の事馬鹿にしてないと気がすまないわけぇ!?
 こんのペルソナ。

「いいわよ。覚悟を決めればいーんでしょ」

脳裏に浮かぶ。
山岡老人の死。
道端で大怪我を折っていた名も無き人々。
混沌の鏡で消された区域に住んでいた人々。
神取はその手を血に染めた。
それだけの度胸と覚悟があってコトを仕掛けた。

応じる麻生達もセベクビルで、この迷宮で。
幾度と無く『人』を相手に戦い時には救い時には。

 わたしは。わたしが正しいと思える行動を取りたい。

銃を構える。
狙うのは黒スーツの男の額。
無造作に。
表情一つ変えずに は一人の男の命を奪った。
乾いた銃声と倒れる一人の男。

 呆気ないモノ。けど重いモノ。

凄まじい勢いで流れる心臓の鼓動。
は頭に血が上って暫くぼんやりしていた。
惚けて立ち尽くす を放置して、麒麟とソルレオンが残りの男達に止めを刺していく。

「うわ〜んっ! ボクの商売場所が〜!!!!」
頭を抱えてトリッシュが喚き、右往左往する。
「ごめん」
涙目になったトリッシュに は肩を竦めて謝った。
「ごめんで済むなら警察は要らないでしょ〜!!!!」
恨みがましい視線を へ送り、トリッシュが顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
乾いた笑みを浮かべて は手のひらを胸の位置に持ち上げた。

「でもココ今は無法地帯だし」
えへv 尤もらしく言い切る にトリッシュも反論できず言葉に詰まる。
「喰えない王様って、ボク、キライだよ」

 むう。

頬を膨らませるトリッシュを拝み はソルレオンと麒麟に向き直った。

「神取と麻生さん達、戦ってる」
上部から感じるペルソナの鼓動。
激しくぶつかり合う様を肌で感じる。

《ええ。但、今回は駄目よ。時の流れそのものを捻じ曲げるのは駄目》
険しい顔つきでソルレオンが に釘を刺した。

「そうなの?」
大して深い意味を持たず は瞬きをしてソルレオンに返事を返す。

という少女が一人消えるだけよ》
「……麻生さん達は強いから大丈夫でしょ!」
ソルレオンの説明に は態度を一変。
親指を立てて爽やかに一人笑う。
そんな変わり身の早い を、トリッシュと麒麟が白い目で見ていた。

「さあ! 戦いは戦士に任せてこっちはこっちで、れつごー」
白々しく拳を掲げた
「じゃ、トリッシュ。またね」
主にトリッシュの泉に世話になった。
は満面の笑みを湛えてトリッシュへ手を振る。

「こんな風に営業妨害するなら二度と来ないで」
周囲に散らばる見るも無残な残骸と、血の匂い。
泉も荒らされて、自分も少し脅されて。
王様なだけに暴君なのか?? 出来ることならもう少し、カモれる王様で居て欲しかった。
万感の思いを込めてトリッシュが応じる。
心底嫌そうな表情付で。

「ヤだなぁ〜vんなコトする訳ないじゃん」
言いながら笑顔を崩さず、 は言葉の意味は深く知らない詠唱呪文を唱えた。
あの黒きガイアをも退けた魔法を。

小学生の時に見た漫画のように。
ドガァン、なんて効果音と共に爆発するトリッシュの泉。
慌てて姿を隠したトリッシュが呆然と瓦礫と化した商売場所を見下ろす。

「物分りの悪い商人(あきんど)は嫌いだよ」
小首を傾げて忠告すればトリッシュは勢い良く何度も首を縦に振った。

《あはははははははは〜》
ジェットコースターのように乱高下する、 のテンション。
の行動が面白かったのかソルレオンが耐え切れずに爆笑する。
そんな中、一つのペルソナの気配が消えた。




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