『デヴァ・ユガ1』



痛む身体。鞭打って は上半身を起こす。

 もーいいよ。諦めた。
 飛ばされるたーんびに、こーやって身体をぶつけるのが、わたしの宿命なんだね……。

 はぁ。

ため息をつく の頭の上で甲高い声が。
「ハァーイ! 渡る世の中ギブ&テイク! ボク、トリッシュ」
「……はぁ?」
淡い光に包まれた中心に羽の生えた妖精? らしきモノが浮かんでいる。
よく見れば、小さな泉の上に浮かぶ妖精? だ。
はトリッシュと名乗った妖精? を見る。

「うわぉ! 生で見ちゃったヨ☆ 君は魔獣王だねv」
もみ手をしながらこちらに寄ってくるトリッシュの瞳に浮かぶのは¥マーク。
「や、まだそーじゃない」
「またまたぁ! ケンソンしちゃって〜v 初回だから特別サービスv 回復安くしとくけどどう?」
否定しかける の言葉を遮り、トリッシュは己の用件を一方的に喋った。
「かいふく?」
発音が鈍いのはご愛嬌。
首を傾げる にトリッシュは胸を張る。
「そう! ボクの管理する回復の泉の力で身も心もリフレッシュ〜!!! 料金はリーズナブルだよ」
トリッシュが満面の笑みを浮かべるが、 は笑えない。
「ああ、そうなの」
曖昧に相槌を打てば、間髪いれずに始まるトリッシュマシンガントーク。

「外出歩くなら回復しておいた方が良いヨ〜。なんてったって、ココはデヴァ・ユガ。デヴァ・システムが作り上げた城。
建物にいる人達は洗脳されてるし、悪魔は沢山出るし。出口もないし。外の御影町も危険だからネ☆」
人差し指を立ててウインク一つを飛ばすトリッシュは迫力がある。

「世知辛い世の中だよネ〜。さっき来た学生達は、財布の紐が固いんだから。折角ボクがこの危険地域に出張サービスしてんのにサ! しっつれいしちゃうよ!! って!」
トリッシュが一人語っている隙に、 は小さな泉を覗き込む。

「ボクの商売を」
「黙って」
鋭い口調で がトリッシュを黙らせる。
気迫負けしたトリッシュが大人しくなり、 は真剣な顔で泉を覗き込んだ。

 わたしの記憶が正しいなら。
 トリッシュの泉のもう一つの利用方法は。

の指先が泉に触れる。
湖面が揺らめき の念じた場面が浮かび上がる。

『見るがいい』
勝ち誇った神取が鏡に映る御影町を指差す。

セベクビルが見る間に変化して、マナの城のような怪しい雰囲気を持つ建物へ変化した。
セベクビル最上階から放たれる光線が、閉じられた御影町を破壊していく。

『ふふふふ、さあ、行こう。アキ』
『うんv』
麻生達の制止を振り切り、逆に悪魔を仕掛け消える神取とアキ。

悪魔に足止めをくらい、焦る気持ちを抑え迎え撃つ麻生達。

麻生達は相談を重ね、セベクビルと位置が重なる古びた屋敷へ足を踏み入れる。
そこにはセベクのスタッフ。
デヴァ・システムを開発した社員達が数名存在。
冷静に。
逸る気持ちを抑えて麻生達は地道に情報を集めていく。
神取を止める為に。

 麻生さん達は。流されてるみたいに見える。
 見えたよ。

 ちゃんと考えて、迷って。
 それでも神取打倒で一致団結してる……のかなぁ?

幽霊屋敷の最上階。
怪しい風貌を持つ悪魔モドキを前に激論を交わす麻生達。

戦う派と戦わない派に別れマジ喧嘩。
仕舞いにはペルソナまで使ってのガチンコに発展。
数分もしないうちに笑顔でキれた麻生に恐れをなして。
城戸さえもが麻生の戦わない、という指示に従っている。

 優しい人ほどキれると怖いってゆーよね。

 優しいだけじゃない。
 物静かなだけじゃない。
 案外、血の気の多い麻生の意外な一面。
 爽やかだけじゃなくて、意地悪なところもあったり。
 男らしい硬派な部分もあったり。
 わたしも仮面をつけるように、麻生さんも沢山の仮面を持ってる。

 単純で真っ直ぐで。
 園村さんだけを心配してる。
 そんな稲葉さんも。

 怯えるアヤセさんとエリーさんを背中に庇ってる。
 本当は稲葉さんだってキれた麻生さんが怖いくせに。
 ええかっこ、しい、だよ。

 頭でっかちかな、って感じてた南条さん。
 意外。
 ちゃんと城戸さんを宥めて、麻生さんを叱ってる。

 確かに黒い笑顔を浮かべられたら相談もできないよね。
 ブラウンさんの冗談に近い意見もちゃんと聞いてる。
 自分が絶対正しいって。
 そーゆうタイプかと思った。

怪しい風貌の悪魔モドキは、園村の呼びかけにより人の姿を取り戻す。
麻生達の会話から、彼女はセベクに勤める園村の母親だと分かる。
彼女の手引きでデヴァ・システムを再起動して神取の作った宮殿へ乗り込む。

一旦ココで映像が途切れた。

「麻生さん達、凄い」

クラスメイト。
それだけで一緒にされて事件に巻き込まれて。
命が懸かってるとはいえ、ここまで頑張れるだろうか? 
互いに罵り合って、そっぽを向いてしまわないのだろうか? は感嘆の声を漏らした。

《ふふふふ、さっき見てたでしょう? 意見の衝突はしょっちゅうみたいよ》
いつの間にか。
泉の淵に前足をかけソルレオンも と一緒になって。
泉を覗き込んでいる。

噴出しそうなのを懸命に堪えて意見を言ったソルレオンに は穏やかに笑う。

「うん。ガチンコで喧嘩するなんて、やっぱ凄い。ペルソナまで使っちゃうなんてさ」
自分だったらトラウマもあるし。
使ったりできない。
相手が同じペルソナ使いでも。

自分の方が上だと自惚れるつもりはないが。
それでも麻生達よりは強いと思っている。
だから喧嘩なんて論外だ。

《相手を認めつつあるってトコかしら? 本当に嫌いだったら喧嘩なんてしないものよ》
熟年者の余裕? を滲ませてソルレオンが尤もらしく云う。
はクスクス笑ってソルレオンの背中に顔を押し付けた。

「麻生さん達なら勝てちゃうかも。わたしの影の協力なんてちっとも必要ない。そんな感じする。超みっともない、わたし。
麻生さん達の心配なんてしてる場合じゃなくて。もっと自分の心配しなきゃいけないんだよね〜」
押し付けていた顔を上げて は小さく唸った。




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