『作られた出会い3』



 寒い感じがする。
 体感温度じゃなくて。
 身体の心から冷えていく誰かの気持ちが、流れ込んでくる感じ。


「お姉さん、大丈夫ですか?」
が瞼を開ければ白い服を着た小さな女の子が傍らに立っている。
「ヘーキじゃないの?」
白服とは対照的な黒い服の女の子。
冷めた口調で呟き、腰に両腕をあててリアトリスを見下ろした。

「……ぺるそな、様の時に出てくる女の子の幽霊?」
徐々に覚醒する頭。リアトリスは低く呻き上半身を起こす。

白い服の女の子はクマのヌイグルミを持ち。
おとなしそうな雰囲気。

黒い服の女の子は手ぶら。
勝気な雰囲気を持っている。

の呟きに黒服の女の子は鼻で笑った。

「さあ? 噂は所詮噂だもん」
大人びた仕草で肩を竦める黒服の女の子。
は、双子のようにそっくりな二人の女の子を交互に眺め表情を和らげた。

 さっきの寒さはこの子達から。
 寂しい悲しい孤独な気持ちが溢れ出してる。

「えっと? アキちゃんとマイちゃん?」
確信を持って は二人の少女の名を呼んだ。

 理解(わ)かる。
 この二人が心の奥底に蓋をして隠しているモノは分からないけど。
 名前は分かる。

 黒い服の女の子がアキちゃん。
 白い服の女の子がマイちゃん。

アキとマイは一瞬顔を見合わせ。
それから の上着を左右から掴んだ。

「聞こえてたの?」
さっきまでの強気な態度は何処へやら。
アキは上目遣いに を見上げる。
「はっきりとは聞こえてないけど。大雑把な感じでなら聞こえる」
不安顔のアキにぎこちなく笑いかけて は答えた。
「お姉さん、お姉さん!」
マイは妙な高いテンションで に縋りつく。
己の気持ちを上手く表現する言葉が見付からないようだ。
「それにしてもココは?」
長閑な森の中。
漂うのは甘いお菓子の香り。

眉を潜める にアキとマイは無邪気に笑う。
「「ここは私達の家なの」」と、声を揃えて言いながら。

「家」
は呟き空を見上げる。
不思議な灰色の雲が垂れ込めた空。
町を切り取ったかのように伸び上がる七色に輝く壁。

「ここは御影町よね? でも、どこの御影町なのかな」

セベクスキャンダルの後、エルミン学園でまことしやかに流れた噂。

御影町の一部が謎の壁に覆われたあの事件の時。
二つの御影町があの壁の向こうにはあって。
現実とは思えない恐ろしい世界が広がっていた。
なんて、そんな噂。

一年とちょっと経った今じゃ、誰も信じていない噂だけど。

「マイちゃんのお家がある御影町です」
余り説明になっていないマイの説明に、 は目を丸くして破顔した。
一生懸命説明しようとするマイの姿が微笑ましく思えて。
「要するにアキの世界の中。パパが作り上げようとしている世界」
肩にかかった髪を払いのけ、アキが次に喋る。
「第二の御影町。ここにジャックフロストが言っていた皆が居るのかな」
が首を傾げればマイとアキが交互に口を開き、 の立場を説明し出す。

「お姉さんは特別なんです」
と、マイ。

取り立てて裏のある様子も見せない。
マイが喋るマイの本音なのだろう。

「悔しいけどあたしじゃ太刀打ちできない位よ」
アキは素っ気無い口調ながらも、 の反応をちゃんと観察しながら。

「世界に干渉する力を持っているからこそ、この『家』にも来れたの。……あたしの気持ちを理解したのは驚きだけど」
「でもでも。お姉さんは何も覚えてないんです。早く『思い出して』欲しいです。あの怖いのを早く追い出して欲しいです」
アキ→マイの順に喋り終わったその瞬間。

目の前の木が歪み、一人の男が姿を見せた。
黒いスーツを着こなしたその男。
には見覚えがあった。

「神取……鷹久……」
カラカラに乾いた口が呆然と男の名を呼ぶ。

事件の際行方知れずになり死んだと噂される若き支店長。
ワイドショーで。
TVのブラウン管ごしに眺めた遠い存在。
薄暗い瞳が を捉える。
視線がかちあった数秒間、得体の知れない悪寒が を襲った。

「パパッ」
身体を強張らせた を無視してアキがはしゃいだ声を上げた。
嬉々として神取に抱きつく。
逆にマイは怯えて の背後に隠れる。

「君は誰だ?」
鋭い神取の視線が再度 を捕まえた。
「確かめる為にココに来たの。残念だけどわたしにも分からないわ」
精一杯の虚勢を張り、 は神取に答える。
神取の口角が皮肉を形作るように持ち上がった。

 怖い。この人、何を考えてるかまったく分からない。

は無意識に身体を震わせた。

「……行こうよ、パパ」
妙な緊張感を打ち破るのはアキ。
を。マイを。
一瞥して神取を促す。

「良いのか? あのコンパクトを……」
「駄目よ。まだ力が足りないの」
言いかける神取を制してアキは森の外へと走り出す。
神取は苦笑しただけでそれ以上は何も言わない。

悠然とした足取りでアキの跡を追いかける。
は呆然と二人を見送った。

同じく二人を見送ったマイが、不安そうな顔つきのまま の目の前に移動する。

「お姉さん、早く思い出して欲しいです」
今にも泣き出しそうな顔でマイは に訴えた。
「思い出す?」
「はいです。マイちゃんにはこれくらいしかお手伝い出来ません。お爺さんの所へ飛ばしてあげます。お爺さんから詳しい話を聞いてください」
胸元のコンパクトを に差し向けマイは笑顔で言う。
「お爺さん? 誰それ……っていうか、マイちゃん! アキちゃんと神取は……」
手を伸ばしマイに触れようとして見えない壁に弾かれる。
「お願いです。アキちゃんと……   を助けて下さい」
眩しい光に弾かれた刹那、 は見た。

泣きじゃくるマイと、マイの姿に驚く七人のエルミンの生徒達の姿を。
雷が落ち崩れ落ちる生徒達の中に見知った顔が二人。


「麻生さん……稲葉さん……!?」
つい数分前に出会ったエルミン出身の二人組み。
目を見開く の身体は強い力に流されて飛ばされていった。




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