『作られた出会い2』



神埼 リアトリス 
当時14歳は急ぎ足で。
というか走っていた。

ジョイ通りの人込みを抜け、地下鉄御影駅方面に出る。
それから左右を見渡して、YIN&YAN方向へ駆け出す。

青い残像をちらつかせ の目の端を掠める人型雪だるま。
元々 が居たアラヤ神社の方角に移動している。

「ジャックフロスト……」
口で息をしながら は一人呟く。

 確信はないけど、あれは『ジャックフロスト』種族は妖精。

《ヒーホー》
スキップしながら歩くジャックフロスト。
コミカルな動きとユーモア溢れる外見。

「でも……異種族」
の家。
神崎家は不思議な能力を持ち、勘が鋭い。
彼女の第六感はジャックフロストを追えと。

の脳に強く信号を送っていた。

他の通行人にはジャックフロストの姿が見えていないらしい。
お陰で先ほどのように誰に見咎められる事なく。
はアラヤ神社に舞い戻ったのであった。

不思議な仮面が鎮座するアラヤ神社内部。

「はぁ……はぁ……」
久々の全力疾走に は肩で息をしながら、ジャックフロストの気配を捜す。
《ヒーホー。ヒホ!》
 きょときょとと、周囲を見渡した の真上。
器用に天井に逆さに立つジャックフロスト一匹。

「きゃっ」
ジャックフロストの口から吐き出された冷気に は首をすくめる。
「寒い〜」
ジト目でジャックフロストを睨めば、意外にもジャックフロストは驚いて目を丸くした。
《見えてるホー?》
「ええ。見えてるわ。しっかりばっちり」
おずおず尋ねてくるジャックフロストに、 は内心ドキドキしながら答える。

走ってきたのだから心臓がドクドクするのは当然だ。
けれど頭の中は冷静で心だけが不思議とドキドキしている。
奇妙な緊張と高揚感。
は無意識に頬を赤く染めた。

「どうしてって……君に聞いても仕方ないかな」
深呼吸してから口を開いて は苦笑。

ジャックフロストは最初は興味津々といった態で。
最後のほうは何かを確かめるようにジーッと を観察した。

《知ってるヒホ。ずっとずっと待ってたヒホ。皆待ってるヒーホー》
の意に反し、ジャックフロストはとんと。
アラヤ神社の床に着地し、手を差し伸べてきた。

「皆?」
聞き返す に脳裏に残像が過ぎる。

血塗れの獣。
杖。
暖かい光。
輝きを放つ石。
黒き翼の羽ばたき。
黄金色の蝶。
無数の顔を持つかの人物。
戦いを挑み傷付くエルミンの生徒達。

白と黒の服の少女に。
不敵な笑みを浮かべる黒いスーツの男。
背後に蠢く闇と異質な印象を受ける銀色の怪しい機械。
聳え立つ漆黒のビル。

「セベクスキャンダル」
が見たワイドショーで映しだされていた在りし日のセベクビル。
全てがあのセベクスキャンダルに絡んでいるのか?

自分の記憶も。
この不思議な生物も。
第六感も。

一言呟く にジャックフロストは暫しの間沈黙する。
考え込んでしまった と口を噤むジャックフロスト。

《行く、行かないは自由ヒホ。選ぶヒホ》
単純に感じて奥が深いジャックフロストの投げる二択。
「じゃあ選ぶ」
が深く考えずに手を取った。

 だってなんだか、ワクワクするじゃない。
 わたしを呼ぶ謎の声。
 不謹慎? ううん。
 でもわたしの心が叫んでる。


 行かなくちゃって。


《後悔するなよ、ッホ》
愛くるしい外見に反して中々毒舌家のよう。
ジャックフロストは意地悪く目を細めて へ言い放った。
「しないわ」
強気で言い返して。
はヒンヤリ冷たいジャックフロストの手を掴む。


 そう。
 わたしは何にも知らなかった。
 全部全部仕組まれていたって。
 理解してたのに。


 子供で全てを受け入れられるほど大きくなかった、ちっぽけな小さなわたしの冒険。
 ジャックフロストの冷たい感触を残してわたしは意識を手放していた。



目覚めた の目の前には。
顔半分を覆った不思議な白スーツの男が立っていた。
『わたしはフィレモン。時の狭間に住まう者』
に向って喋る白スーツの男。

蝶と同じ名前、自称フィレモン。
不思議な空間に浮いた丸い床と天井を支える柱。
白と黒のコントラストが目を引く。

《我が名は     。汝からこのような招待を受けるとはね》
我知らず。 の口は本人の意識を無視して口を開いた。
『時間が無い。秩序を乱す輩があの世界へ舞い降りた。それを阻止しなければならない』
こめかみに指を当てフィレモンは言う。
《断る、と言いたいが。行動を伴ってこその我が名。回収しなければならない遺物もあることだしな。アイツはまた高見の見物か?》
皮肉げに笑う
フィレモンは一瞬瞠目した。
『……』
沈黙は肯定。
《そうか。ならば我も遠慮はしない。楽しい宴になると良いな》
捨て台詞を残せば加速度をまして遠ざかるフィレモン&空間。
豆粒になってから消えるフィレモンの姿。
金色の蝶とフィレモンの姿が重なって見えた。



Created by DreamEditor                       次へ