『作られた出会い 1 』



「わ、笑わないで下さいね」
前置きする。

笑顔の似合う『綺麗』なお姉さん系。
天野 舞耶さんはなんだか楽しそうに笑って。
傍らに立つカメラマンの卵・黛 ゆきのさんは呆れた顔で舞耶さんを見てる。

「元々霊感体質みたいなものがわたしにはあって。
それでその日も蝶に誘われて、アラヤ神社に行ったんです。誰にも見られてないと思っていたら、あの人達に見られちゃってたんです。しっかり、ばっちり」

今となっては懐かしい。
大変だった冒険も喉もと過ぎればそれなり、かな。
わたしは天野さんと黛さんに喋り始めた。





わたしが『わたし』を取り戻した事件。

それはセベクスキャンダルから一年とちょっとがたったある日。
帽子が似合う愛嬌のあるお兄さんと。
ピアスが妙にマッチする美青年系のお兄さん。

揃って困惑した顔をわたしに向ける。

困ったなぁ。
わたしも知らないの、本当に。
困惑するわたしの感情を読んで、帽子のお兄さんはため息をついた。

「しゃーねぇな。ちょい付き合ってもらおうか?」
ジョイ通りへ親指を向け、帽子のお兄さんは歩き出す。

「ナンパ、じゃないから」
苦笑するピアスのお兄さんにわたしは黙ったまま首を縦に振った。

わたし、神崎(かんざき) リアトリス 
一応ハーフってやつね。

英国生まれの母親に日本人の父親を持っています。
花の名前をファーストネームに持つ神崎家で、わたしも花の名前を付けられた。
本当なら菫とか百合とか? そういう感じにしたかったみたいだけど、母親と父親の協議の結果二つの名前に落ち着いた、らしい。

あ、名前なんてどうでもいいや。
この際。

春休み早々これじゃぁ気が引けるんだけど。
でも意図して用意されて。
さあどうぞ、なんて。
綺麗にセッティングされたテーブルみたいに出来すぎた出会い。

わたしの第六感が叫んでる。
彼らはわたしと『同じ』で。

それで多分……これから深く関わる事になる人達だって。

二人の男の人達に連れられてやって来たのは『ジョイ通り』にある、ピースダイナー。
略してピーダイ。

ファーストフード店で、春休みもあって賑わってる。
飲み物だけを頼み、わたし達奇妙な三人連れは端っこの席に座った。

「俺は麻生 諒也(あそう りょうや)。そっちにいるのが稲葉 正男(いなば まさお)すぐそこにあるエルミンの卒業生だよ」
柔和な笑みを浮かべるピアスのお兄さん。
麻生さん。

帽子のお兄さんが稲葉さん。
物覚えの悪いわたしは懸命にこの二人の苗字を頭に叩き込む。

「えっと、わたしは神崎 リアトリス  です。見た目で分かると思うんですけど、一応ハーフです」
自分の髪を摘み上げてわたしは自己紹介をした。
肩まで伸ばした髪だからこういう時簡単に相手に見せられる。

「見事なナチュラルブラウンだな」
感心した調子で稲葉さんが言った。

「って、そうじゃねぇよな」
自分で言って自分で突っ込んでる。
頭を抑えて屈託なく笑う稲葉さんにつられて、わたしも笑顔になった。
稲葉さんの隣では麻生さんも笑ってる。

「……単刀直入に聞くが、ペルソナ様ってやつ、やったのか?」
真剣みを帯びる稲葉さんの表情。
わたしは何度か瞬きをして首を左右に振った。

「知ってますけど、やってません。私服だから分からないでしょうけど、エルミン中等部なんです。わたし」
セベクスキャンダルの事件の時。
確かに流行していた。

友達の何人かは遊んでたっけ。

否定するわたしの瞳をジーッと見詰める麻生さんと稲葉さん。
う、恥ずかしいよ。
身体を縮込ませるわたしに、無言の二人。
数秒間もその視線に耐えた後、今度は麻生さんがため息をついた。

「嘘って訳じゃなさそうだね。じゃあなんでアラヤ神社で金色の蝶と『話して』いた?」
探る口調? っていうか、心配してる感じで麻生さんが問いかける。
「そこまで話す義務がありますか?」
不安になって逆にわたしは聞き返した。

だって。
蝶に呼ばれて神社に行きましたなんて、恥ずかしくて言えないよ。
頭の可笑しい子と思われちゃうじゃない! 流石にこの歳で人生踏み外したくないっ。

実は神埼家。妙に勘の働く一族で霊感みたいなものも持ってる。
お石様っていう、不思議な力を感じる奇妙な石を護っている一族で。
わたしは次期当主なの。
だから、なのかは知らないけどわたしも人より勘は鋭いし。
人が見ないものも『見え』る。

「ないな」
ちょっぴり諦めたような。
残念そうに稲葉さんが呟く。

わたしはホッとして、ピーダイの窓ガラスからジョイ通りを歩く人達を見て。
思わず息を呑んだ。

《ヒーホー》
青い雪だるま。
ううん。
青い歩く人型雪だるまが二匹。

わたしの視界を通り過ぎていく。
麻生さんと稲葉さんは凍りついたわたしを怪訝そうに見る。

《君は理解しているだろう? さあ、  の杖を捜し今度こそ止めるんだ》
脳裏にちらつく残像。
夢に見る羽の生えた男の人。
わたしに手を差し伸べ語りかけてくる。
そうあの蝶と云った事が同じ。

《  の王     よ。君の到着を  の杖が待ちわびている》
フィレモンと名乗った蝶も同じ事を言っていた。

杖。

王。

うう、苛々する。

大事な約束を忘れて真っ直ぐ学校から家に帰ってきた感じ。
家に戻って靴を脱いだ瞬間に、その約束を思い出して。
慌てる。
そんな感じ。

「すみません。失礼します」
わたしは間接的には先輩の二人に頭を下げて。
それからピーダイを飛び出した。

それがわたしと『ペルソナ』使いの麻生さんと稲葉さんの出会い。
作られた奇妙な出会い。





一区切り付いた話の合間にわたしはコップに注がれた水を飲んだ。

「ふぅん、稲葉と麻生がね」
わたしの説明に黛さんが複雑な顔をする。
「丁度、留学するのに必要な書類を、エルミン学園に取りに行った帰りだったみたいです。フィレモンが狙ってわたしを麻生さんと稲葉さんに引き合わせたんだと思います」
天野さんから、黛さんへ視線を移してわたしは説明した。
「だろうね」
したり顔で黛さんは返事を返してくれる。

本当に喰えない存在で。
なんともしがたいペルソナ意識集合体。
フィレモンの人の良い笑みを思い出してわたしも肩を竦めた。



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