せんせい基準につき


三人の子供……少なくとも二人の子供は、鳩が豆鉄砲を食らった顔で残りの六人の子供を凝視した。

「……? あら、聞いてなかったのサクラ?」
女友達の美しい髪を眺め、金色の髪の女の子は第一声を発す。
桃色髪のサクラ。
慌てて開いた口を閉じると咳払いを一つした。
「いの……うちの先生は親切丁寧じゃないから」
親友兼ライバルの いのへ返事をする。
サクラ的にかなり屈辱だったが真実は一つ。
カカシの説明不足で今の状況が分からないのだ。
仕方ない。

ここは森と湖のある演習場。
高台が演習場の中央に位置するが高台までの道のりは遠い。
第七班の子供達は待ち合わせ場所で見知った子供達と遭遇した。

「よっ、キバ。久しぶりだってばよ」
サクラと同じショック状態だったもう一人。金色の髪の子供。
歩くたびに髪がフワフワ揺れヒヨコの様。
犬を頭に乗せた少年へ笑顔で近づいた。
「ナルト、久しぶり」
「わんっ」
ニカーっと笑いフード姿が印象的な少年は、金色の髪の子供に返事を返した。
「赤丸も久しぶりだってば」
目にも鮮やかな金糸の糸。
蒼い玉を思わせる眼(まなこ)。
ナルトはキバ少年の頭に位置する子犬を撫で挨拶した。

「あーあ。もっとお菓子を増やせばよかったかなぁ?」
切り株に座り、ちょっとポッチャリ系(?)かもしれない体系の子供は、ポテトチップスをひたすら食す。
彼の私物なのかお菓子の箱が三個積み上げられている。
「チョウジ、俺は荷物運び手伝わないぜ。めんどくせーし」
ポッチャリ系チョウジ少年の真横。
髪を高く結い上げ気だるげにしゃがむ少年。
彼はぼんやり雲を見上げるが班仲間へ釘を指した。
「んー? シカマルには期待していないから平気」
気を害した風もなくチョウジは新しいポテトチップスの袋を破く。

返事を返されたヤル気ゼロ少年、シカマルは息を吐き出す。

「ナ、ナルト君。久しぶり」
はにかむ少女。
キバと話し込んでいたナルトの表情が和らぐ。
「ヒナタ、久しぶりだってばよ」
引っ込み思案そうなヒナタ。
赤面して上着の裾をいじり出した。

 ポンポン。

ナルトの頭に載る手。
「お早う」
手の主が声を出した。
長身で黒眼鏡。
口許まで覆う長い襟を立てた少年がナルトの頭に手を置く。
「シノ、お早う」
ナルトは笑顔を返すものの、長身のシノ少年の手を頭から払いのける。
ナルト・キバ・シノ・ヒナタ。

四人の子供の遥か先では『サスケ争奪戦』の火蓋がきって落とさる。
サクラといのが凌ぎを削っていた。
賞品となったサスケは、些か迷惑そうに足止めを喰らっている。

「ところで今日はなにかある? 俺、カカシ先生から何も聞いてないってば」
一見、いつものナルトスマイルである。
どの方向から見ても通常ナルトスマイルである。

真のナルトを知る人物なら、その笑顔に隠された怒りを察知できただろう。

 こえーよ、ナルト。

シカマルは流れる雲を目で追い再度息を吐き出した。

「え? 知らねーのか?? 今日は訓練をかねて、この先の高台を登るんだ。ちょっとしたピクニックらしいぜ」
キバが答えた。
「ふーん」
誰かを探すように首を左右に振りナルトが相槌を打つ。
「あ、あのね。先生達は、先にゴールにいて、私達のコト待っているの」
キバの説明では足りない情報をヒナタが捕捉。
「くじ引きチーム戦」
さらにシノが情報を捕捉。
手にしたくじをナルトへ差し出した。

「おーい、くじ引きするぞ!」
キバが叫べば子供達はぞろぞろ集まってくる。

「じゃ、わたしから」
いのが一番最初のくじを引く。

「……次はわたしね」
いのに先を越されて悔しいサクラ。
いのを睨み二番目のくじを取る。
「女の子優先ってコトで、ヒナタ、お前引けよ」
キバが意外に優しさを見せ、戸惑いながらヒナタが三番目。

「後は……班順でいいか? メンドーだし」
欠伸交じりにシカマルが提案すれば即決定。

七・八・十班の男の子の順にくじをひいた。

途中、ナルトがサスケと低レベルな言い争いをしていたが。
「同じ番号同士が臨時チームなの」
ヒナタが見本に自分の引いたくじを開いて見せる。
こより状の半紙を広げれば1・2・3いずれかの番号が振ってあった。
「1番組みは?」
シノが皆の顔を見渡せば、サスケとヒナタ、そしてチョウジの手が上がる。
サクラといのの顔に安堵の表情が浮かんだ。
「2番の組」
シノが言えばサクラといの。
そして二人とは場違いそうなキバの挙手。

「……バランス悪いね」
三番目の班。

ナルト・シノ・シカマルを眺めチョウジが呑気にコメントした。

的確なチョウジの指摘に、サクラといのが小さく噴き出す。

「言ったな、チョウジ! こーなったら一番にゴールして見せるってばよ!!」
チョウジを指差しナルト宣言。
「無理だな」
間髪入るサスケの駄目出し。
「やってみなきゃ分からないってば! で、ルールは?」
ナルトは場を仕切るシノを仰ぎ見た。
「トラップの仕掛けられた森の一本道を争覇。この地図にある×印部分がゴール」
シノはサスケとキバに地図を配布する。
「狼煙が合図だ」
シノの言葉が終わらぬうちに目の前の高台から狼煙が上がった。

臨時とはいえチームはチーム。
子供達はお互いに森の道を目指す。
かくして競争が始まった。
六人の子供達は風を切り足にチャクラを乗せ走る。


「……で?」
高台へ続く森への入口。
立ち尽くすナルトとシノにシカマルは痺れを切らした。
「監視は無し」
シノの指に小さな蟲が一匹とまる。
ナルトは楽しそうにクツクツ笑った。
「シノって器用だね。くじまで操作するなんて」
「慣れだ」
ナルトの髪を乱しシノは答える。
「そろそろ歩き出したほうがいいかな。シカマル、あの上忍達の仕掛けた罠ってどのくらいだと思う?」
すっかり寛いだ様子でナルトは地面がむき出しの森の小道を歩き出した。
「さてね。……下忍レベルに合わせながら修行になるくらい。チャクラの応用と、基礎体力向上。待ち伏せに対する警戒及び、身の潜め方とかか? 隠密行動までは望んでいないだろうし」
「うむ」
シカマルの言葉にシノがうなずいた。
「あとは上忍達のための息抜きだろ。あの三人顔見知りらしいから」
えらく乗り気ではない様子でシカマルは顔を顰める。
それはナルトにしても同感のようで露骨に顔を歪めた。
「あー。ある意味無駄……」
肩を落とすナルト。

シノが小さく笑ってナルトの手を取った。

「森林浴」
シノの指す先には木漏れ日落ちる緑のアーチ。

小道の両脇に生え揃った木がアーチ上になって先まで続いている。
顔を上げて緑のアーチを眺めるナルト。
木漏れ日がナルトの金色の髪に当り、キラキラ輝く。

淡い光に照らし出されたナルトは少年の姿をとっているとはいえ、とても幻想的。
シカマルは声も出せずにナルトに見惚れた。

「シカマル、あれはどういうつもりだ?」
珍しくシノの方からシカマルに声をかけてくる。
はて、とシカマルが首を傾げた。
「特別上忍候補にお前の名が挙がっていた。どういうつもりだ」
事実だけを告げるシノの口調は、別段怒った風もない。
ナルトはきょとんとした顔つきでシノとシカマルを交互に見た。
「面倒ごとは嫌いだ。だがな、仲間とは同じ立ち位置に居たいっていう意地もある。らしくないと我ながら思うけどよ」
シカマルはぶっきらぼうに告げる。
「そうか」
答えるシノ。

シノとシカマルの間に散る火花。

「シノ、シカマル。行こう?」
二人の無言の戦いを破るのはナルトの声。
ナルトから差し出される両手をそれぞれ片方ずつ握り、ナルトを真ん中に歩く。
「あと少しで中忍試験でしょ?」
と、ナルト。
シノとシカマルはナルトの横顔を見た。
「シカマルが候補に挙がるなら、三人で中忍ってのも悪くないて思う。でもジジイが許可するかな? 俺達の中忍試験」
ナルトは疑問を口にした。

下忍となって間もないナルト達。
ナルトとしては下忍に認定されただけでも驚きで、中忍ともなると大いに疑問である。

「急成長って便利な言葉があるじゃねーか。ナルトの担当はたけ カカシは凄腕だ。あいつの指導でうずまきが急成長を遂げても、疑問を担当へぶつける馬鹿はいないだろ」
シカマルは片眉だけを器用に持ち上げて講釈した。
「分相応を弁える忍ならな」
最後に付け足せば、ナルトとシノが物凄く納得した顔で『うんうん』とうなずく。
「マスクって意外と仲間大切にするし。根拠の無い誹謗中傷は許さないタイプかも」

あははは。
お気楽にナルトが笑えば、シカマルとシノは一瞬目線を合わせた。

「……マスクって、はたけ上忍のことか?」
シカマルが問えば、「うん。そーだよ」と、ナルトが返す。
「人の名前は重要だ」
ナルトの常識面での教育係シノがすかさず注意した。
「いいじゃない。だいたい通じるし」
当のナルトは悪びれた風もない。
あっけらかんとしている。

 他人をどう認識してんだ? ナルトの奴。

訝しむシカマルがナルトから、他の忍の名称を聞きだした。

「ええっと。
サスケが『黒いの』・サクラが『春野』・いのが『中山』・チョウジが『ポッチャリ』・ヒナタは『ヒナタ』・キバは『フード』・赤丸は『赤丸』と。
アスマ上忍が『でかいの』・紅上忍が『美人』・カカシ上忍が『マスク』……」
復唱していて情けなくなるのはシカマルだけか?
シノは我関せずで、ナルトと繋いだ手のほうが大事なようだ。
「……しゃーねぇな、フォローしてやるよ」
シカマルが呟けばナルトは極上の笑みで『うん』と返事。
シノから殺気を頂戴するも何処吹く風、シカマルはニヤニヤ笑う。
三人は暫く森の散歩を堪能したが、
「時間もないし、そろそろ走ろうか?」
トラップの細い糸を足で踏んだまま、ナルトが二人に悪魔の微笑を向けたところで終了となった。



同時刻。高台ゴール前。

「うーん、やっぱり昼はラーメンで。あ、オプションはおにぎりね」
カカシがインスタント麺をリュックから取り出す。
「……子供も食べるんだからカレーじゃない?」
紅は負けじとカレーのルーと材料をリュックから取り出す。
ルーの表示は激辛。
子供向けの味覚じゃない。

当初の目的を忘れ先生馬鹿を発揮するカカシと紅。
両者一歩も譲らず食材片手に睨みあう。

「サバイバル訓練に何で食料与えんだ?」
同僚二人の先生馬鹿ぶりにアスマがタバコを落とした。


この数時間後に訪れる悲劇を、子供達はまだ知らない……。


夕方の部へ続く。


一度は書いてみたい合同任務話しです。オチとかないですけど(汗)ブラウザバックプリーズ