真夜中の唄は


七・八・十班合同訓練。

お題は『シャッフルチームでゴールの高台へ登る』
上忍達が仕掛けた罠を回避し、一番で到着したのは『サスケ・ヒナタ・チョウジ』組。
二番目が『サクラ・いの・キバ』組。
お約束と言うか、最後は『ナルト・シノ・シカマル』組であった。


「出遅れが大きな原因だな」
がっしりした体格に見事な顎鬚。
咥えタバコがトレードマーク。
上忍、猿飛 アスマはぶすくれるナルトの頭をなでまわした。
「あー、俺が原因」
早くも地面に座り込みだらけているのはシカマル。
遅れた原因は自分だと名乗り出た。
「お前が?」
珍しく反省しているらしい教え子に、アスマが目を丸くする。
面倒ごとを嫌うシカマルが名乗り出た理由は只一つ。

 上手い言い訳考えないと、ナルトの成敗が下るから。

だったりする。
ナルトはシノに手招きされ、木の間で羽を休める蝶に見入るなど変わり身が早い。
勘の良いアスマの追求を軽く交わすため、シカマルを差し出したようだ。
ナルトの行動を理解したシカマルはアスマと将棋勝負をする約束を盾に、今日の敗因を有耶無耶にした。
ナルトは瞳を輝かせて指先に止まった蝶を眺める。

「綺麗だってば」
シノに笑いかければ頭をサワサワ撫でられた。
二人の間にホワホワした雰囲気が満ちる。
「お前ら、仲良くなるのが早いな〜」
同じ班のシノがいるとあって、キバが二人に近づく。
「キバは違うの?」
仲良く話し込む紅+くの一少女三人を横目に、ナルトが小声でキバに聞いた。
「仲良くってーかな。サクラもいのもライバル心剥き出しでさ、二人でドンドン先に行くんだよ。俺は後をついていくだけで、楽って言えば楽だったけど」
キバの疲れた声に赤丸も耳をたらして項垂れる。
キバと赤丸は心的ストレス被害を多大に被った様だ。
「た、大変だったんだ? そう考えると、ビリでも俺のところは普通だったってばよ」
「うむ」
ナルトとシノが互いに顔を見合わせ笑う。
ナルトは明確に笑顔と分かる笑いだが、シノの笑い顔は特殊で、キバだからこそ見抜けた笑顔だ。
「これからどうすんだろうな? 赤丸が嫌な予感……がすると言っている」
キバも不吉な何かを感じてか落ち着かない様子で頬を掻く。

「ラーメンとおにぎりのごった煮が、あの鍋にあったんだ」
チョウジがポテトチップス片手に三人に歩み寄ってきた。
「あれは駄目だね。カカシ上忍が作ったらしいけど、アスマ先生と紅上忍に駄目出しされてたよ」
妙な匂いがする円筒形の鍋。
鍋を指差してチョウジが三人に教えた。
「食中毒」
シノが最悪の事態を警告。ナルトとキバは青ざめてカカシを凝視する。

丁度カカシはサスケを構っていて、サスケからクナイを投げつけられていた。
「カカシ上忍は料理の才能ゼロだね」
食べ物に関してはチョウジの右に出るもの無し。
彼がそう断言するのだからカカシは料理下手なのだろう。
「天はニ物の才を与えずってとこだな」
アスマの追求から逃げ出したシカマルが話の輪に入る。
するとチョウジは新たなポテトチップスを取りに、自分の荷物置き場に戻っていった。
「もうすぐ昼になるけど、食料探しもするのか? ってゆうか、紅先生は、ヒナタ達となにを調理してんだろ……」
紅とくの一達が囲む鍋。
鼻をつく刺激臭がキバと赤丸の鼻を襲う。
キバは鼻をヒクヒク動かした。

「……いのは味音痴だぞ」
シカマルは頬を引きつらせ味見をするいのを見つめた。
「サクラちゃんは料理上手! ダイジョウブだってばよ」
ナルトが胸を張れば二番目に味見をしたサクラが目を回して倒れる。
「サ、サクラちゃ……」
慌ててナルトはサクラ目掛け走り出そうとするが、シノに襟首をつかまれ阻止された。
「危険だ」
ナルトの動きを封じたまま、シノが顎をしゃくりヒナタを示す。
白眼を発動したヒナタが首を左右に振り、鍋から後ずさっている。

「……ハァ」
女の手料理に興味はないがまともな昼飯は食いたいものだ。
シカマルはきつくなる刺激臭にうんざり顔を浮かべる。
「……自主的に食料探した方が良くないか?」
鼻を押さえ、くぐもった声で三人に提案するキバ。

ナルトとシノは無言でうなずいた。

シカマルはどちらでもよさそうである。

「アスマに言っておくから、お前らに頼んで平気か?」
動くことが面倒になった調子を装い、シカマルがナルトを見る。
「紅せんせぇの料理の行方も心配だし、シカマルきちんと見張っててくれよ」
倒れたサクラを気にしながらナルトはシカマルの肩を叩く。
「見張るだけなら、見張っとくぜ」
シカマルは面倒臭そうに右手を左右に振る。
「じゃ、行くか」
一刻も早く刺激臭から逃げ出したいキバ&赤丸。
有無を言わせずナルトの腕を掴み、逃げるように森の中へ飛び込んだ。

数時間かけて山の幸を大量収穫したナルト・シノ・キバ&赤丸。
戻ってきた彼等が目撃したものは……。

痙攣して倒れるカカシ。
青ざめた顔で水を煽るサスケ。
気絶したサクラとヒナタ。
平然とお代わりを要求するチョウジ。
比較的普通のいの。
元気な紅。

それを遠巻きに眺めるアスマ・シカマルの姿だった。

「うわ〜。想像できるぜ、この惨状が何故起きたのか」
キバが力なく笑う。
「薬草摘んできて正解だったな、シノ」
明暗分かれた仲間の姿に怯え、ナルトはシノの上着を掴む。
「備えあれば憂い無し」
本日の教訓とばかりにシノが最後を締めくくった。





結局、刺激臭カレーのせいで。

負傷(?)者の手当てを考え、アスマは高台での一泊を決定した。
生憎演習場から木の葉病院までが遠く、薬を貰うにしても患者を運ぶにしても労力がかかる。
また、非常時における下忍の訓練として薬草使用の実地を行おうと考えたからだった。

潰れたカカシは無視して。

紅、アスマの二人が、カレーショックを受けなかった子供達に薬草の使い方を教え、子供達は二人を見習い被害者の治療に当った。

真夜中。

サスケはか細い誰かの声に目を覚ます。
元々眠りの浅い彼は、どのような物音にも反応して目を覚ますエリートだ。
周囲を確認して、三人の姿が無いことに気がつく。
「チッ」
言い捨ててサスケはその場を離れた。
高台で上忍が見張る野営地より、下方に一キロほど。
さほど大きくない池の畔。
ナルトを囲んでシノとヒナタが池を眺める。

「……♪ ……〜」
懐かしい節回し。

ナルトが木の幹に凭れ、目を閉じた状態で唄を歌っていた。
流行の曲じゃなくどこか切なさを覚える童謡のような歌。
唄にあわせシノが蛍を呼び寄せたようで三人の子供の周りを光が舞う。

薄緑の光に囲まれ浮かび上がる湖面の青。
緑の葉。
夜露に濡れる下草。

「……ッ」
普段のナルトとはまったく違うその雰囲気。
薄灯りに照らされる、歌を紡ぐナルトのふっくらした唇。
声をかけようとしたサスケは文字通り固まった
「♪ ……〜♪ ……」
普段はあんなに五月蝿くて騒がしいのに、何故、今晩のナルトの声はこんなに。

「よお」

 トントン。

警戒を怠ったサスケの肩を誰かが叩いた。
飛び上がらんばかりに驚くものの、そこはエリート。
感情などおくびにも出さず肩を叩いてきたキバを一瞥した。

「なんか意外だな」
ニヤリと笑うキバ。
「ああ……」
暗にナルトを示したキバの言葉に一応は同意。
一匹狼を自認するサスケでも無下に他人を拒絶したりはしない。

 黒いのとフードか。
 シカマルは寝かせてくれてゆってたしね。
 多分本当に寝てるんだろうな〜、面倒臭いこと嫌いだし。

と、ナルトが思うのは天性の鈍さゆえ。
実はシノの摘んできた薬草(眠り薬)を夕飯に盛られ、シカマルは否応無しに夢の国に旅立っただけなのだ。
前回のイルカショック事件の時にシカマルに美味しいところを持っていかれた報復、のようだ。

シノ、中々嫉妬深いようである。

美声を響かせ歌うナルトは、二つの気配に気がついていた。

「……♪」
最後の旋律を歌い上げればヒナタが小さい拍手をくれる。
池から距離はあるが高台で眠っている皆に気遣ってのことだろう。

「これ、子守唄よね?」
ヒナタの前髪の先に蛍がとまる。
蛍を気にしながらヒナタが言った。
「詳しいことは分からないけど。昔、じいちゃんが歌ってくれた。……もしかしたら、イルカ先生とかも歌ってたかもしれないってば」
ヒナタの賛辞にナルトは照れて頭を掻く。
「ナルト君、すごい歌が上手だよね? ねぇ、シノ君」
おっとりとヒナタがシノへ話をふる。

「……ぅ」

 かくん。

シノの体が一瞬揺れ、ナルトが慌ててその身体を受け止める。

「重い〜」
長身のシノは細身だがナルトよりは重い(身長の分だけ)。
歯を食いしばりシノを支えたナルトは仕方なくシノへ膝枕。

「……じゃ、じゃあ、私は戻るから」
急に慌て出すヒナタ。
わたわた両手を意味もなく動かし、一人逃げるように高台へ走り去った。
彼女の脳内で劇的な変化が起こっているようだ。
「え? ヒナタ!? シノ、寝てるから運ぶの手伝って欲しいってばよ」
ナルトが訴えるもヒナタの姿は遥か彼方。
ナルトの声は届かない。
「ハァ……」
取り残された格好のナルト。ため息をつく。

 ま、いっか。シノも疲れてるみたいだし。

「……♪ ……〜」
ナルトは気を取り直してもう一度唄う。
茂みの向こうでキバが睡魔に負けて眠っている。
サスケは起きているようだが、彼とて疲れているだろう。

睡眠は必要だ。

「〜♪ ……♪」

 いとおしい貴方を癒すように唄いましょう。
 貴方の為の子守唄。

数分後、サスケも陥落。


次の日。
所定の野営地から外れて眠ったナルト達が大目玉を食らったのは言うまでもない。
そんなナルトをヒナタが申し訳なさそうに見つめていた。


後編です。長いわりには面白くない〜!!雰囲気も良くない〜(涙)ブラウザバックプリーズ