ゆ き み の 本 棚



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修道士カドフェル・シリーズ
第10巻 憎しみの巡礼
エリス ピーターズ 著   岡 達子(他) 翻訳.
. 私の大好きなミステリーシリーズのひとつです。舞台はプランタジネット朝直前のイングランド。主人公カドフェルは修道士です。十字軍の兵士だった彼は、人生の後半を神と向きあって生きようと修道生活を選んだのです。
 事件のトリックや解決は、それ程複雑でも精度の高いものでもありません。どちらかといえば、イングランドの内乱時代を背景にした「捕り物帖」といった趣です。この作品の魅力はいろいろありますが、foggykaoruさんのブログで素敵に紹介されているのでこちらもどうぞ。
 元十字軍兵士の血を燃やす活動的なカドフェルも、若い恋人達や苦しみを抱える人に優しいまなざしを向けるカドフェルも魅力的ではありますが、私が一番好きなのは、静かに謙虚に神の前に頭をたれる姿です。露見する悪事や幸せな結末が「神の計らい」によるものか「偶然」によるものか、それは読む人が好きに解釈すればよいのですが、この祈るカドフェルの姿にこそ「異色の探偵」という名がふさわしいと思うのです。
 本来なら第一巻「聖女の遺骨求む」を表に出すべきなのですが、あえて、一番好きなこの巻を挙げました。もちろん、はじめから順番にお読みになることをお勧めします。

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2005.04.


半七捕物帳
岡本 綺堂 著.
. 子供の頃からテレビの捕物帳を見て育った私。もちろん本も手に取らずにはいられません。ある時この古典的名作に出会って、目が覚めたような気がしました。
 岡本綺堂の江戸言葉には、他の捕物帳とは一線を画す特別の響きを感じます。物語は淡々としていて、涙を流すような人情味や、刺激的な味付けがあるわけではありません。しかし、本当の江戸時代を知っていた人ならではの物語のつくりや江戸言葉の素晴らしさが、このシリーズを「私の特別」にしているのです。

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2005.04.


 東京っ子ことば
林 えり子 著.
. わたしは東京生れの東京育ちですが、いわゆる「江戸っ子」ではありません。テレビの時代劇でおなじみの「べらんめえ調」の言葉にも、あまり馴染みがありません。なんとなく中途半端な思いをしていた時に、この本と出会いました。
 著者の林えり子さんは本郷生まれで、同じ東京の言葉でも「山の手言葉」を使っていらした方なのだそうです。ページをめくるにつれて、祖父や母の声が甦ってくるようななじみ深い言葉が次々と現れました。
 祖父はお醤油を「おしたじ」と呼んでいましたし、私もかなり大きくなるまで美容院を「髪結いさん(かみいさん)」と呼んでいました。そういえば、朝は「うで」卵や「はんじく」卵を食べていましたっけ。
 「落っこちる」、「へいちゃら」、「なんだっけ(↑かくのごとくうっかり使います)」など、私にとってはあまりに当たり前な言葉遣いで、本当に「東京(限定の)言葉」なのかしらと思うことさえありました。
 残念だと思うのは、林さんが書いていらっしゃるように、こうした言葉がなまじ東京言葉であるが故に、テレビで流れる標準語(?)に押し流されて「死語」「古語」の部類にはいりつつあることです。

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2005.05.

表紙