ー欲望ー
第一章



 2年前の春、私は亜聖高校に合格。そして入学した。クラス編成を見たとたん、私の中に不安がよぎった。三十人ほど同じ中学から 

行っているのによりによって同じクラスになった人が、男子一人だけ。あとはみんな違う中学。もともと、内気だと思っていたから、 不安

はつもる一方。友達は「隣のクラスやし、大丈夫だって!」「いつでも話せるし!」とか言ってくれた。でも、それは初めのうちだ けだと思

っていた。なぜなら、自分もクラスで浮いた存在になるのがイヤだから、クラス内に友達を作る事を頑張ると思ったから。 でもそこは素

直に「ありがとう」と笑顔。私だって頑張って友達作る気だったし。



 入学説明会のあの日に起こった事件。私の前に座っていた子の携帯がいきなり鳴り出した事!あの時はマジでびびった。でも、のち

のちそれが幸いしてくる。 その子に「ペン貸して」と言われて少し後、校舎内を見回る時、携帯の事をきっかけに、たくさん話ができて、

携帯番号、アドレス交換、仲良くなれたのだ。 まさに、棚から牡丹餅。



 亜聖高には、五月、六月頃に自然学校+勉強、みたいな合宿がある。その時、私は頑張った。夜遅くまでいろんな人と話をしたり、

オリエンテーリングの時、 バカ言ってみんなを笑わせたり・・・。その結果、女子全員の携帯番号を知り、誰とでも話せるようになり(但

し、女子限定)この年、楽しく過ごせるようになった。 亜聖祭も体育祭も。体育祭なんて、私の見せ場みたいなもの。何せ、体育だけは

抜群によかったから。スウェーデンリレーの三百メートル、 2年生や3年生には負けたけど、でも走りきったし。頑張ったよ。そして・・・

体育祭が終わって数日経った頃、友達の由子からメールが来た。



「今から遊ばない?男友達2人いるんだけど・・・」



 その誘いがよかったのか悪かったのか、今でもわからない。あのメールが来なければ・・・。あの人と知り合わなければ・・・。あのメー

ルが悪かった! と言いたいけど、でもあの人と知り合って、楽しい事だっていっぱいあったから、悪かった!と断定する事は出来な

い。その日、四人で遊びに行った。 遊ぶと言っても話をしたり、少し食べたり、そういった他愛もない事ばかりだったけど。あの人・・・そ

う。あの人は黒が好きらしく、全身黒かった。黒い帽子、 黒いダッフルコート、黒いズボン、黒い靴、そして黒い鞄。私の第一印象は変

わった人だなぁだった。初対面の人が苦手らしく、私達から少し遠い所にいた。 不思議だった。不思議に思えば思うほど知りたくなっ

た。どういう人なのか、何を考えているのか、知りたくなった。



 帰り際、私はその人に携帯番号を聞いた。すると、あっさり教えてくれた。少し躊躇するかと思ったけど、そんな事はなかった。そし

て、私達はその日から メールをするようになった。私は高校に入ってから、たくさんの友達を作る事を頑張っていたから、男の子なん

て見てなかった。でも、 確かにあの人はここにいた。同じクラス。名簿にもちゃんと載ってる。「広瀬 順吾」



 お互い恥ずかしくて、まだまだメールしか出来なかった頃「明日は話せるかなぁ」とかメールで言っていた。ういういしかったと思う。そ

れから半年、 みんなが公認の仲のいいカップルになった。知りたくなればなるほど、たくさん話をし、たくさんメールをし、すべてをたくさ

んした。私はみんなと感覚が違って いるのかもしれない。みんなが異端者とする人を異端者としなかった。もちろんその人は私には普

通に見えたから。



 半年のうち、私は順のいろんな事を知った。生まれてすぐに、病気のため手術した事や、今も少し後遺症がある事、昔彼女を交通事

故で亡くした事など。 聞く事、知る事、すべてが驚きだった。そんな事があったなんて全く想像していなかったから。でも、それは順の全

てであって、全てを受け入れるつもりだった。 順の優しい所も知っているし、順の面白い所も知っているし、なにより、順と一緒にいると

安心した。クールに見えるらしい私も、順の前では素直に、喜怒哀楽、 めいっぱい出していた。私の全ても知ってほしかったから。



 高二の夏休み、順からリングをもらった。順とのペアリング。私はすごく嬉しかった。いつでも順と一緒に居れるような気がして。だか

ら、常に持っていた。 朝起きたら、真っ先にリングをはめ、顔洗う時にはずして、終わればまたつけて、学校行く前に、チェーンに通し

て、ペンダントにして、 帰ってくればまた指にはめて、お風呂入る時はずして、またつけて、そして寝る時はずして・・・そして、次の朝。

また同じ事を繰り返す。



 順が大好きだった。いつまでも順と一緒にいたいと思った。そしてまた、順も私の事を誰よりも愛してくれて、一緒に居たいと思ってく

れて、 大切にしてくれていた。だから二人で「結婚しようね」って言っていた。



 ある時、私は中学が同じだった男友達、仁とメールをした。他愛もないと言えばウソになるかもしれないけど、仁の好きな人の話や、

今の生活の事など。 ふと、順が私の携帯を見た時に、仁とのやりとりを見つけてしまった。やましい事はないけど、順の機嫌が悪くなっ

て行ってたから、私は「もうしない」 と順に言った。その時、順もやきもちやくんだ。私の事大好きでいてくれてるんだ。ってうれしくて、ウ

キウキだったかも。その一件があってから、私はまた、 順の事が好きになっていた。今まで以上に。自分が悪いことをしていたのに、

そんな事を考えていた自分は何だろう、と今なら思う。



 その時の順の気持ちを、私も知る事になろうとは、その時、一体誰が想像しただろう。神様だって想像しない、予期しない事だったろ

うな。私は今でも信じられない し。私は好きな人に一途だと思う。と言うか、独占欲が強いのかな。いつでも好きだって言ってほしいし、

自分だけを見てほしい、他の女の人と話もしてほしくない し、メールもしてほしくない・・・なんて思ってしまう。いっぱい愛されたいんで

す。



 順はいつも「自分は嘘をつかない」って言っている。でも、少しの嘘をついてる事を私は知っている。私が寝ている(ふりをしてる)時、

何かをして いるのを。私の部屋のいろんな所を勝手にみているのを。でも、それくらいはいいと思っていた。やましいものなんて、出て

こないし。

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《つづく》