邂逅 -encounter-
「初めまして」
目の前の見慣れた容貌の男は、私を見てそう口にした。
癖のある栗色の髪も、こちらをまっすぐに見据える翡翠の瞳も、その奥に秘めた冷たい光さえも、私の知る人物――ロックオン・ストラトスに酷似している。
ただ一つ、それが向けられている対象が私だということを除いては。
いや、一度だけロックオンがその瞳で私を見たことがあった。しかし、その時の無恥で愚かな私は正論で払い除け、彼の心の中を知ろうともしなかった。
だが今は、身体が強張るのを感じる。
罪が自身にあることを私は知っている。一つだけ思い当たる節があったからだ。
ヴェーダのデータバンクに記載されていた、ロックオン・ストラトス――ニール・ディランディのただ一人生き残った肉親。おそらく彼がそうなのだろう。
彼はただ一人の肉親であるニールを失った。その責任の一端は私にある。そしてそのことを彼も知っているのだろう。
表面上は柔和な表情を浮かべている彼の瞳は冷え切っていた。抑えきれない憎悪が、穏やかさを装った翡翠を突き破って私の胸を抉る。
どうしたら彼に償うことができるのか? そんな考えが、一瞬脳裏をよぎる。
しかし、失われた命が戻ることはない。
彼に、愚かなまでに優しいあの男を返してやることはできないのだ。
「貴方が、ライ……」
彼の名を口にしようとしたその時、強く否定するように彼は言った。
「ロックオン・ストラトスです」
何の冗談だと思った。
あの男と同じ姿で、同じ声で、同じ名を名乗るのか。
漠然と思った。これが私に与えられた罰なのか、と。
彼からあの男を奪い、無自覚に数多の命を奪った、愚かな私への罰。
私の胸中を知ってか知らずか、彼は柔らかな表情のまま右手を差し出してきた。
「よろしく」
優しい声が胸に刺さる。
硬直した脚に力を込め、ともすると崩れ落ちそうになる身体を支えて一歩踏み出した。震える右手で差し出された手を取ると、カラカラに渇いた口からどうにか己の名を紡ぎ出す。
「ティエリア・アーデだ」
よろしく頼む――そう言った自分の声が、酷く遠くに聞こえた。
2008.07.26 マナセカイン
>>To Be Continued