*製鉄・鍛冶に関わりを持つ一本足の獣*
紀州(和歌山県)の山中に棲息すると言われる異形の獣。単眼・一本足で何処と無く人に似た獣だとも、太い柱状の身体に大きな単眼が光っているとも言い表される。ただ、人の目の前に姿を現す事が極端に少ない妖怪であり、通常はその一本足によってつけられた足跡でのみ、その実在が伺える程度と言う。「一本ダタラ(いっぽんだたら)」の足跡は大きな杵でついたような丸い足跡で、その幅一尺(約30.3cm)と言うから相当大きな体をしているものと想像できる。
通常は人間を害する事は無い(但し、地域に拠っては異説もあり)が、「果ての二十日」つまり旧暦の12月20日だけは凶暴性を増し、人畜に甚だしく害を為すので危険だと言う。だから「一本ダタラ」の住処の近くに住まう人々は、果ての二十日にはこの妖怪の縄張りには決して近付かない。
「一本ダタラ」の「タタラ」とは製鉄や鍛冶に使う「踏鞴」(たたら)の語に由来すると言われ、その事から一般には製鉄・鍛冶に深い関わりを持つ妖怪だと考えられている。また、この妖怪が出没する場所には必ず良い鉱脈が見つかる、とも言う。
また、同じく紀州(より厳密には、和歌山県と奈良県の境)の“果無山”(はてなしやま)を根城に大暴れした猪の妖怪「為笹王(いざさおう)」が死んで転生した妖怪こそが「一本ダタラ」だとする説もある。「為笹王」も、普段は封印されているが“果ての二十日”になると封印が解け、山の中に迷い込んだ人間を害すると言われる。この特徴は「一本ダタラ」のそれと共通している。