エミュー
Emu (Dromaius novaehollandiae)

飛騨の奥地に伝わる不思議な昔話に、
「二つ葉の栗」と言う話がある。

―昔、若い頃には名うての悪党として知られた男がいたが、
ある日翻然と悟る所処があって改心し、真人間となって暮らしていた。

男は死に臨む時、家族に言った。

「俺は若い頃は悪さばかり働いて周りの人間に迷惑をかけたから、
若しかしたら地獄に堕ちるかも知れぬ…。
万が一、俺の罪が許されて極楽に行く事が出来たなら、
庭の栗の木にその験を表しておく事にしよう。」

男の死後間も無く、この家の栗の木に茂る葉は、
皆ひとつの葉軸から2枚の葉が伸びる「二つ葉」になった。
人々は「あの男もきっと罪を許されて、極楽に行く事が出来たに違いない」
と、囁き合ったと言う。―

この話を聞いて、ある鳥の羽毛の事を思い出した。
その鳥とは走鳥類の一種、エミュー。

この鳥の羽毛はかの「二つ葉の栗」の葉と同じく、
一本の羽軸から2本の羽毛が伸びているのである。

全く関連性は無いのだろうけど、然し、何とも楽しい偶然ではないか。
<データ>

*分類*
鳥綱 食火鶏目 エミュー科
*分布*
オーストラリア各地の草原地帯
*大きさ*
全長1.9〜2.3m、頭頂高1.5〜1.9m、体重35〜50kg
*食性*
雑食性。木の葉や草、根茎、昆虫等の小動物が主なメニュー。時折畑を荒らす事があるので農家には嫌われる。
一体のエミューの胃袋から2000匹以上の芋虫が発見された記録もある。
*備考*
走鳥類(ダチョウの仲間)としては恐らく最も繁栄している種類。オーストラリアのシンボル的存在でも有る。
灰褐色のぼさぼさした羽毛と、首筋に見える青みがかった裸出部が特徴。脚には指が3本ある。
メスの方がやや大きめ。
開けた場所に小さな群れで棲息し、餌を求めて長距離を移動しながら暮らす。
水を恐れず、泳ぎも得意。
一夫一妻、一夫多妻、多夫一妻が混在する乱婚的な繁殖形態の持ち主で、
通常、1羽のオスは1シーズンに2〜3羽のメスと交尾するが、
対して1羽のメスは少なくとも1シーズンに数羽のオスとの交尾の末に産卵している事が示唆されている。
これは近親交配による遺伝子の劣化を防ぐ為の本能的な自己防衛策であろう。
尚、抱卵・育雛は全てオスが受け持つ。