白馬沢右俣「代かき馬を滑る」
【1997年5月11日(日)】
【天気 】 薄曇り
【メンバー】 横山 山川
【コースタイム】
白馬村(7:00)===猿倉(8:30) −−−白馬尻(10:30)−−−二俣−−
−−− 稜線(2719m)(15:00) −−白馬尻(15:35〜16:10) −− 猿倉(16:50)
きょうは金山沢を滑る計画で横山氏とやってきた。白馬尻の少し下でスキーを履き、シールで登り始める。しかし、沢が大きく左にカーブするところを回り込んだところで2人とも唖然としてしまった。上部のゴルジュは完全に雪が割れ、ゴウゴウと水がながれているではないか。側壁もガラガラしており、通過は危険そうであった。今年は少雪であったが予想以上であったのだ。へつりで失敗すると流れに落ちてしまうおそれもあり、別のルートを滑ろう、ということで2人の意見が一致する。
せっかく登り始めたのに下降するのはくやしいがしかたがない。杓子沢か白馬沢にでも行こう、と大雪渓を登り始める。横山氏の話では、杓子沢は落石でかなり汚れており、快適ではないだろうという。白馬沢は以前から興味があった場所であるが、記録を見る限り、かなり上級者向けであろうという気がした。まあ稜線から滑れなくてもいいだろうと、偵察にでもいくようなつもりで白馬沢に踏み込む。
白馬沢はいざ入ってみると予想に反して広く、明るい沢がひろがっていた。が、大雪渓のにぎやかさとは対照的に、我々しかいなく、静まりかえっていた。正面に白馬岳の命名の基になった代かき馬が迫っている。横山さんは以前から代かき馬の右側の真っ白な大斜面が気になっていたという。
「滑ってみたいよなー」と私も言うが内心、あそこまでは登れないだろうと思っていた。二俣まで登ってみると、谷は狭くなり傾斜が強くなるものの、雪はきれいにつながっており、問題ないように思われた。このようなあまり人のこない領域にふみこむときは、ワクワクする反面、何か無謀な企てをしているのではないかと不安に思うことがよくある。
何か上部に人のような点がみえて動いている。雪渓上にはよく見ると兼用靴の足あとがあり、先行者がいるようである。このことは我々を勇気づけ、もしかすると馬の横までいけるかもしれないと思う。登るにしたがって急峻になって、代かき馬も頭上に迫ってくる。もっと恐ろしい谷かと思っていたのだが、周囲の雰囲気は明るかった。しばらくすると先行していたスキーヤーが滑ってきた。稜線から滑ってきたという彼の言葉に気をよくしてわれわれもがんばろうという気になった。
代かき馬の下をやや右にトラバースして登っていたとき、上部で「ガパッ」と音がしたかと思うと、代かき馬の尾付近の氷瀑から巨大なブロックがはがれ落下してきた。「こっちにくるなよ」という念力が効いたのか、幸い隣のルンゼに入ってくれた。ちょうど休憩したかったところであった
が、安全なところまでがんばって登ってしまうことにした。
代かき馬を真横に見る高度(約2400m)まで上がり休憩する。上部にはもう危険なものはなく、一安心である。下からいつも見上げる代かき馬の真横にいると思うと、感慨深いものがある。次第に青空も広がってきてすばらしいロケーションの中にいることに満足する。そこからひとがんばりで稜線であった。雪倉や朝日岳が目に飛び込む。もう午後3時であった。
少々休憩し、スキーにワックスをぬり、滑降を開始する。稜線からしばらくは緩傾斜であるが、次第に落ち込むような感覚を覚える傾斜になってくる。周囲のロケーションとも合わせ、しかも代かき馬の横を滑っているということで、感激する。雪質もよく締まったザラメであり、快適なことこのうえない。
一番急傾斜な部分もさほどストレスを感じずに通過。石ころの多い狭い部分を通過すると、広大な白馬沢の二俣に降り立った。そこからは大きなターンで白馬尻まで滑降。滑降は白馬尻まで25分とあっと言う間であった。どこかの本に「薄い感動の繰り返しよりも濃い一発」と書いてあったが、まさにそんな感覚だった。恐ろしいところというイメージを持っていた白馬沢だったがずっと親しみやすいものに感じられた。