アペンディクス1 ブッコ学的危険回避理論仮説(2)

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3.「ブッコ」の行動分析
 このモデルにおける「ブッコ」の行動を分析する。
 「ブッコ」は女性にことごとく嫌われる、と考えているため、Pe=0である。この時「ブッコ」は

 u(X−S)<消極策>
 u(X−L)<積極策>

という式に直面していることになる。

 「ブッコ」は普段は消極策で、場合によっては女性を避けて生活する。すなわち

 u(X−L)<u(X−S)

という状態である。効用関数の性質から、

 X−L<X−S
 よって、L>S

 これは「女性から振られることによるダメージ」が、「消極策のはがゆさ」に比べて高いと考えていることを意味している。
すなわち、
「嫌われるぐらいなら、忘れたほうがいいや」
と考えていることになる。
 また、Sが負の場合には、Lは必ず正なので、この式は必ず成り立つ。つまり、
「いちいち女のためにあれこれしてられっか!」
と考えている場合にも、「ブッコ」は積極策に出ない。
 1990年代前半、私は極端な女子嫌いで、女子と話をすることすら嫌がっていた。つまりこの時期の私の「積極策のためのコスト」は非常に高く、Sは負の値を示していたと考えられる。
 一方、96年ごろから、Sの値は上昇し、正の値を示し始める。しかし自分が傷つくことに対する恐れは強く、ヘタに振られると女子嫌いが再発するかもしれない、という気持ちが強かった。そのため、Sは十分に大きな値は取れず、Lを大幅に下回っていたのである。

 一方、「ブッコ」が積極策に出る場合には、

 u(X−L)>u(X−S)

が成り立っている。同様にして、

 L<S

 これは「ブッコ」が、「女性から振られることによるダメージ」が、「消極策のはがゆさ」を下回ったと考える場合に生じる。すなわち、例えば今後しばらくこの人には会えなくなるとわかったなど、消極策に対する歯がゆさが大きくなり、Sが急騰し、
「何もできないぐらいなら玉砕しちまえ」
という気持ちになった場合に、「ブッコ」は積極策に出る。
 また、Sがさほど大きくなくても、Lが限りなく0に近くなれば、「ブッコ」は積極策に出る。すなわち、
「振られたら振られたでまぁいいや」
と思っている場合である。
 96年12月、私はクラスのとある女性にラブレターを渡そうとして受け取ってすらもらえなかった、という事件を起こしている。この際私は実際に、
「どうせ振られるのなら、やりたいことやってやる」 と投げやりな感情を抱いていたわけで、この時あの女性に対してSの値が急騰したことを示している。
 またその1ヶ月ほど後、別の女性に対してメールでラブレターを送ったところ、断られたことがある。この際私が受けた精神的ダメージはそれほど大きくなく、何故あんな行動を取ったのか、と我ながら首を傾げたくなる。この時、Wの値はともかくとして、Lの値が急激に0に近くなり、Sの値を下回ったと考えられる。

 このどちらを見ても、「ブッコ」が女性との関係や女性の意識を勘案した形跡はどこにもない。
 これらの関係はPeの値と初期状態X、そしてSに含まれる積極策コストに影響を与える。しかしながら、「ブッコ」の場合はPeは0に固定されており、Xも彼の行動決定には何の影響も与えない。考えられるのは、お互いの関係に対するSに対しての影響である。関係が悪かったり、立場上の問題と言った「壁」があれば「積極策コスト」は高くなり、Sは下落する。
 しかしながら、「歯がゆさ」が与えるSへの影響は、女性との関係がSに与える影響に比べて圧倒的に大きいと考えられる。「身分違いの恋」といったものが存在するのは、身分違いによる膨大な「積極策コスト」を、「歯がゆさ」が乗り越えた結果であろう。従って「ブッコ」の行動に対するSの影響は少ないと考えられる。
 このように、「ブッコ」は、普段自分を好きでいてくれる女性に対しては、よほど気が向かない限りは単なるお友達かそれ以下のつきあいしかしないし、場合によっては遠ざけることすらある。一方、自分が強烈に好きだと思った女性と、そこそこのお友達で関係が切れてもいいやと思っている相手に対しては、相手がどう思っていようと相手との関係がどうであろうと、無謀な積極策に出る
 これはまさに私の、90年代の行動を如実に示している。

4.極端な例
 もう一つ、極端な例を挙げる。すなわちPe=1という場合である。この時、

 u(X−S)<u(X+W)

において、この人は積極策に出る。これも同様にして、

 −S<W

という式が成り立つ限り、この人は積極策に出続ける。Wは相手を好きだと思っている以上は常にプラスであり、Sはよほどのめんどくさがりか、積極策に出るコストが大きくならない限り負にならない。女子嫌いである、という仮定はPe=1、すなわち 「俺が何か言えば絶対になびいてくる」 という自信を持っている人に対しては当てはまらないだろう。  従ってこの場合、よほど相手に対して興味をなくした上で、「積極策に出るコスト」がやたらと高い(立場上うっかり思いを告げると職を失う、法的に接近が制限されているなど)場合でないと、この人は相手の意識や関係に関係なく、積極策に出続ける。  必ずしも全てがそうではないが、こういうタイプの「ストーカー」はいる。  また、この人の場合、「積極策のコスト」が「歯がゆさ」を十分に上回らないと積極策をやめようとしない。すなわち「半径2キロ以内立入禁止」といった刑罰によって「積極策のコスト」を高めなければ、女性がどんなに嫌だと言ってもだめなのである。

5.一般的な場合

 一般的な場合の効用関数は、次のようになる。

 Peu(X+W)+(1−Pe)u(X−L)<積極策から得られる効用>
 u(X−S)<消極策から得られる効用>

 この式の変数は全て「その人がどう思うか」にかかっている。従って

 W>0,L>0,0≦Pe≦1

の条件以外の値は、これらの変数は実数である限り何でも取りうる、ということである。
 ここで、各変数が動いた場合にどうなるか、考えたいと思う。

 まず、初期状態Xであるが、Xが低下すると、どちらの効用も低下する。というよりXが低い、ということは最初の時点での仲が比較的悪いわけであって、最初の時点で仲のいい場合と比べて効用水準自体が低い、ということは十分に考えられる。
 また、効用関数の形や他の数値の状態によって、Xが変化したときに積極策に転じるかもしれない。これは、その人が初期状態Xに対して積極策としてどのような策を講じるか――話しかけてみるだけからプロポーズに至るまで――によって、実際にするかどうかを変えるわけだから、当然と言えるだろう。
 こう考えると、「ブッコ」の場合にも、相手との関係や相手が「ブッコ」に向けられた意識といったものは、積極策の取り方や効用関数の形に影響を及ぼすと考えられるが、「ブッコ」の意志決定は「振られて傷つくか忘れる苦痛を受け入れるか」にかかっているから、彼の行動にはあまり影響しないだろう。

 次に、予想成功確率Peが大きくなればなるほど、積極策から得られる効用は高くなるため、積極策に転じる。すなわち、「脈がある」と思った人には積極的に行動するのである。
 Peの決定に際しては、今までのつきあいの経過、相手の行動から予想される意識や、それに対する各積極策の予想成功確率などから総合的に判断される、と考えられる。そして最も有効(成功率の高い)と予想される積極策に対して、行動するかしないか、という判断になるだろう。また、取りうる積極策のPeが全て0か、取りうる積極策でのWが全て0で、もはや「何をやってもムダ」という状況もありうる。  しかし、普通はPeが0や1といった極端な数値をとることはなく、消極策・積極策がその場の状況に応じて判断され、採用されることになる。  「ブッコ」の持つPeは0、すなわち「女性から嫌われる」と認識しているため、彼は女性に滅多に近づかないし、気を許すこともない。すると女性側から見ても、「ブッコ」に対する積極策の予想成功率Peは0に近くなる。従って、「ブッコ」に対して積極策を採る女性は大変少ない。

 次に、仲良くなることで得られるもの、つまりWの数値の変化を考える。Wの数値が大きくなれば積極策から得られる効用は上昇し、積極策に転じる。
 このWの値は、第一に、積極策にどのようなものを選ぶかによって変わる。  第二に、その女性に対してどれだけの期待を持っているかについても違う。よりすてきな人であれば当然、仲良くなった結果得られるものは大きいだろう。
 第三に、その人の自分に対する対応によっても変わる。積極策に出たところでさほど仲良くなれない人に対しては、Wの値はかなり低くなるだろう。この場合積極策に出るのは難しくなる。例えば、「ブッコ」は女性とのつきあいを拒否する傾向にあるため、積極策に訴えたとしても大して仲良くしてもらえない、と考えられる。この場合Wの値は非常に低いものとなり、やはり積極策にはなかなか出ないだろう。

 さらに、振られた時のダメージ(−L)の変化についても考える。Lの値が大きくなればなるほど、積極策による効用は低下する。すなわち振られたときのダメージを重視すればするほど消極的になるし、ひどいことを言われそうだと思えば思うほど、消極的になる。
 例えば、某大学のとあるサークルにおいては、女子部員の横暴が目立っていた。この場合特定の女子部員に積極策を講じると、失敗したときに何の関係のない女子部員からも袋叩きに遭う可能性が非常に高い。すなわちLの値がとても高いので、積極策には出られない。
 また、「ブッコ」の場合、女性を「嫌な連中」だと認識している。つまりそうとうひどい言い方をされて振られるだろう、と予想しているため、Lの値は非常に高い。
 さらに、逆に考えれば、「ブッコ」は女性を敵だと認識しているため、それが女性に理解された場合、Lの値は高くなる。従って、「ブッコ」に対して積極策に出る女性は少なくなる。

 最後に、Sの変化について見たいと思う。これは前ページに示したように、

 S=(仲が進展しない歯がゆさ)−(積極策に出るためのコスト)

と考えられ、「歯がゆさ」が大きくなればなるほど上昇し、「コスト」が高くなればなるほど下落する。Sが上昇すると、消極策から得られる効用は低くなり、Sが下落すると逆に、消極策から得られる効用は高くなる。
 つまり、歯がゆい思いをすればするほど、積極策へ転じるし、積極策に出るコストが高ければ高いほど、消極的になっていく。
 「ブッコ」の場合、元々歯がゆい思いというのは少ない上、積極策に出るためのコストが非常に高い――女性は恐いからそもそも話をするのだって辛いのである。
 これも同様に、「ブッコ」を女性の側から見ると、どんなに歯がゆい思いをしたところで、話しかけようとすると仏頂面になるわ、ひどい時にはそもそも姿を見せず、せっかく見つけたと思って声をかけても逃げ出す。彼をとっつかまえて話を聞いてもらうだけでもかなりの時間的・精神的コストが必要で、Sの値はかなり下落するだろう。

6.考察
 と、ここまでしかめっつらしいことを書いてきたが、実のところ「アペンディクス」は単なるお遊びのようなものである。ふと授業やゼミでやった話と『ブッコ学的恋愛感情論』を結びつけてみたらどうなるかな、とやってみただけである。もっと細かく数学的にやったら、事実にあわない話がわんさかと出てきそうだ。
 おそらく、この手の話(人間関係・心理の数式による分析)は、おそらく社会心理学などで本格的になされていることだろう。しかし私は単なる経済学部生。それもかなり不真面目な部類で、もちろん社会学の論文を書く気はさらさらない。まぁちょっとしたジョークというか、元ネタを知っている経済学部の学生が見て「くっだらね〜」と笑ってくれれば成功、というようなところもある。あまり理論的に目くじらを立てず、面白がって読んで頂ければ、と思う。

 今回の元ネタは、9月に行われた大学のゼミでの卒論発表会で、とあるゼミ生が『個人の資産選択行動について』という題名で発表した、資産選択の「危険回避」についての理論である。私が書いたことよりもう少しつっこんだ話がされていたのだが、私は意識的にカットした――いちいち細かく突き詰めるのが面倒だったのだ(^^;)
 しかし、意外とうまいこと当てはまって、ちょっとびっくりしている。私は果たして「合理的な」奴なのか、それともこんな簡単なモデルで説明できてしまう「機械っぽい」奴なのか……後者の可能性が高いような気がする。私は至って単純な性分である。

 この議論は、「女の子に心を開こう!」というのが結論である。女性に心を開いて、相手がどういう意図を持っているのか、今のお互いの状況がどうか、ということを考えないと、うまく行くはずの関係もこじれてしまう。女性と仲良くなれないのが、自分が女性を避けた結果なのか、それとも元々の自分に問題があるのかは、とりあえず女性に心を開いて接してみてからでないとわからないのである。

(00/9/24)
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