3−1.迫害の端緒

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 私の女性恐怖症の原因となった、小学校での女子による迫害は、3年の1986事件をその端緒としている。  当時神戸から転校してきたばかりだった私は、とある女子から恋人としての交際を持ちかけられた。「恋人」というものが何なのか、当時の私には「とっても仲のいい男女の友達」という認識しかなかった。別に友達が増えることについて異議はなかったし、仲のいい友達なら神戸にいた頃にも何人かいたから、いいよ、と気軽に返事をしてしまった。その時「ラブレター」なるものを初めてもらったが、その内容についてはほとんど理解していなかったに違いない。どんな返事をしたらいいかすら想像できなかったから、もらったラブレターをたたき台にして返事を書いたほどである。
 しかし、問題はここからだった。「恋人」というのは学校からも一緒に帰らなくてはならないらしいのだが、お互い家のある方向は全く逆。ということで、当時建築中の自宅を見に行く、ということで、そこまで一緒に行くことになった。学校からはあるいて5分とかからないのだが、全く逆方向なのでとにかく遠回り。それで一緒にいられることが楽しければいいのだが、熱を放射する体質の私にとっては、近くに女性がいることはむしろ暑苦しかったし、妙に汗ばんだ体を悟られて嫌がられたくもなかった。それでも彼女は離れようとはしない(私を好きなのだから、近くにいたいのは当然といえる)し、引き離すわけにもいかない。私にとって、あまり心地よい環境、というわけではなかった。
 さらに、つきあい始めた当初から、「仲を取り持つ役」の女子がいつも一緒にいた。つまり私は、彼女と仲良くしている様子を監視されているわけで、たとえその仲介役が彼女とお友達だとしても、面白くない。といっても当時から彼女が原因だとわかっていたわけではなく、「なんかつまらないなあ」という漠然とした不快感を持っていただけである。そうだと知っていれば「二人にして欲しい」と頼んだだろう。
 私は転校してすぐに出来た友達に、彼女について聞いてみたが、はかばかしい返事は返ってこない。その上彼は、
「あいつ、背小さいし。」
と否定的に言ったのである。これが「別れよう」と決意する決定打となってしまった――今考えればひどいものだが、東京に越してきて初めて出来た一番信頼できる友達に否定的に言われれば、決していいとは思えない。それに、彼女はごく普通の小学生で、ことさらに美人だったとかそういうわけでも……当時の私には恋愛について、その程度の認識しかなかったのである。
 当時の私は、「恋人」から別れるとたいてい敵になる、という風に認識してたから、彼女とは敵同士になる、ということを覚悟していた。放課後、彼女を教室に呼びだした。もちろん大喜びで残ってくれたのだが、仲介役まで一緒に来るのがまた、嫌だった。
 なんと言って別れを切り出していいものか、私にはわからなかったから、一番簡単な単語を使った……「嫌い」と、私は彼女に告げたのだ。彼女は泣きさけび、教室から出ていった。仲介役の女子が
「ホントにこれでいいの?こんな事があるの、最後かも知れないよ。」
と言うのに、私は答えた。
「いいんだよ、これで。」
 私が汚いと言われて避けられ出したのは、その翌日からである……。

 女子による迫害は、この私の行動に対する制裁措置として採られたものであろう。しかしこれが単なる制裁措置に終わらなかったのは、実際私がかなり薄汚い小学生だったことが原因である。
 ただ単にとかしただけでは1時間で自動的に乱れるほど、私のくせ毛は強力である。整髪料使用禁止の小学校では、朝起きて髪をとかすことは、私に関してはほとんどムダであった。その分寝てたほうがいい、ということで、私の髪はいつもかなりぐちゃぐちゃとしていた。
 さらに、私にはアレルギー性鼻炎の持病があり、当時はかなりひどい状態だった。小学校3年生の、身だしなみにロクに気も使わない男の子が、鼻水の処理にどういう行動に出るか、みなさんおわかりだろう(当然の事ながら、今ではああいう手は使わない)。
 つまり私は実際に汚い小学生で、この点を改めない限り、事件が無くてもそのうち女子から避けられたであろう事は間違いなかっただろう。
 では、この点を改めると言うことが、当時の私に可能だっただろうか。
 おそらくそれは出来なかったに違いない。私の忘れ物の癖はひどく、ハンカチやちり紙といった小物は絶好の”忘れ対象物”になっていた――別に無くても授業に出られないわけではなかったからである。それになぜか私は鼻をかむのが嫌で、おそらく一回鼻をかんだところで大した効果がないからだろうが、適当にその辺で鼻を押さえてしまったほうが楽だった。
 従って、この女子による迫害は、私にとって不可避であり、1986事件はその発端となったに過ぎないのである。

(00/7/25初出、01/1/25加筆修正)
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