2−28.エマージェンシー・モード

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 去年の3月4月は、お互いにとって明らかに異常だった。
 史上もっとも厳しいとうたわれた就職活動で、彼女は本当に辛い目に遭っていた。一方で私は遠くのお客様先に配属され、初めてお客様先で仕事をすることになり、平日は自分の趣味に当てなければやってられず、土日は寝なければやってられない、という状況が続いていた。こんな中で、お互いがマトモな精神状態だと考えるほうがおかしい。
 その時に相手を評価した場合どうなるか――悪い面しか見えてこないに決まっている。考え方が後ろ向きに過ぎるとか、改善策出してるのに何もしないのは怠慢だとか、趣味に没頭して寂しがってる人を放置するなとか、人の親切や努力を少しは考えろとか…。やりたくても出来ないほどおたがい危険な精神状態にある、ということを考慮に入れないから、評価も厳しくなる。
 そうなると、自分の気持ちも見えなくなってくる。この人のこと本当に好きなんだろうか、この人本当に自分を受け入れてくれるんだろうか、という疑いが、愛する気持ちを奪い、冷ましていってしまう。

 さて、そんな異常事態…「エマージェンシー・モード」に入ってしまった時、どう対処すればいいのだろう?
 まず、自分がかなり危険な状態にある、ということを早めに認識して、相手に告げるべきだろうと思う。それによって相手が「コイツ使えねぇ」とは思わないし、むしろ好きなら「今支えてあげられないでどうする!」という気分になる。
「今こういう理由でいっぱいいっぱいだから、かなりの迷惑かけるかもしれないけど、ヨロシク。」
と言って、あとはとにかく甘えさせてもらう。それで相手がいやだと言ったらこの恋はそれまでだ、と思えるぐらい甘える。
 ただそのまま甘え続けると相手が支えきれずに潰れるので、その間に一つ一つの問題を片付け、心に余裕を作る。焦ってる理由は結果が出ないからか、スケジュールが詰まってるからか、多くのことを同時にやるハメになったからか。
 結果が出てないならなぜそう感じるか、結果を実感できていないばあいもあるし、ホントに結果がでてないこともある。結果が出てないならなぜ出せないか。スケジュールが混乱しているだけなら、整理すればなんとかなるのではないか。そうしたことで目の前の問題を整理して、あとは各個撃破でつぶしていく。
 ゲームの話で恐縮だが、戦士がモンスターに囲まれてて、1匹ずつ順番に叩いていってもいつ倒せるかわからないし、逆に敵に叩かれて体力を失って死んでしまう。たとえ側で僧侶に回復してもらっていたとしても、僧侶の魔力が尽きたらおしまいで、こういう無茶な戦いばかりする戦士と一緒に戦いたい僧侶はいないだろう。
 そこで戦士としては、まず目の前にある、一番さっさと倒れそうな1匹を倒し、次の1匹にかかるようにすれば、叩かれる回数も減るので体力の消耗も少なくなる。僧侶の魔力も温存できるし、戦いはずっと楽になるだろう。
 僧侶の魔力が切れるまでに、いかに早くエマージェンシー・モードから復帰するか。ここが焦点である。

 エマージェンシー・モードから復帰したら、復帰宣言をしないと相手には伝わらない。
 そして、相手の我慢をいたわり、今まで以上の愛を注いであげるべきだろう。

 一方、エマージェンシーだと告げられた方は、当然大切な恋人のために尽力するわけだが、ある程度は我慢してあげて、悩みを常に聞いてあげる、といった行動は必要だろう。
 但し、エマージェンシーを宣言したほうが、一番効率的な方法で問題をクリアする、という前提があるので、いつまで経っても改善しないなぁ、と思った時には、厳しく言ってあげることも必要かもしれない。きっとケンカになるだろうが、相手がきちんとした人なら聞く耳を持つ時がいずれやってくる。
 もしどうしても我慢できないのなら――恋人との付き合いはあきらめてもいいだろう。ムリをしたところで、愛する気持ちを削るだけにしかならないから。

 さて、問題は二人同時にエマージェンシー・モードに入っちゃった場合――お互いが甘えにかかるので、お互いに手に負えなくなる。そうするとお互いへの愛は削られるばかり、という最悪の状態に陥る。戦士と僧侶でうっかりモンスターの巣に入っちゃったようなもので、お互い回復とか言ってられる場合ではない。
 これは私の経験のとおり、お互いがどんなに愛し合っていたとしても、めぐり合わせが悪ければ起こる。このめぐり合わせの悪さを二人で乗り切れると、おそらくゆるぎない愛というものが生まれることになるのだろうが、私の場合は二人の愛がこっぱみじんに砕け散ったわけで…。
 こうなってしまったら、とにかく自分が早く復帰することを考える。エマージェンシー・モードで自分の心の余裕がないのは、単にスケジューリングに不安があるだけとか、これからの見通しに不安があるなどの、不安材料が原因として考えられる。そうした不安材料を解決することで、少しでも心に余裕が生まれれば、エマージェンシー・モードから脱出することができる。あとは相手が脱出してくるのを待つだけである。
 しかしこうなると、たとえお互いがエマージェンシー・モードから復帰したとしても、もはや相手のことを好きなのか嫌いなのか判断できなくなっている。何しろエマージェンシーを出している間、お互いの関係でロクなことは起きないのだ。
 そんな中で、自分の気持ちとお互いの関係を、どうやって冷静に考えていくか。それにはなるべく多くの視点から分析をする必要がある、と考える。
 12月以来、私が考えてきた視点は以下のような事柄である。

 これをずっと前に、それこそエマージェンシー・モードから二人とも脱出し、彼女と一旦冷却期間を置いた去年7月に行っていれば、結果は大きく違っていたと考えられる。
 今後、自分の気持ちがわからなくなった時、改めてこの考え方で検討を加えることで、悔いの残らない決断を下すことができるだろう。

 エマージェンシー・モードに陥っている恋人を見た時、決してそれがその人の本性だ、とは思わないほうがいいだろう。むしろ異常な状態であって、ごく一時的なものだ、と考えて、寛大に受け止めるべきだろう。
 またお互い明らかにエマージェンシーを出しているな、と思った時、おそらく二人の仲は最悪の状態にある。恋人に甘えようとしてもうざがられる、仲良くしようよ、と言っても振り向いてさえくれない。時には言った本人ですら意図してないほど、冷たい言葉が返ってくるかもしれない。別れるとまで言い出すかもしれない。
 そんな時は本当に悲しい気持ちになるだろうが、これはあくまでも”事故”であって、恋人が狭量なわけでも、自分が悪いわけでもない。しばらくして落ち着いたら、何事もなかったかのように、本来の恋人に戻っているだろう。

 この危機を乗り越えられたカップルは、おそらく今後どんなことがあっても二人で乗り越えられる、という自信をつけられると同時に、お互いがいないことには不安でたまらなくなるだろう。
 つまり――『永遠の愛を誓う』きっかけの一つとして、こうした危機を乗り越えること、があるかもしれない…。

(03/1/23)
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