2−27.気持ちが冷めたとき

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 自分から別れを告げたにもかかわらず、彼女が好きだ、という、大変いびつな感情を抱いている。
 恋人と永久に別れることの辛さを知らなかったとはいえ、一度幻滅したのであれば、あっさり忘れられるはずである。
 それでも好きだ、という気持ちが残っていたのには、当時彼女に言えなかった理由がある。

 初めてのお客様先で、初めて仕事をすることになった。しかし本当に完全にうまくいった、といえる仕事は一つもなく、むしろ単純ミスでさんたんたる状態だった。達成感はまるでなく、毎日毎日新たな反省材料が積み重なる、という日々が続いていた。何でこんな簡単な、仕事ともいえないような仕事一つ、何事もなく片付けられないのか、と思うと、本当に情けなかった。
 そんな中、彼女は就職活動でうちに泊まりこんでいた。去年の活動は厳しく、彼女は本当に苦労していた。にもかかわらず、彼女は手料理を作っててくれたりしたわけだが、うれしいというよりも、彼女にそんなマネをさせていることが心苦しかった。彼氏として失格だと思っていた。
 勤務先が遠くなったことで、定時に会社を出ても、家に帰るのは午後8時を回っていた。そんな中、私は私でネットゲームをやりたかったり、ホームページを更新したかったり、といろいろやりたいことがあった。そうするとどうしても、彼女を放置せざるを得ない。彼女は私と一緒に時を過ごしたいと思っているし、就職活動で相談したいと思っていたこともあった。そんな彼女も大切だが、私の時間も必要だった。そうしていることがまた、心苦しさを生んでいた。
 彼女の話では、友達は彼氏さんともっとラブラブな生活を送っていると言う。それに勝てる自信が無かったこと、それだけのラブラブな環境を生み出せないことも、自己嫌悪につながっていった
 他にも二人のこと、彼女のことで思い悩むことがあった。それを全て、私は自分の能力が低いせいだと信じ込んだ。自分のふがいなさに、いつも悩んでいた。

 そうして、私はいつしかへとへとになっていた。彼氏としての自信は全くなくなっていた。恋愛は手に余る、もうムリだと思った。好きな人一人世話できないくせに、恋愛関係を維持するだけのことをする体力もできないくせに、人を好きになってはいけない、と思った。
 素朴で純粋、素直で心優しい、誰よりも大切な彼女が、私のようなのにひっかかって苦労させられている。それも全て、能力のない私が彼女の彼氏だからだ。本来人を好きになる資格のない人間が、彼女を好きだと言っているせいだ。彼女が私にだまされて、素敵な人だと思い込んでいるせいだ。一刻も早く開放して、包容力も落ち着きもあり趣味も合う、そういう立派な男と一緒にならなければ、彼女は本当の幸せを感じることができないのではないだろうか。
 彼女を解放しよう…大好きだけど、能力不足の私には人を愛する資格はないのだから。
 私はそうして、別れを決意したのだった。

 書いててめちゃくちゃだというのはわかっている。こんなものは、実は単なる言い訳に過ぎない。
 要は

おのれが自由になりたかった
だけである。私は悩みに疲れ果て、もうどうでもよくなっていた。恋愛って何でこんなに疲れるんだ、こんな苦労してまで、好きだとはいえ人と一緒にいる必要があるんだろうか??とまで考えてしまったのである。そんなことを考えている自分がまた、嫌になった。

 しかし、実際彼女は私を束縛していたか、というと、確かにそういう部分がゼロだった、というわけではないが、私の話を素直に聞いてくれたし、ネットゲームをしているのも我慢してくれていた。そんな彼女の言葉に勝手にプレッシャーを感じ、勝手に疲れ、勝手に嫌になっていったのである。
 彼女は私を過度に束縛しようとは思っていなかった。私の自由を確保しながらつきあうことを考えてくれていた。もっと前に話し合っていれば、彼女はきっと私の心を和らげるような言葉をかけてくれただろう。そうしたらまた改めて、彼女に愛情を抱くようになれたかもしれない。
 これが、今の私が彼女に未練を残している、一番の原因である。

 では、この時自分の気持ちを告げて、彼女は受け入れてくれたのか?
 それはわからない。というのも、彼女にはそれ以前にも、私の幼稚さのせいでいろんなことを我慢してもらってきた。2月の事件の翌朝暗くなってたことに始まり、その年の10月にディズニーランドのスプラッシュマウンテンでガキみたいに泣き叫んだときも、彼女は恥ずかしさを必死に我慢してくれていたし、12月のライブで私のノリが悪いことも、彼女は我慢してくれていた。
 私が自分の欠点にはっきり気がついて、ある程度直す努力をしない限り、いつか彼女の我慢は限界に達したと考えられる。彼女は我慢強い性格なだけに、一旦限界に達するともう振り返ってくれないだろう。
 自分の欠点に気がついたのは、彼女と別れ、更に彼女が新しい彼氏さんを見つけたと知ってから――。
 従って、この恋は、早晩かなりの確率で破綻した可能性が十分に考えられる。

 …と結論付けたところで、心の奥底で絶対ムリなことを叫んでいる自分がいるわけで、これを今まで理論だのゲームだので封じ込めよう、忘れ去ろう、としたが、結局効果が無かった。
 ということで、この気持ちがあることは受け入れるしかないのだが、実際問題、いつまでこだわってても何も進まない。この気持ちをどう扱っていくか。

 ――彼女との失恋によって、私は間違いなく、これまで20年以上言われつづけて結局わからずにいた欠点がようやく見えてきた。
 彼女に振り向いてもらうには、ここを直さなくてはならない。もしかすると直せない場所かもしれないが、少しでも欠点を和らげることはできるだろう。彼女と付き合っている間に、自分の怠慢からだめにしてしまったこと(特に体型)もある。これも直さなければいけない。
 もしこれを直せれば、私は間違いなく、彼女と出会った時よりも、内面も外面もずっと成長しているだろう。きっと年齢が上がった不利をカバーできるだけのものがあるに違いない。
 そうなったら、何も彼女にこだわる必要はない。なぜなら、今まで振り向いてくれなかった、彼女よりもっと素敵な女性が、きっと私に振り向いてくれるようになるだろうから。そうすれば、きっともっと無理のない、もっと純粋で幸せな恋愛を得ることができるだろうから。

 …いや、これが決して振った側の人間の発言ではないことはよ〜く承知しているが。
 この普通でない感情を相手に迷惑をかけずに処理するには、さしあたってこれ以外に手の打ちようがないのである。

(03/1/23初出、03/01/27加筆修正)
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