2−5.告白のタイミング

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 大学1年の時、私はクラスのある女の子に強い好意を抱いた。いわゆる「一目惚れ」というやつで、どうしてもその人と親しくなりたかった。(私が変わっていたのは、必ずしもその人とずっと一緒にいたいとは思っていないことで、恋愛ともなんともつかない妙な感情を抱いていた、というところである。)
 1年の、ほとんど最後の授業となる日。これでお別れになるのなら思い切って……と思い、私は手紙をしたため、彼女に渡そうとした。しかし、彼女は受け取ってさえくれなかった。
 話はさかのぼり、小学校3年の時。転校してきたばかりの私に、ある女の子が「クラス公認の恋人になってくれ」と言ってきた。彼女とはそれまで、あまり話したこともない。私はせっかく言ってくれたんだから、とつきあいを認めることにした。しかし、実際は「一緒に帰る」という名目で家とは反対の方向に連れ出されるわ、腕を取ってべたべたされるわ、当時の私にとっては我慢のできないことばかりだった。数日後、私は彼女を誰もいない教室に呼び、別れを告げた。彼女は泣き叫び、教室を飛び出していった。

 この二つを見比べてみると、面白いことがわかる。前者は「ほとんどつきあいのない相手に告白して失敗した経験」、後者は「つきあいのない相手から告白されてダメにした経験」。ちょうど表と裏の関係にあたる。

 つきあいのほとんどない相手からの突然の告白、これをどうとらえるべきだろう。
 私の幼少期の経験から言って、うかつに二つ返事で受け入れてしまうのは考えものである。もし相手との性格が合わず、一週間でダメだとなったら、このとおり相手を深く傷つけてしまう。逆に一週間で相手が自分とは合わないと気がついて、「つきあいはやめましょう」などと言われたら、じゃあなんで私に告白なんかしたんだ、と問いつめたくなる。
 それなら「ダメ」と突き放してしまうのはどうかというと、せっかく好きだと言ってくれた相手、大切にしたい。恋人にはなれなくても、友達にはなりたい。もしかすると、つきあっていくうちに相手の魅力に気がつくかもしれない。
 それではその通り「友達からお願いします」と答えたら?相手にすごく気を持たせることになる。答えとしてはイエスと同じである。もし長いことつきあってやっぱりダメだったり、別に恋人ができたりなどしたら、相手を深く傷つけるし、相手の恋人探しの時間も浪費させることになる。
 「急に言われても困るから」と断るなら、これはノーと同じ。相手を遠ざける結果を招く。
 つまり、この種の告白に対しては、相手の気持ちに配慮をすればするほど、答えることが困難になる。そして「答えをしない」ということ自体、気を持たせることになるから、うっかりラブレターなりなんなりを受け取ってしまった場合、全く身動きがとれなくなる。
 従って、受け取らない、というのが正解である。前者の彼女が私の手紙を受け取らなかったのは、私に対する配慮の現れである。それだけ優しく賢い人だった。それがわかれば、今の私にとっては十分である。
 本来、一目惚れした相手とは気軽に友達としてのつきあいを申し出るなり、そういうシチュエーションを作るなりして、相手との関係を作っていくことによって、少なくとも相手に結論を出す余地を与えなければならないし、自分も本当に相手と気が合うのかどうか、吟味する必要がある。結論を出し急ぐのは、相手にとっても自分にとっても不利益になる。

 だからといって、相手が好きなひとなら、いつまでも告白をしないわけにはいかない。相手の真意を確かめ、お互いの関係を確かなものにするためにも重要なことである。
 せっかく相手が恋心を抱いてくれていたとしても、自分がいつまでも淡泊なつきあいを続けていれば、「脈がない」と判断されてあきらめられてしまう。これは脈がないな、と思ってあきらめた相手から、後日になって「実はあなたが好きだった」と言われても困るだろう。じゃああのときの私の気持ちはどうなるんだっ!ということになる。
 だからといって性急にことを進めても、相手を困らせるだけである。友達は友達でしかなく、恋人ではないのである。もっとも、それまで全くつきあいがない、という状態よりは、何らかの結論が出せる分マシである。

 告白、というものの性質を考えると、自分が好きで、かつ相手が自分に恋心を寄せてくれている、そういう相手にだけすればいい。
 となると、相手が自分に恋をしているかどうか、それさえわかればいいのである。自分が相手に恋しているタイミングはわかる。相手が自分のことを好きだという瞬間を見計らって告白すれば、「私も……」ということになり、恋愛を成就することができる。
 しかし、実際にはよくわからない。肉体関係を許したかどうかも関係ない。友達関係のような淡泊な恋愛をしたい人、ベタベタとした友達づきあいをしたい人、いろいろなタイプがいるから、一概に「これ」という指標はない。

 またもちろん、時間でも計れない。人に慣れるまで時間のかかる人、あっというまに親しくなれる人、いろいろなタイプがある。親しくなる時間が一緒の人でも、お互いの相性によってはいきなり恋仲に落ちる場合、吟味にやたらと時間のかかる場合、いろいろある。やはり一概に「これ」と言うべき指標はないのである。
 日テレの「ネットで楽しいガーデン」には、その指標として「ラブラブポイント」というのがある。メールを送受信する度にポイントがつき、互いに100たまると告白する、ということになっている。しかし、この「100ポイント」が妥当である可能性はかなり低い。もうちょっとつきあっていれば恋仲になれたかもしれないし、すでにタイミングを逃して親友モードに入ってしまっているかもしれない。ただ、誰もが「100ポイントたまると男の方が告白する」というルールを知っているし、ポイントのつきかたもわかっているから、相手のポイントと自分のポイントを計算しつつ、そろそろ来るから結論を出そう、あるいはもうちょっと結論を先延ばしするためにポイントはつけないように…という風にして、お互いがタイミングをある程度調整することができる。その分、全く手がかりのない状態よりは少しマシかもしれない。

 恋愛をスタートさせる段階でもっとも難しい点、それが「告白」かもしれない。タイミングをずらせば、ヘタをすると気まずい関係に落ちるが、これを通らないと、おそらくお互いに恋愛を謳歌するわけにはいかないだろう。どの時点でどれだけの手の内をさらすか、飛び出すタイミングをどう計っていくか、なかなか難しいところである。

(99/11/2)
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