――――― 序 ――――― |
ザァァァ・・・ 緑の大地。ところどころに花が咲き、小川が流れ、空気はとても澄んでいます。小高い丘の向こうには山がそびえたち、高原に暮らすさまざまな生き物たちを見守っているかのようです。 そんな中に、一人の少女がたたずんでいます。顔立ちはまだ幼いのですが、しかしながら、目を閉じ、口を真一文字に結んだ様子は真剣そのものです。少女は、一枚の布に穴を開けて首を通しただけの、いわゆる貫頭衣を身にまとい、微動だにせず屹立しています。 ゴォッ! ふいに、少女の周囲の空気の流れが不自然に変化しました。渦を巻き、少女の正面に集まっているかのように見えます。少女の正面の空気の密度は見る見るうちに増し、限界を超えてその体積さえも膨張させていきます。 少女が目を開いて構えをとります。右足を後方へ引いて体重を乗せ、右の拳を硬く握って腰のあたりに当てて左手を添えます。 「はぁっ!」 声と同時に拳を打ち出し、空気の塊を殴りつけました。空気の塊は一直線に、正面に立てられた青銅の板へと向かっていきます。そして、すさまじい衝撃と爆音とともに、青銅版は木っ端微塵に・・・砕けはしませんでした。板にあたる直前、空気の塊は霧散し、板には傷ひとつとてついてはいません。少女は静かに足をそろえて両腕を下ろしました。 「あーもうっ!また結界を強くしたなぁっ!」 少女は腰に手を当ててむくれています。どうやら青銅板には結界が張られていて、それが空気の塊を霧散させてしまったようです。 「まったく、どこまで強くすれば気が済むんだろ。絶対わざとやってるわよね。ヤなかんじ」 「ねぇ清華、あの結界って師匠が張ったの?」 どうやらこの場にはもう一人少女がいたようです。こちらの少女は、足首までとどく長いゆったりしたスカートと、赤を基調にした鮮やかなベストのようなものを着ています。 清華と呼ばれた少女は、ひざを抱えて地面に座っているもう一人の少女に向き直って言います。 「だと思うよ。あの板は師匠が立てたんだって、春麗が言ったんじゃない。だったら結界も師匠が張ったんでしょう」 春麗と呼ばれた、見た目小柄な少女は、あごをひざに乗せて、ふーん、と気のない返事をしています。彼女にとってはたまらなく退屈な時間のようです。 「清華ぁ、そろそろ帰ろうよ。太陽ももうすぐ真上だし」 「そうだね。私もおなか減ってきたし、帰ろっか」 なるほど、二人の影がだんだん短くなってきました。そろそろお昼ご飯の時間です。清華は額の汗をぬぐって、春麗と並んで歩き始めました。遠くのほうでは、昼食の準備をする煙がいくつも立ち上っています。 |
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