美少女戦士エインフェリア・ジェイクリーナス




白い雲が流れていく。
レナスは久しぶりに訪れた神界をゆっくりと眺めた。
戦の雰囲気を感じさせない・・・静かな時間。でも着々と大規模な開戦へ向けて準備が進められている。
「レナス」
「フレイ、久しぶりね」
「レナス、貴方が送ってくれたエインフェリア・・・よく働いてくれているわ」
「そう。よかった」
オーディンに次ぐ実力者のフレイは軽やかな笑みを浮かべて久しぶりに出会う友人を見る。
「・・・あら、鎧が欠けているわ」
「先ほどまでダンジョンに行っていた。・・・修理しわすれたみたいね」
「それなら私がしてあげるわ」
創造の力。
それは自分には遠く及ばない程強い力・・・。
レナスはフレイの強さをよく知っている。
「戦況は?」
「こちらが現在有利よ。オーディン様が貴方を待っているわ」
「解った」
「なにやら特殊な任務を貴方に与えるとか」
「特殊な任務・・・?」
「ええ、そうなのよ。なんだか最近1人で悩まれることが多くなって・・・もしかしたらその所為かも」
「・・・一体、なんなのだろう・・・」
「・・・さあ、解らないわ」



「よく来た。早速で悪いが、任務を言い渡す」
「はっ」
オーディンの座る玉座をレナスはゆっくりと見上げた。
世界で一番美しく、そして荘厳な玉座に座るのはレナスとフレイの上司であるオーディンだ。
天井の高い玉座のあるこの部屋は、清い光で満たされている。
なんて神々しい。
この部屋がオーディンの威光を示すために作られたことは知っている・・・だが。
なんて神々しい。
レナスは奥歯を噛みしめ、顔を引き締めた。
「フレイ」
「解りました」
オーディンがフレイに手紙を渡した。
そしてフレイからレナスに手紙が渡される。
「これを、あとで見てくれ」
「・・・」
え?
レナスもフレイも思わず「え?」と心の中で呟いた。
ここまできたのに、どうしてここで言わないんだ・・・?
そうか、機密か!
「解りました」
「それではもうよい、下がれ」
「はっ」



「レナス・・・」
「今開けてみる」
手紙は赤い蝋で封がしてあった。
作戦の指示のために使われる手紙とは思えない。
何か意図でもあるのだろうか?
・・・レナスはゆっくりとそれを開け、中の手紙を読んだ。
「・・・・・・・・」
「レナス、どうしたの?」
「・・・いや・・・ちょっと・・・」
「レナス・・・?」
まさか、オーディン様はボケてるんじゃ?
レナスは本気でそう思った。
フレイはレナスが固まっているのを不審に思い、手紙をのぞき見た。オーディンの副官でもある彼女は全ての作戦を知る権利がある。それくらいの権力は与えられているし、常々行使している。
だが・・・。
フレイも手紙を見て固まった。
「・・・おかしい。美少女というのに選ばれているのが男なんて・・・」
「ああ、レナス。貴方やっぱりボケてるわね・・・」
「しかも二人は少年というよりも中年・・・」
「本当にレナスってボケてるわね・・・」
「・・・一体どうしろと?」
「・・・一体どうするのよ」
手紙には
”美少女戦士エインフェリアを結成せよ”
と書かれてあり、以下に美少女戦士の名前が書かれていた。
だが、それは・・・。
「ジェイクリーナスに、ラウリィに、バドラック・・・?」
何処に美少女戦士の素質があるんだ。
レナスとフレイはその後十分間その場に凍えていることになる。



「・・・あー・・・そのだなあ」
「ふーっ、やっぱり森の空気っていいなあ!!」
人間界に戻った後、エインフェリア達の魂の器を物質化する。
カシェルは柔らかな日差しの注ぐ森の中に出られたのがよっぽど嬉しかったのか無邪気に笑顔を浮かべながら背伸びをしている。
「で、次ぎに任務はなんだ?ヴァルキリー」
「・・・まず最初に。今回オーディン様が特殊な任務を私達に与えてくださった」
「あら、どんなのかしら?」
最近魔法をぶっぱなしていなかったメルティーナはふふふっと微笑む。
ああ殺気だ。
殺気が満ちている。
「残念ながらメルティーナはこの任務には選ばれていない」
「・・・どういことかしら?」
「以下の者は”美少女戦士”として特殊な任務を負うことになる」
び・・・しょうじょ・・・?
思い切り伸びをしていたカシェルはそのあまりのも混沌とした単語に体を硬直させ、肩を攣ってしまった。
「ジェイクリーナス。お前がリーダーだ。ラウリィ。お前も選ばれた。バドラック、お前もだ。・・・以上」
「・・・・・・・以上って・・・ヴァルキリー。美少女・・・って・・・?」
「言うな。オーディン様の手紙にはこれだけしか書いていなかった」
「・・・はあ?」
オーディンってもしかしなくてもバカなのか。
そんな雰囲気が流れはじめたが、レナスも特に反論はでないようで苦しげな顔をして俯いている。
「待て。美少女戦士ってなんなんだよ!ちんどん屋か!」
「美少女戦士の定義なら私が説明してあげるわ」
「フレイ!何故ここに・・・!!」
突然現れた女神にもエインフェリア達は動揺することがなかった。
美少女戦士に選ばれたのはなぜだか知らないけれども、エインフェリア達の中でも個性的な弓使いの三人だ・・・。なぜだ。何処に美少女の要素があるんだ。
「私はオーディン様の片腕として働いているフレイというわ」
「私の上司でもある」
「今回の件については特別に私が説明するから黙って聴くのよ。・・・古来より世界に危機が満ちたとき、汚れを知らぬ乙女が神より聖なる力を授かって戦う・・・それが美少女戦士。レナスも知っているでしょう?」
「・・・ああ」
「そして今回も世界に危機が訪れた。・・・ジェイクリーナス」
「・・・」
「貴方にこれを託します。これは魔法のステッキです」
意味もないくらいに可愛らしい魔法のステッキを手渡された地味系ジェイクリーナス。
これは新手の拷問なのか。
「貴方は美少女戦士のリーダーを任されたわ。意味が解るかしら?」
自分が・・・リーダー。
主に裏切られ、死んだ自分に・・・また命令が下った。
それは戦士として!戦士の前に美少女がつくけれども戦士として!
これほど嬉しいこともない。
地味系でありながらも情熱的な男ジェイクリーナスのハートに火がついた。
それは地獄の業火のように熱く、溶岩のように吹き上げるなんだかよくわからないけれども熱い炎だった。
「ジェイクリーナス。お前を美少女戦士ジェイクリーナスのリーダーに命じる」
「ありがたき幸せ」
「うわー、もうおしまいだーーー!!」
「ラウリィ。お前を美少女戦士ジェイクリーナスのメンバーに命じる」
「うわーー!」
「どうして名前がジェイクリーナスなんだー!!」
カシェルがなんだか騒いでいるが誰も止めなかった。
自分の言いたいことを全部カシェルが言っているからだ。
「バドラック。お前を美少女戦士ジェイクリーナスのメンバーに命じる」
「ちっ、不運はあいかわらずだが・・・楽しければいいだろう」
こうして情熱親父と楽しければなんでもいい親父と、不幸な少年によって美少女戦士ジェイクリーナスは結成されたのであった。



「特定の敵が現れたとき、レナスに渡した”正義のペンダント”が反応を示すわ。その時は速やかに変身し敵と戦いなさい」
「敵の種類はなんだねーちゃん」
「解らない。これは私も知らないこと」
「ケツさわらせて」
「エーテルストライク!!・・・愚かな・・・ジェイク・ブルーよ・・・」
「うわ・・・イメージカラーまで決まってきた・・・」
アリューゼは目の前で繰り広げられるわけのわからない騒ぎを見ながら独り言を呟いた。
どう見ても突発的な任務だったらしく部隊名も決まっていないし・・・むしろリーダーの名前だし・・・美少女戦士につきもののイメージカラーも今フレイが決めたらしい。
「私達、なんて神に仕えているのよ・・・」
「・・・でも、拒否権なんてあると思うか?」
「まあ私は関わっていないからどうでもいいんだけど」
メルティーナは退屈したみたいで、近くの切り株に腰を下ろした。切り株の近くではカシェルが悟りを開いている。
「のう、アリューゼ」
「なんだジェラード」
「わらわもやりたい」
「だめだー!!」
こっちもこっちで大変そうだ。
「とにかく、ジェイク・レッドの言うことに従うのよジェイク・・・イエロー」
「僕・・・イエローか・・・」
「フレイ、ありがとう」
「何かあったら駆け付けるわ」
「・・・こちらも美少女戦士ジェイクの乙女達を導けるように努力する」
「頼むわ。・・・それじゃあ私は行くから。また会いましょう」
「解った」



「・・・で、どうだった?」
オーディンはにこにこと嬉しそうな顔でフレイを出迎えた。
「はい。三人にステッキの使用方法と心得、そしてこれからの事を教えて参りました」
「待て。・・・お前も選んだはずだが?」
「・・・オーディン様が選んだのはジェイクリーナス、ラウリィ、バドラックの三名でしょう」
「・・・」
え?
オーディンはなんとか無表情で切り抜けることに成功した。
待て。
自分は、美女戦士をくんだはずなのに・・・フレイに、レナスに、メルティーナに・・・。三人を選んだはずなのに。
男なんか選んでないのに。
・・・まさか!
最近寝不足だったから書き間違えてしまったのだろうか!
よりによってなぜ男に・・・!
「レナスも頑張ってくれるようです」
「・・・・・・・・・・あ、ああ、そうか」
「はい」



美少女戦士に選ばれた翌日・・・。
レナスはエインフェリア達を集めてまた会議を開いていた。
「質問じゃ」
「なんだ」
「美少女戦士を知っているそぶりだったが、それはどういうものなのじゃ?」
「具体的には何も知らない。だが、時を越え世界に危機が訪れるときに選定されるものと聞いている」
「選定・・・その役目はあんたのものじゃ?」
「私には姉妹がいる。或いは彼女らなら知っていたかもしれない」
「・・・ふーん」
大して美少女戦士に興味のないアリューゼは生返事を返しながら自慢の大剣を研ぎ石で磨いていた。
「にしても、そういう場合の敵ってどうなんだ?」
「それも不明確だ。だが・・・」
「だが?」
「我らが敵とするアース神族ではなさそうだ」
「その根拠は」
「・・・年代を経ても、再び選定される美少女戦士・・・その時々に戦況がかわるこの世界で絶対に敵の組織や種族があるとは思えない」
「だが選定はオーディンによってされた」
「このステッキは元々アーティファクトみたいだ」
詳しいことは解らない。
今回、選定はオーディンによってなされた。
ただの寝不足による間違いだったのだが・・・。
「それに・・・ここにいる人間をアース神族を敵とした場合選ぶ根拠は?・・・ヴァルハラに送っているエインフェリアを選ぶべきだ」
「・・・確かに」
「っていうことは、この世界で何か起こると言うことですか?・・・あ、ジェラート様。お口のまわりに苺の汁がついてますよ」
「すまんのぉ」
ほのぼのとジェラートの唇のまわりについた苺の汁を綺麗なハンカチ・・・勿論真っ白・・・で拭ってあげたロウファを見て、レナスは少しだけ体の力を抜いて答えた。
「その可能性が高いな」
「・・・んでも、神界よりも敵の組織や種族がころころかわるのが人間界だぜ?」
「一体、誰と戦う事になるのやら」
「やだー!戦いたくないー!!」
「まあおもしろいからいいじゃないか」
「やだーーー!!」
ラウリィの哀れな叫びは鋼の心臓をもつエインフェリア達さえも同情させた。
ジェイクリーナスはやる気たっぷりだし、バドラックは既に状況を楽しんでいるし・・・。
1人だけ適応できないラウリィの、そのあまりにも哀れな叫び声。
誰もが俯いた。
「・・・美少女戦士でしか倒せない敵なのかもしれないな」
「そういう場合って俺達サポートするのか?」
「いや、美少女戦士だけで倒すのがスジらしい」
「面倒だな」
「・・・だが、手助けがいるな。・・・付き人が」
「あ、俺腹が」
「カシェル」
「あー、あー、きこえなーい」
「ありがとう」
「うわーーー!!」
なんで俺なんだーー!!
美少女戦士の付き人に選ばれてしまったカシェルが絶叫している。
「羨ましいのぉ」
「やめとけやめとけ」
「女装した男の姿を見続けるはめになるとは・・・哀れな」
「まあまあ泣くなカシェル」
「エイミ!!」
「あたしゃそっちにゃいかないけど、同情はしてあげるよ」
「エイミィィ!!」
「頼む」
「・・・わぁったよ・・・わぁったよ・・・」
「がんばってください」
「ラウリィ、お前ががんばるんだろうがーーー!!」
こうして無事に新たな生け贄・・・役職が決まったとき、ジェイクリーナスのはだけた胸元にぶりさげられた可愛らしいハート形のペンダントが可愛らしいメロディを奏でた。
かーなりジェイクリーナスにペンダントが似合っていない。
「これって・・・まさか・・・!」
「みろ、ハートの色がどす黒く染まっていく!」
「・・・レナス!」
「・・・聞こえる・・・北東の方角だな。・・・不死者が集まってくる・・・」
「ここらは俺達に任せときな。・・・ジェイク、そっちは頼んだ」
「承知した」
「ではいくぞ!」



部隊は二つに分かれた。
片方は不死者の掃討を。
もう一つは大きな反応のあったポイントへ向かう部隊へ。
そのポイントの先には洞窟があった。
だがただの洞窟ではない。
「・・・建造物がある」
洞窟に入って暫く歩くと建造物が見えてきた。洞窟の中に立派な館がある。
何かの封印が解けたのだろうか?
・・・いや、違う。
何ものかが侵入したのだ。
「気を引き締めていこう。・・・カシェル」
「アイテムなら任せとけ」
「暗闇でデートたぁ良いコースだよな」
「任務が私を待っている!」
「みなさんがんばってください」
「お前も頑張るんだよ!」
帰ろうとしているラウリィをカシェルが捕獲してずるずると引きずっていく。
ああ、やっぱりカシェルをつれてきてよかった。・・・何もしないのも可哀想だからあとで人物特性をあげておいてやろう。
館の中は明るかった。
誰かが来て灯をともしたに違いない。
前時代的なインテリアながら、品よく纏まっている。
洞窟の中に無ければ普通の館だっただろう。
「・・・一体ここは、なんなんだ?何故こんなところに館が・・・」
「隠れなければいけない事情があったのかもしれないな」
「何のために?」
「・・・或いはここに何か隠されてあったか・・・だ。この先は・・・」
てくてくと歩いていくと巨大な扉が見えた。
この先にいる。
誰もが確信を持っていた。
「これも違う!」
扉を開けると、男の声が聞こえた。
「ヴィルノアのガノッサだな」
「あれがそうか」
「・・・なんだ、貴様らは」
館の中にある祭壇で何かをしていた男・・・ヴィルノアの軍の最高権力者であるガノッサは大陸全てを睨むといわれる力の強い目でレナスらに向き直った。
「・・・あいつ、だな」
「何をしていた!」
ジェイクリーナスが意味もなく熱く叫ぶ。
美少女戦士のノリではない。
「捜し物だよ。貴様らもか?」
「俺達の捜し物は、どうやらおめぇさんみたいだ」
「巫山戯たことを・・・相手をしてやる暇はない。・・・といったところだが、邪魔者は消そう」
「いいねぇ・・・そういう単純なのが解りやすくて好きだぜ?」
かえりたい。
かえるな。
ラウリィがこっそり帰ろうとしたのをカシェルが引き留めている。
最初からばらばらだ。
「館の守護者らしい・・・さらばだ!」
「あ、待て逃げるな!!」
礼拝堂の彫刻の一つがひび割れ、その中から角の生えた人間のように見えるモンスターが出てきた。
漆黒の翼を広げ、鎌を構える。
「ヴィジュアル的にも、よさげな敵じゃん。よかったな」
「じゃあ頑張れ」
「・・・何をすればいい?」
「魔法のステッキで変身する、と説明書には書いてある」
レナスは説明書を取りだして見始めた。
魔法のステッキはハート形の飾りが特徴的な、どこからどうみても美少女戦士のための魔法のステッキだった。
「ボタンがついているだろう。それを押しながら”聖なる力よ、ジェイクに力を!”と言うらしい。・・・大声で」
「うわー、本当に大声でって書いてある。あ、あと変身中は恥じらうといいんだって」
「不思議だな。何故恥じらう事が必要なのだ」
「・・・お前ぼけてんな」
レナスはわけわからない、という顔をしながらも美少女戦士に向き直った。
「さあ、美少女戦士エインフェリア・ジェイクリーナスよ!」
「うわー、また名前が伸びたよ」
「・・・ゆくぞ!」
聖なる力よジェイクに力をー!
熱い親父の声と、哀れなほど打ちひしがれた少年の声が礼拝堂に響いた。
それぞれのテーマカラーにあわせた色のハートのステッキが光り始める。
「おおっ!・・・・うげぇ」
光に包まれたと同時に変身が始まった。
服が破れ、新しい服ができる。・・・必要以上の説明はしたくない。
そんな変身のシーンだ。
「正義の名の下に!美少女戦士エインフェリア・ジェイクリーナス見参!!」
ピンクの可愛らしい明らかにペチコート入りのふりふりの乙女ティックワンピースを着たジェイク。
バンダナの代わりにティアラを被ってしまった、ジェイクと同じような服を着ているバドラック。
どうして僕はここにいるの?誰か助けて!状態のわけのわからないふりふりを来たラウリィ。
変身シーンだけで即死できる最強最悪の美少女戦士はここに誕生した。
「・・・武器が再構築されているな」
「あ、ほんとだ」
三人の武器は見事に乙女仕様に生まれ変わっていた。
ちなみに三人のテーマカラーが違うように、シンボルも違う。
ジェイクがハートでバドラックが星でラウリィが三日月だった。
あまり意味はないが武器にそんなシンボルが埋め込まれている。無駄に芸が細かいが殆ど意味はない。
不死者は変身シーンを黙ってみていた。
「やっぱり・・・伝承通り変身シーンは黙ってみるのが理か・・・」
「なんだよそれ」
「先ほどの変身は隙だらけだっただろう?だが攻撃してこなかった」
「・・・ああ。そういえば」
「不思議だな」
そんなレナスとカシェルをおいといて、燃える男ジェイクリーナスはびしぃっと不死者に向かって指をさした。
「魂を冒涜する不死者よ、私の聖なる一撃を受けよ!」
「・・・うわー完全に入りきっているな」
「こんな間抜けな格好早く終わらせたいぜ」
「みなさん、ががががが・・・がばってくだしゃい」
だがいつまでたっても不死者が動かない。
「なんだ・・・?」
「・・・あ」
その時突然不死者の足下から氷・・・いや、あれは晶石だろうか?いきなり晶石が出現し、不死者を包み込んでしまった。
そう・・・敵対した不死者はあまりにもアレな変身シーンを見て現実から逃げ出したのだ。
結果、美少女戦士エインフェリア・ジェイクリーナス不戦勝・・・圧倒的な勝利であり、そして圧倒的な変態性の勝利でもあった。



「墓を作ろう。誰でもない、あいつのために」
「・・・そうだな。墓を作ろう」
「あんたは、いいのか?敵対してんだろ?」
「お前もそうだろう?・・・だが、同情せずにはいられないんだ」
凍ってしまった不死者にレナスとカシェルは黙祷した。
不死者は忌むべきものだが、先ほどのあれは・・・あまりにもアレだった。
同情しない方がオカシイ。
「ふむ・・・不戦勝か・・・だがこれに溺れることなく敵を倒さねば!」
「うわー、ジェイクのおっさん燃えてるよ」
「バドラックは?」
「いつものとーり煙草すってる。・・・ラウリィは・・・泣いてる」
「ほおっといてあげよう。今だけは・・・」
いずれ、またラブリーなペンダントがラブリーなメロディーを奏で、ラウリィを強制的に戦場へ連れて行ってしまうから・・・。
「ってことは、敵はガノッサってことか?」
「可能性が高いな。あいつは神の力を探ろうとしている」
「・・・まあよくわかんねーが、さっさとつぶしに行けば?」
「そういうわけにもいかない。まあ、また何かあったらペンダントが反応するだろう」
「・・・うげぇ」
美少女戦士とは一体なんの事ですか?
柱の影からレナスのストーカー、レザードは漏れる笑みを消せなかった。
ああ、私の戦乙女・・・!
今日も凛々しく美しい。
・・・だが美少女戦士とは先ほどの・・・?何処が女だ。
レザートは美少女戦士の噂・・・何処から噂が流れ何処からレザートの耳に入ったのかは全く不明・・・を聞きつけいつものようにこっそりストーキングしていたのだ。
きっと今回は変身しなかっただけで、次回は変身するのだろう。
「・・・面白いことになりそうですね」
変態錬金術師は軽く微笑んだ。
そして家においてあるレナスちゃん人形のための美少女戦士の服を作ってあげようと早くも構想を始めた。
変態がまた1人、運命に飲み込まれていった・・・。



美少女戦士エインフェリア・ジェイクリーナスの初陣のため、レナスはまた神界に来ていた。
「レナス・・・」
「ああ、私は大丈夫よ」
「そう。よかった。不戦勝ですって?」
「・・・ああ。変身シーンの所為で・・・」
「・・・そう」
「とにかく、オーディン様に会おう」
レナスもフレイも一様に疲れ切った顔をしていた。
美少女戦士の面倒なんて初めてだし・・・おまけにレナスは変身シーンを特等席で見てしまったのだ。
フレイもそんなレナスの身を案じているのか沈痛な面もちで一緒に歩いていく。
城にはいるための架け橋に見慣れぬ看板があった。
「なにかしら、これ」
「・・・橋の中央に来たら思い切り橋を踏め・・・?」
「とにかく・・・守らなければならないわね」
「仕方ない」
橋の真ん中に来ると二人は一緒に橋を思い切り踏んだ。
「これでいいのかしら」
「さあ・・・?」
二人がすたすたと歩いていった後、橋の真ん中に寝転がっていたオーディンは素敵な微笑みを浮かべて立ちあがった。
背中にくっきりと二人の足跡がついている。
「ああ・・・!最高だ!!」
神界は今日も平和です。



「ということです」
「・・・ふむ。そうか。それではまたなにかあったら報告してくれ」
「はっ。・・・ですが、ジェイク・イエローのラウリィが・・・」
「ラウリィがどうした」
「ラウリィをできれば誰かと変えたいのです」
あのままじゃ、可哀想だ。
ジェイクは燃えてるし、バドラックは平気そうだけれども・・・ラウリィは可哀想にめそめそ泣いている。
「・・・こればかりはどうにもできないな」
「・・・そうですか。わかりました」
なぜなら女装した少年もいけるということがわかったからな。
穏やかな顔でオーディンは回想しはじめた。
いや、ふりふりの親父達もいけることがわかった。
・・・オーディンを越える変態は現れることはないだろう。
レナスは心を痛めながらもラウリィに謝った。



適当にダンジョンを渡り歩いているときだった。
ジェイクの胸にあるラブリーなハートのペンダントが、ラブリーな音を鳴らし始めた。
「はっ!敵か!!」
「うわーーん!!」
「ラウリィ!!」
「神の敵め・・・この私が滅せようぞ!!」
ジェイクが燃えている。地味系が燃えている。ラウリィが泣き叫んでいる。・・・あ、バドラックが酒に酔っぱらって寝てしまった!!
美少女戦士はバラバラだった。
「・・・ラウリィ」
「・・・ジェイクリーナスさん」
「お前は、何のために戦う?エインフェリアとなって、何のために!」
「・・・」
「全ては神の為!そうではないか!!・・・さあ立ち上がれ。そして、戦おう!」
うわー、熱い。熱すぎる。
「お待ちなさい、ジェイク・レッド」
「・・・フレイ、何故ここに・・・」
「新たなアーティファクトが見つかったわ。・・・ステッキ二本」
「被害者を二人増やせるというの・・・?」
「オーディン様からの通達よ」
「・・・誰が、犠牲に?」
「ロウファ、洵くらいが一番見ていてダメージ少ないんだけど・・・ベリナス、それにアリューゼ」
「・・・よりによって・・・」
「・・・そう。よりによってが選ばれたのよ・・・」
死の溜息をつく2人の姿に、一瞬名前を呼ばれてびくっとしたロウファとその隣りにいたカシェルの動きが止まった。
・・・神様でも、溜息つくんだ。
「・・・よかったな」
「・・・うん・・・」
「だけど、バドラックが寝てるわ」
「・・・じゃあ・・・」
「あー、腹がいてぇなあ。いてぇなチクショウ」
「逃げるなカシェル。お前は風に吹かれっぱなしの草か」
「・・・草は僕なんですけど・・・」
レナスはカシェルの前に立った。
そして、バドラックのステッキを手渡す。
「頼む」
「・・・うわー!!」



今度の戦場は、朽ちかけた神殿だった。
白い大理石で出来た太い柱は、崩れているところもあるしまだまだ立っているところもある。
古い神殿だ。
そこに反応があった。
燃える地味系ジェイクを先頭に、熱き親父ベリナスが後に続く。
二人は燃えていた。
「・・・よりによってベリナスが・・・」
「・・・よりによって・・・」
アリューゼとカシェルはラウリィを挟みながら走っていく。
神殿の奥深くの祭壇に、ガノッサがいた。
「・・・また違うのか」
「大人しくしろガノッサ!」
「・・・お前らはこの前の・・・」
祭壇の上に置かれてあった小さな金色の箱を手に持ちながらガノッサはやれやれ・・・といった感じで振り返った。
今回は側に・・・暗殺者らしき男が二人ほどいる。
「しつこい奴らだ。・・・わしは忙しいのでな。あとは・・・やれ」
「待て!・・・くっ!!」
「お前達の相手は俺達だ!」
「・・・変身だ!」
ジェイクがラブリーなステッキを上空に掲げ、ベリナスも「解った!」と熱くステッキを上空に掲げた。
「・・・やるのか」
「やるんじゃないのかなあ」
「・・・ううう・・・」
その他三人は弱々しい手つきで空へとステッキを掲げた。
・・・あああ・・・やばい光が全てを覆う。
変身シーンは・・・やっぱりとんでもなかった。
「・・・ああ!カシェル、お前ポニーテールになってるぞ!」
「え!?」
「しかも巨大なリボンつきだ!!」
「・・・ギャー!!」
「うう・・・帰りたい・・・」
「相手にとって不足はない!」
ふりふりの、親父達。
やっぱり半裸のベルセルク風青年。
泣いている可哀想なふりふり少年。
それを慰めるでっかいリボンの青年。
カオス。
カオスエクストリーム。
理解できない。
ホワッツ?
「・・・な、な、なんなんだこの変態どもはー!」
「変態いうな!」
「やめろ、動くな!スカートが揺れてる!」
「・・・うう・・・」
レナスは口元を覆った。・・・すまない、すまないエインフェリア達・・・!
このユニフォームを気にしないのは使命に燃えるジェイクとベリナスだけだ。
「ええい、とっとと始末しよう!こんな変態共!」
「そこまでじゃ!」
暗殺者達が美少女戦士達に飛びかかろうとしたその時、上の方から聞き慣れた声が聞こえた。
「・・・ジェラート?」
「プリンス・ジェラートじゃ!」
とうっと飛び降りてきたのは王子様ルックで、仮面をつけているジェラートだった。
「・・・やりたかったのか」
「・・・うん」
「・・・そうか・・・」
「・・・悪いか。フレイにもらった」
「・・・よかったな」
「ふはははは、そこまでです」
「なんでお前もー!?」
レザードの変質的な笑い声も響いてきた。・・・ああ、世界の法則が崩れていく・・・!!
ジェラートと同じように飛び降りてきたレザードはやっぱりレナスの隣りに降りてきた。こっちは黒いタキシードを着ている。ちなみに白いマスクを被っているのだが、マスクの上からメガネを付けている。・・・微妙だ。
「貴方は私が守りますよ・・・くっくっく・・・」
「・・・なぜ・・・」
「・・・おや、ヴァルキュリア様。変身していらっしゃらないようですが」
「・・・?・・・私は変身しない。変身するのはあいつらだ」
指差した先には暗殺者に向かっていくジェイクとベリナスがいた。
「心の痛みを知らぬものめ!」
「見ろ、これが俺の最高の技だ!!」
濃い。
濃すぎる。
そして熱すぎる。
動くたびにスカートが揺れていやーんだ。
「噂では、貴方が美女戦士になっていると・・・」
「美女戦士?美少女戦士だ」
「・・・美少女はいないようですが。まあ、でもいいです。こうして愛しの貴方と出会えたのですから・・・!」
「相変わらず変態ね」
「メルティーナ。・・・私が羨ましいですか」
「だまりな変態」
カオスが拡散していく。
だが、そんな事態をものともせずにふりふりな服をはためかせ、二人は敵を追いつめていく。
敵はもう半泣きだ。
不死者だって凍ってしまった状況を見ても彼らは頑張って職務を遂行しようとしていた。これは凄いことなのだ。・・・だが、もう精神的にも限界のようだ。
「ジェイク・レッド。必殺技で葬れ・・・とフレイにいわれた」
「ああ・・・貴方の声を聞くだけで私の心は甘く震えます・・・素晴らしい・・・」
「・・・どうにかしてくれ」
「しらないわよ。・・・可哀想に、レナス・・・」
必殺技。
美少女戦士には必殺技があるのだ。
「行くぞ!」
「・・・えーいこんちくしょう!いくぞ!いっちゃうぞ!」
「やらなきゃ、いけないのか・・・」
「・・・いきます・・・」
五人が横並びにならんだ。
後ろから見ても相当凄い光景だから、前から見ても相当凄い光景なのだろう。
「これが、俺の最高の技だ!」
「心の痛みを知らぬものめ!」
「・・・神の・・・うう・・・名の下に・・・かえりたい・・・」
「・・・てめぇの顔も見飽きたぜ・・・」
「・・・・・・・ここは俺がキメるぜ・・・」
それぞれの武器に、謎のピンクの光が集まってくる。
とっても可愛らしいピンクなので更にいやーんな感じが増している。
でも・・・目を背けてはならない。
必死で頑張っているのだから。
「奥義!・・・ジェイク・ブレイク!!」
そのまんまの名前ね。
・・・そうね。
巨大なハートが五人の武器から形成され、ジェイクが弓を構え・・・うつ。
ハートは撃たれ、その衝撃で暗殺者×2にむかう。
・・・ああ、キラキラしている。
世界がキラリンティーヌ。
二人は、巨大なハートに消えていった・・・。



「・・・墓を作ろう」
「誰でもない、彼らのために」
「・・・おかしいわ。こんな感情、初めてよ」
「・・・だが妙に馴染む」
「これが、哀しみというの?」
レナス、フレイ・・・そしてなぜかメルティーナまで墓作りに専念していた。
”勇敢に戦いし者、ここに眠る”
フレイは一振りの剣を作り出し、床に刺した。
「・・・貴方達には過酷な運命が待ち受けているわ。・・・でも、それを乗り越えた先に正義があるのよ」
「そう・・・正義は信じるものよね」
「だから・・・行きなさい」
「・・・美少女戦士、撤退するぞ」



地獄の第二話・そして最終章