人体素描

 近頃ジェンダーの問題などから、女性の裸体を描写することを男性社会の悪しき遺風として見る論があり、それに従ってヌードを忌避する女流に出会ったこともある。私も「そう思えば」と思い当たる節がないでもない。対象を美しいと思って見、その感動を表現しようとすることに何のやましさもないと言いたいところだが、その感動の何割かが性的な官能と無縁ではないなとも思うのだ。しかしだとしたら花も描いてはいけないのか。花は明らかに性器でありその故に美しく装っているのではないかなどと言いたくなり、自然の中に生きるものの姿態に関して、美的感動と官能の喜びを明確に切り分けることができるものなのか、などと考えていくと、やはりそんなことにとらわれずに自分が描きたいもの、つまり感動を呼び覚ますもののひとつとして裸体も描けばよいじゃないかと言うことに落ち着いてしまう。
 もともと人体の形態は同じ人間にとって最も身近な存在であり、強い関心の対象である。体つきにはそれぞれ個性があって、必ずしも美しいといえない場合もあるが、一定のプロポーションとシンメトリーを基本とする形態をもち、絶えず微妙なバランスの下で姿態を変えながら彫刻的な一個の物体として完結しており、動態(ムーブマン)も常に内在するから、やはりこれはデッサンの勉強のための最善のモチーフであることにちがいはなく、古来からの文化遺産として今後も重宝すべきがこの世界の幸福だと思うのである。
 なおその経験のない方々のためにはっきり断っておくが、実際描くに当たって、一旦描き始めれば、ただ対象の解釈と表現に没入するのみで、性的な情動など構ってはいられないのが実状である。私は毎週一度仲間とモデルを囲むのだが、その雰囲気は(他人が見たら多分驚くほどに)まじめ真剣であり、先に述べた官能のジェンダーのといったことなどはてんで問題にならない雰囲気である。ちなみにその会には女性の会員もおり、男性のモデルもしばしば登場する。

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水彩画はF6かB3のの水彩画紙使用。ポーズは20分6回。
モノクロームはB4着色紙に鉛筆と白チョーク(コンテ)。ポーズは20分一回または2回。

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